第3話

 その時、校内放送が始まった。この学校では昼のある時間になると校内放送で音楽を流すのだ。その時流れた音楽は僕のよく聞いているボカロで、暗い曲だった。好きな曲が流れたことに少し嬉しくなったのと同時に一つの不安が僕の頭をもたげた。


「あれ? これって宮野の好きなボカロの曲だよね」


 不安ばかりが的中してしまう。ボカロには変な偏見があって、それに当てはめられるのが嫌だった。それに、自分の好きなものを知られるのはもともと苦手だった。自分のことを勘繰られるのが嫌だった。

 

 僕は周りを確認し、山内の言葉が誰かに聞かれていないか確認する。周りの人は会話に夢中のようで誰も聞いていないようだった。ホッとすると同時に、自意識過剰な自分が恥ずかしくなった。


「そうだけど。あんま言わないで」

 なんでこいつに好きな曲を知られてしまったんだ、と過去の行動に後悔する。

 

 その日僕は昼ご飯を終え、人のいない中庭の階段でイヤホンを耳にかけて音楽を聴いていた。昼の心地いい日差しに僕は不覚にもうとうとしてしまった。うとうとして揺れたことで、イヤホンジャックがスマホから抜けたことにも気づかず、僕は再生が止まってしまったことを不思議に思いながら、最悪にも再生ボタンを押した。スマホのスピーカーから大音量で流れる音楽に、僕は一気に目を覚まし、慌てて再生を止めたが、いつも昼休みに意味なくいろんなところを歩き回っている山内に聞かれてしまった。思えばそのあたりから彼は勝手に食事を一緒に取るようになった。いろんな意味であれは大失敗だった。


「宮野ってそういうことあるよな。本当に直したほうがいいと思うよ」

 山内に似合わない真剣なトーンに僕はビクっとしてしまったが、数秒後に彼はおいしそうにラーメンを食べ始めたので拍子抜けしてしまった。本当にそういうやつだ。山内は。


 そして彼は目の前の紙コップを見て何か思いついたのか、目を輝かせた。「ちょっと聞いてくれよ」と彼が面白い(彼はそう思っている)話をする時の口癖で会話の脈略というものを無視した話を始めた。

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