第2話
山内は空気を読めない。察しも悪い。それなのに根本的にはおしゃべりだ。だから人とうまく会話ができない。会話や人間関係で様々な失敗をしてきたのだろう。そのせいで人と会話するのに消極的になっていったのだろう。僕のような、会話のうまくない同類を見ると本性を現すことがあるが、「普通の人」の前では「寡黙な人」の殻にこもってやり過ごす。
だから、彼が僕の心情を言い当てたのは、決して彼が察しの良い人であったからではない。彼は、そうだったら面白い、と思って言ってみただけなのである。
そう自分の中の動揺する自分に言い聞かせ、セルフサービスの紙コップに入った水をあおった。
「そうだったら面白かったのにね。そんなことないよ」
至って冷静な口調で山内の「勘違い」を訂正すると、彼は「なんだよ」と言ってつまらなそうに窓の外を見た。
僕はなくなってしまった水を入れに行こうと席を立った。山内のトレーには紙コップはなく、まだ取りに行っていないようだった。一緒に取って来てあげようかと悩み、彼にそんなことをしてやる義理はないと結論づいた時、彼は「一緒に俺の分も取ってきて」と言った。
モヤモヤとしたまま、二つの水の入った紙コップを手にテーブルへ戻ると、山内は僕のマスクに興味を示している様だった。彼の興味は移りやすい。あるいは彼には集中力がない。
「そういえば宮野ってさ、なんでいつもマスクつけてんの?」
明確な理由はなかった。つけていると安心できるのだ。一枚、自分の顔に覆いがあるだけで周りと自分の間に距離ができ、自分は一歩引くことができる。それは見えない壁のようなものだ。頭に浮かんだ、理由ともつかない理由を僕は黙っておくことにした。代わりに適当な理由を説明した。
「いや、別に。少し喉が弱いからつけてる」
「そっか」
山内はまたつまらなそうに窓の外を眺めた。それを見た僕の心に罪悪感のようなものが芽生えた。なぜ僕は嘘をついてしまうのだろう。しかし、改めて「いや、あれは嘘でね」と本当のことを話すのも違うと思った。僕は入れてきたばかりの水をあおった。人との昼食の時、水が減るのが早い。
しばらく沈黙して二人は昼食を食べた。山内のラーメンをすする音がやけに大きかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます