第26話 藍染さんは多分、変な人
「あのさ、さっきからちょっとだけ思っていたんだけど。坂鳥君、私との距離と遠くない? 目も合わせてくれないし。……もしかして私、嫌われてる?」
ショッピングモール内で何故か合流することになった藍染さんがそんな事を聞いてくる。
仕方がないじゃないか。僕は相手とまともに話せるようになるまで時間が掛かるんだ。といってもそんな事、藍染さんが知っているわけでもないし……どうしたものだろう。これじゃあ僕のせいでデートがお通夜になってしまう。まぁ藍染さんが合流した時点でデートとしては破綻してしまっているのだが。
困り果てた僕は助けを求めるように夕凪さんの方を見る。すると夕凪さんは何か合点がいったのか、僕を見て軽く頷いた後、藍染さんの方に向き直った。
「そうね。多分、いや、間違いなく藍染さんは苦手意識を持たれているわ」
「うっそ!? 私坂鳥君に何かしたっけ? 全然心当たりが無いんだけど……」
バッと音が出そうな勢いで僕のことを見てくる。そして僕もつい、バッと音が出る勢いでそっぽを向いてしまった。しまった、と思った時にはもう遅い、チラリと目線だけ藍染さんに向けると、彼女はどこか悲しそうな顔で僕のことを見ていた。
僕は再度夕凪さんに視線で助けを求めると、分かってますよと言わんばかりの表情で頷いた。
「私が貴女の性癖を坂鳥君に事細かく説明したのよ」
「何でそんな事したの!?」
藍染さんは驚愕の表情である。当然だ、僕だって自分の性癖を他人に言われた事を知ったら、似たような表情をするだろう。
でもそれが原因ってわけじゃないんだけどなぁ。顔を合わせ辛いとは思っていたのは事実だけど……
「大丈夫だよ? 怖くないよ? 坂鳥君はそもそも体重が全然足りなさそうだし、襲ったりしないよ?」
藍染さんはテンパって変な事を言っている。もし僕の体重が百キロを超えてたりなんかしていたら、襲われていたのだろうか……
「別に藍染さんのことが苦手とかそういうわけじゃないんだ。だからその……気にしないで」
なけなしの勇気を振り絞り、何とか言葉を紡ぐ。
「若干気を使われている気がするけど……まぁ、坂鳥君が大丈夫って言うなら信じるよ」
「建前よ」
「そういうこと言わないでもらえるかな!? 私そろそろ泣いちゃうよ!?」
夕凪さん、埋まりつつあった僕と藍染さんの溝がまた広がったんだけど。ほら、涙目になっちゃってるじゃないか。どうすんのさこの空気。まぁ、もともとは僕の責任なのだから、声を大にして言うことはできないんだけど。
「僕は大丈夫だよ。それよりも、夕凪さんの服を一緒に選んでくれるんだよね。僕そういうのに疎いからさ、藍染さんに協力してもらえると嬉しいな」
藍染さんに話を振ると、ぱあっと花が咲いたような笑顔になる。
「まっかせて! 私が超かわいい焦ちゃんの姿を見せてあげる!」
そう口にした後、早速と言わんがばかりに服の物色を始めた。協力とはいったい……
「さて、私たちも服を選びましょうか。坂鳥君のセンスには期待しているわ」
「できるだけのことはしてみるよ」
「坂鳥君がちゃんと選んでくれた服ならなんだって着てあげるわよ」
「ありがと。夕凪さんはさ、普段どんな服を着るの?」
「そうね……少なくとも今日着てきた服みたいなのは全く着ないわ。ジャージとかが多いかしら」
ジャージって……ぼっちで若干引きこもり気味な僕だってまだマシな恰好をしている気がする。パーカーとかね。パーカーって最高だよね。着るだけで何となくお洒落な気がするもん。着心地もいいし。
「それ全く参考にならないんだけど。ジャージ以外は何かないの?」
「ジャージ以外……なかなか思いつかないわね。ほら、私って文学少女じゃない? 普段から家にこもりっきりで、外にほとんど出ないのよ。本も学校の帰りに買ったりするし」
「じゃあ一緒に考えてみようか。お互い初心者みたいだし」
「そうね」
しばらくあーでもないこーでもないと二人で試行錯誤しながら服を選んでいると、先ほど姿を消した藍染さんが、大量の服を持って僕たちの前に帰ってきた。
「二人ともお待たせ!」
「おかえり」
「あら、もう帰って来たのね。自身が無くなったから尻尾をまいて逃げてしまったのかと思ったわ」
「今焦ちゃんが着ている服選んだのも私なんだけど……まぁいいけどね! それより坂鳥君、準備はできてる?」
「えっと、準備って何のことかな?」
「私と戦う準備に決まってるじゃん!」
はて? 彼女は何を言っているのだろうか。
「藍染さん、いくらドМ由来の防御力を有しているとはいっても、坂鳥君に殴り合いの喧嘩を挑むなんて無謀だと思うわ」
「違うんだけど!? それに私、Mじゃないし!」
いやそれはどうだろうか。
「ここは服屋さんだよ。なら勝負内容は一つしかないよね」
そう言って藍染さんは僕たちの目の前にあるテーブルの上に洋服を並べていく。元から置いてあった洋服が見えなくなってしまっているんだけど、これって怒られたりしないのかな?
「これから坂鳥君と私が選んだ服を交互に来てもらって、焦ちゃんに採点してもらおうと思います。用意するのはこれだと思う一着のみ。坂鳥君はファッションにあまり詳しくないって聞いたから、私が独断と偏見で選んでみたよ。ここに置いてある服を使ってもいいし、自分のセンスで探してくるのもOK。準備が出来たら私に話しかけてね」
結局、藍染さんのいう協力とはいったい何だったのだろうか……
坂鳥潤の自己満足 春野霖 @haru-no-nagame
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。坂鳥潤の自己満足の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます