第4話
「俺たちってクラスの端っこにいるじゃん? それは俺たちが違う星から来たスパイで、こっそりこの地球を偵察しに来ていて、あまり目立ちすぎるといけないからだ。それで時々スパイの俺とお前はこの紙コップに似た無線糸電話で情報交換をする。地球人はあーだこーだって。俺たちだけが本当のことを知ってる。そう考えると楽しくない?」
愉快そうに彼は紙コップを耳につけた。「ほらお前も」と僕にもさせようとしてきたが、もちろんやらなかった。
「なんだそれ。君は生きていて楽しそうだね」
また皮肉を込めて言ってやったのに、彼は「楽しーよ」と馬鹿みたいに笑った。不覚にも僕はそれにつられて馬鹿みたいに笑ってしまったが、すぐに冷静になり真顔に戻した。久しぶりの表情筋が痛い。
気づけば二人とも食べ終えていて、僕らはトレーを返却口に戻した。戻す時に、山内につられて「ありがとうございました」を言ってしまった自分に少し驚いた。呟くような小声だったけど。
紙コップなどの捨てられるものはトレーに乗せたままにせず、自分で捨てるというのがこの食堂のルールだ。いつも捨てているようにゴミ箱に紙コップを投げようとした時、なぜか今日はその紙コップが名残惜しく感じられた。そんな自分が馬鹿らしくて紙コップをつぶして捨てた。紙コップはカサっといってゴミ箱に消えた。そんなもんだ。
でも、つぶれた紙コップに少し傷ついている自分に気づいた。
横の「教室にいるときのモード」に切り替えたらしい山内を見て、もしかしてあの紙コップの話は山内なりに脈略のある話で、ある種の優しさだったんじゃないかと思って、そしてすぐにその考えを否定した。山内に限って。
口元がやけに涼しいことに気づき、マスクをし忘れていることに気が付いた。何故だろう。してないと不安になるはずなのに。ポケットからマスクを取り出して深めにつけた。
教室に戻る。その瞬間が嫌いだった。一人で立ち向かっていく感じがするからだ。しかし今日はいつもと感覚が違う気がした。少なくとも一人ではないと思えたような気がした。
山内を見る。僕にも馬鹿が移り始めているのかもしれない。
紙コップとマスク 矢凪祐人 @Monokuro_Rekishi
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