第2話 審査
「ここが審査会場か……」
瀧氷は目の前の何の変哲もない正方形の三階建ての建物を見上げて呟いた。
手には結婚相談所に行った数日後に郵送で届いた誓約書を提出した後に、審査会場の地図と共に届いた、審査を受けるために必要なカード形式の認定証が握られている。
(よし、いくぞ。どうせ審査はタダで受けられるんだし)
決意した瀧氷は、一歩踏み出し建物の中へと入っていく。
中は病院の待合室のような感じで入ってすぐのところに受付カウンターと、訪問者が待っている間に座るために設けられたと思われる椅子とその傍に本棚があった。
しかし中に人はおらず、空気もしんと静まり返っている。
どうすればいいのか瀧氷が右往左往していると、カウンターの奥にある扉が音もなく突然開き、そこから一人の職員が現れた。
「こんにちは。審査に来られた方ですか? 私はここの職員のポルカと申します。まずは認定証を拝見致しますね」
瀧氷に落ち着いた口調で語り掛けたポルカは、人間ではなく異星人だった。ただ目の瞳の部分が横長であることと、耳が若干細長くたれ気味なことを除けば、さほど人間とは変わらない見た目をしている。身に着けている衣服もそこら辺にある服屋で買えそうな、ごく普通な感じのスーツだ。
それでも田舎住みの彼にとっては衝撃が大きく、瀧氷はポルカの方を見ながら驚きのあまり固まってしまう。そんな瀧氷を他所にポルカは手慣れた様子で未だに固まっている彼の手から認定証をそっと取り、自分の手に持っている端末にかざす。
「はい、認定証は問題ありませんね。それでは私の後についてきてください」
「あ、はい! よろしくお願いします!」
ポルカの優しげな声にようやく硬直が解けた瀧氷は、慌ててポルカの後についていき、エレベータに乗り込む。瀧氷は何か話しかけるべきかと悩むものの、何を話しかければいいのかよくわからず、エレベータの床とポルカの間で目線をしきりに行ったり来たりさせている。
そんな瀧氷の様子に気づいたのか、ポルカは優しげに微笑む。
「ここに来た皆さんは瀧氷様のように緊張される方が多いですが、審査と言っても長くても数分で終わるものですから、あまり緊張なさらなくても大丈夫ですよ」
「えっ、数分で終わるんですか?」
「はい、審査といっても機械で判定するだけですから」
ならわざわざここに来る必要もないのではと思った瀧氷であったが、あえて発言して印象を悪くする必要もないだろうと思い、言葉が出掛かった口から代わりに息を吐いて黙る。
「それではこちらの部屋へお願いします」
エレベータに降りてすぐの正面の部屋に促されるままに入っていく。
中は五メートル四方ほどの広さがあり、窓も照明もないが壁がほのかに暖色系の光を発しており、室内は寝る前に過ごすには丁度良さそうな明るさになっている。
部屋の中央に薄緑色に発光する大人が複数人入ってもまだ余裕がありそうな中が透けて見える外装が膜のような薄さのボックスがあり、それ以外には何も設置されていない殺風景な感じだ。
瀧氷は部屋の中央にあるボックスを見て、まるで昔のゲームで見るセーブポイントとか転移装置みたいだな。と驚きと共に懐かしさを感じた。
「それではこちらの薄緑色の空間の中に、お召し物を全て脱いでからお入りください」
「えっ全部ですか?」
「はい、全部です。審査が完了すれば空間を包んでいる色が消えますから、その後に服を着てから私をお呼び下さい。それでは私は一旦退出させていただきますね」
そう言ってポルカは瀧氷一人を部屋に残し、足早に退出していった。
(自宅に来た封書に入っていた誓約書に、審査では何が起こっても訴えないと書いてあったのはこの為か……)
瀧氷は契約書の内容を思い出し不安に思いつつも、やらなければ前に進まないと自分に聞きかせ、衣服を全て脱いでからどう入ればいいんだと頭を捻りながらとりあえず、薄緑色のボックスに手で触れようとする。
だが瀧氷の手は何の抵抗もなく通過し、まるで通り抜けた感触もなければ熱さや冷たさも感じなれなかった。
意味もなく何度も手を入れたり出したりして、しばらく遊んでいた瀧氷だったが、ポルカを待たせていることを思い出し、意味もなく部屋の中を見回してから軽く咳払いして、薄緑色のボックスの中にぴょんと飛び込んだ。
しかしそのまま数秒が過ぎても何も起こる気配がない。壊れているのか、と瀧氷が疑問を抱いたところでボックスの色が薄緑から青、赤と目まぐるしく変化していく。
瀧氷がまるで虹みたいだなと平凡な感想を抱いていると、すぐにその変化は収まり、ポルカの言った通り色が消失し、あとには薄暗い部屋で間抜け面を晒している全裸の瀧氷の姿だけが残された。
「えっ、もう終わり?」
審査は長くても数分で終わると聞いたが、予想以上の短さに瀧氷はあちこちに意味もなくと顔を向けながら、驚きの声を漏す。
こんなことで一体何がわかるのだろうかと疑問に思う瀧氷であったが、すぐに考えるだけ無駄だと判断する。そして言われた通りに服を着てから、扉の向こうにいるであろうポルカに声を掛ける。
「あの審査が終わったみたいです」
瀧氷がそう扉の方に声を掛けてから少し間を空けて再び、ポルカが部屋の中に入ってくる。
「審査お疲れ様でした、こちらが審査の結果になります」
そう言ってポルカは手に持っていた端末の画面を瀧氷に見せる。
そこには大きく合格という文字が表示されていた。
「おめでとうございます。瀧氷様がこの国で三十三人目の合格者です。それでは詳しい説明を行いますので、隣の部屋へお願い致します」
「わ、わかりました」
ポルカから告げられた言葉に、疑念を抱いていた瀧氷の心の中は一瞬にして、喜びと戸惑いの感情で満ちる。素直に喜べないのは審査が終わるのが早すぎたからだ。彼の中で審査というものは、もっと時間を掛けて行うイメージが強く、あまりもの速さに彼の中で何かを乗り越えたという実感がついてこれないでいた。
「そちらのソファーにお座りください」
「えっ…あっ、はい」
気がついたら別の部屋に移動していることに気づいた瀧氷は促されるままにソファーに座る。部屋の中は十畳ほどの広さで内装は会議室か応接室のような感じだ。
中央に大きな正方形テーブルがあり、それを囲うように高級感の漂う黒色のソファーが置かれている。
瀧氷が座ったことを確認した後、ポルカは壁際の棚からファイルを取り出すと、テーブルを挟み彼と対面する形で座る。
「それでは改めまして、審査合格おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
ポルカが深々とお辞儀をしたのを見て、瀧氷も頭の後ろに手を回しながら照れた様子で頭を下げる。
「審査に合格されたということで、最終確認の意味も含めてこちらの書類をご確認下さい。書類に問題なければサインをお願いします。疑問点があれば私にお気軽にご質問下さい」
ポルカはそう言って瀧氷に二枚の書類を差し出す。目を通してみると一枚が異星人との婚活についての説明が書かれた紙でもう一枚が同意書になっていた。
婚活についての説明がある書類には様々な内容が記載されていたが、瀧氷が特に気になったのは次の三点だ。
・異星人との婚活は最低五人異星人の妻を娶るまで継続する。
・異星人と婚活をする場合、地球人女性と婚活することは不可とする。
・異星人との結婚が成立するまで、異星人の職員が一名護衛につく。
特に最初の最低三人の異星人の妻を娶るまで婚活を継続する。というのは瀧氷の価値観からすると到底理解出来ないものだったので、さっそくこの点についてポルカに質問することにした。
「あの何点か質問があるんですが、まずこの最低五人異星人の妻を娶るっていうのはどういうことなんでしょうか? 世間体とか法律的に色々まずい気がするんですが……」
「少し説明が長くなりますが、構いませんか?」
「はい」
瀧氷はゴクリと唾を飲み込みながら返事をした。
「私たちの世界では技術の発展に伴って、随分前から出生前の性選択が一般化したのです。それに加えて、性別がどうであれ一人で子を成すことも可能となりました。さらに一部の種族では人間と違い、女性の方が身体的に優位なこともあり、女の子を選択する親があまりにも多く、その結果異性と結婚したくても結婚できない女性が大量に生まれてしまったのです」
瀧氷は地球でも似たような話を聞いたことがあるなと思いながら、ポルカの言葉にふんふんと頷く。
「ですので、特に瀧氷様のような優秀な雄には多くの妻を娶ってもらうことになっています。法律については私たち異星人と結婚する場合、地球の法律は適応されませんから問題ありません。私たちの世界では条件をクリアすれば一夫多妻制も一妻多夫制も許可されていますから」
「なるほど」
とりあえず法律的に問題ないことはわかったが、地球にいる限り世間体は色々厳しそうだなと瀧氷は思いつつ、説明を聞いて湧いた疑問をポルカにぶつけてみることにした。
「あのポルカさんの説明の中にあった、えーとその私が優秀な雄っていうのは一体どういうことなんでしょうか?」
「それは言葉の綾みたいなものでして…本当の理由はお聞きにならない方がよろしいかと…」
今まで歯切れよく話していたポルカは一転、少し赤く染まった細長い耳をピコピコと動かしながら気まずそうに言葉を濁す。
「…それでも聞きたいです」
ポルカの様子を見る限り、あまりよろしくない理由だと悟った瀧氷は少し迷ったが、聞かなければ気になって一週間か一ヵ月くらい寝つきが悪くなりそうだと下らない理由から聞くことに決めた。
「…わかりました。こほん。……実はこの審査は性交がまだ未経験の方、つまり童貞の方を優先して合格させるようになっているんです」
「は?」
「あっ、でもそれにもちゃんと理由もあるんですよ! 地球人の個体数維持の為なんです。決して童貞の方がチョロいとか、そんな俗な理由ではありませんから! おだててなるべく多くの人と結婚してもらおうとか、そんなことも考えてないですからね!」
「そ、そうですか…」
細長い耳を真っ赤にして言葉を重ねるポルカを、思わず瀧氷は疑念の目で見る。
だがここで追及してしまっては、自分の方がダメージを受けるのは目に見えてるので、下手な相槌を打つしかなった。
「で、でも他にも受精力に問題がないかとか、異星人に悪意や害意がないかなど他にも色々なことをチェックしてるんですよ!」
「あぁ…そうなんですね」
瀧氷は若干呆れつつも、そんなことまでわかるのかと驚く。
「あっ、でも受精力の問題なら、異星人の超技術とかで何とかなるんじゃないですか?」
性別が選択出来るくらいならそれくらい何とかなるだろう。そう思った瀧氷は話の流れを変えたかったこともあり、あえてどうでもいい質問を投げかける。
「残念ながら地球人の方が我々の遺伝子操作を受けるには、最低でも惑星政府が出来てからになりますね。文明レベルが違う世界に関与しすぎると、大抵碌な結果を招きませんから」
みんな遺伝子操作しているって聞いたから、オープンな感じなのかと思ったら意外としっかり線引きしているんだなと、瀧氷はポルカの説明を聞いて感心する。
「そうですか。えっと…次の質問なんですが、『異星人と婚活をする場合、地球人女性と婚活することは不可とする。』というのはなぜなんでしょうか?」
「それは私たちの技術を狙って今後、審査に合格した瀧氷様にハニートラップが仕掛けられたり、誘拐される可能性が考えられるからです」
「俺なんかにですか?」
「審査に合格された方に、既にそういった事例が起こりかけたことが確認されていますので、瀧氷様にも起こる可能性が十分にあります。といっても私たちの技術が使われている物に関しては全てリアルタイムで監視されていますし、万が一誘拐や技術漏洩が確認された場合はお互いにとって不幸な結果になると、各国政府にはお伝えしてありますからそこまで心配される必要はありません」
「そ、そうですか」
笑顔でそう言うポルカに対して、瀧氷は苦笑いしながら返事をするしかなかった。
「最後の質問なんですが、護衛っていうのはどんな方がされるんですか?」
先ほどの説明でなんとなく護衛が必要なことは瀧氷は理解した。だが結婚が成立するまで一緒にいるとなると、真面目過ぎたり気難しい人物だと少し困る。
男の一人生活は色々とズボラなのだ。
「私です」
「えっ?」
「私です」
「あっポルカさんですか、それは良かったです!」
事無げに言うポルカの態度に思わず聞き間違えだと思った瀧氷だったが、どうやら間違ではないと確信し、慌てて取ってつけたように喜ぶ振りをする。
「信じてませんね~? 本当なんですよ? 確かに私は戦闘向きの種族ではありませんけど、地球文明の銃器程度なら傷一つ付かないので安心して下さい!」
ファイルを胸に抱え込んで自信満々な様子で言うポルカ。
ポルカの可愛げなしぐさを見て瀧氷は思わずドキッとしてしまう。
それと同時にこんなモデルのようにスタイルも良くて綺麗な人が、それほど強いとはどうしても思えないと瀧氷は思う。
「他に聞きたいことはありますか?」
「特にないです。それで今日はもうこのまま帰っても大丈夫ですかね?」
「あっ、そういえば瀧氷様はお一人でアパートにお住まいでしたよね?」
「そうですが…… それが何か?」
「私たちが貸し出している一軒家にお引越しすることも出来ますよ。家賃や光熱費等も免除されますので是非ご検討下さい」
「本当ですか!? 是非お願いしたいです」
現金なもので、瀧氷は今日一番の喜びようで頷き返事をした。
「それでは護衛の件もありますから、瀧氷様のご都合がよろしければさっそくご覧になられますか?」
「はい、お願いします!」
瀧氷が元気よく返事をしたのを確認してからポルカは席を立ち、部屋から出ていき、その後に瀧氷も続いていく。
このまま外に出るのかと思った瀧氷であったが、ポルカはエレベーターの前をスルーし、廊下の一番奥の部屋の前まで移動し、部屋のドアを指し示した。
「こちらの部屋にお入りください」
「ここですか?」
ドアを開けてみるも部屋の中は真っ暗で、まったく中の様子がわからなかったが、瀧氷はポルカに促されるがままに恐る恐る部屋に入る。
「あれ、ここは?」
部屋の中に入ったかと思うと気づいたらなぜか瀧氷は外にいた。周囲は閑静な住宅街で、目の前には三階建ての綺麗な佇まいの家がある。
「ふふっ、驚かれましたか? 実はあの部屋の扉は転移ゲートだったんです」
理解が追い付かない展開に戸惑う瀧氷に、ポルカが微笑みながら説明する。
「えっ、ほんとですか!」
瀧氷は説明を聞いて驚きと共に、そうと知っていたらもっとじっくり観察しておけば良かったと後悔を滲ませる。
「これから何度も利用されることになると思いますので、今度じっくり見て下さいね」
姿形も見えなくなった転移ゲートを必死に探している瀧氷の姿を見て、ポルカは口をそっと押え軽く微笑みながら言う。
「あ、はい。お気遣いありがとうございます」
「こちらの一軒家は、瀧氷様と今後結婚される異星人の方との専用のお住まいになる予定です」
「すごく綺麗な家ですね! 本当にこんな家に引っ越し出来るんですか?」
「本当ですよ。あとこの家には私たちの技術も使われていますから、日本の気候であれば数百年はメンテナンスフリーで住まわれることが出来ます」
「へー、やっぱり異星人の方の技術ってすごいんですね」
ポルカの説明を聞いた瀧氷が感心するように頷く。
「それでは中の方にご案内させていただきますね」
「あっはい、お願いします!」
ポルカと瀧氷は家の玄関を開けて中に入る。
中の様子は外と同じく日本にどこにでもあるような住宅の様相をしており、一見した限りでは本当に異星人由来の技術が使われているのか疑わしいほど、日本の一般的な住宅と似たような感じの雰囲気だ。ただ大きく違うのは、玄関もそうだがどの扉のサイズも大きく、天井もかなり高い。一階の高さが二階分くらいある。
「外から見ても思ったんですけど、ごく普通の家ですよね。サイズは大きいけど」
「はい。一目で異星人技術が使われているとわかれば防犯上の問題もありますから。外から見える家の高さも含めて、色々偽装しているんです。ですがこのように…… はぁ!!!」
ポルカは説明しながら思いっきり壁を殴りつける。
壁一面に網目状のヒビが入り、見るも無残な状態になったがポルカが壁から拳を離すと動画を逆再生したかのように元の綺麗な壁に戻った。
「壁材にはナノマシンが含まれいて、ちょっとした傷ならこの元通りになるんです」
「す、すごいっすね…」
瀧氷の目にはちょっとした傷には見えなかったが、とにかくすごい技術が使われていることと、異星人の力は見た目通りではないことがよくわかったので、あえて深く追及するのはやめておく事にした。
その後は何事もなくリビングやバスルーム、寝室などを紹介されて再び玄関まで戻ってきた。バスルームは温泉のように広かったり、寝室にはキングサイズどころではない大きさのベッドが置かれていたが、一日中驚き過ぎた瀧氷に突っ込みを入れる棋力は残っていなかった。
「案内は以上となりますが、何かご質問はございますか?」
「あ、もう大丈夫です」
これ以上は色々と許容限界だ。そんな気持ちを込めて瀧氷は否定する。
「それでは、この後はいかがなさいますか? このままこの家にお泊りいただくことも可能ですが」
いったん戻るべきだろうか? 驚きの連続で心が疲れていた瀧氷は顎に手を当てて悩む。だが、ここで戻るとなれば護衛のポルカも付いてくることになり、必然的にほとんど掃除もされていない上に、色々女性に見られたくないものもある自分のアパートの自室を見せることになる可能性があることに気づく。
そんな醜態は晒せないと思い、今日はこの家になんとしても泊まると意志を固める。
「あーそういえば、先ほど見た寝室のベッドがとても素晴らしかったんですよね! 今日は是非この家に泊まりたいなぁ」
「ふふっ、承知しました」
急にハイテンションになって家を褒め出した瀧氷の姿を見て、優しい目をしながらポルカは微笑み了承する。
近い将来、引っ越し作業の為にポルカと共にアパートの自室に戻ることになり、結局そこで色々ポルカに恥ずかしいものを見られてしまうのだが、とりあえずの危機を回避してホッとしている瀧氷は、安心からか腹の虫を盛大に鳴らす。
「あっ、あのこれはすみません」
「そういえば、もう夕方でしたね。よろしければ私が何かお作りしましょうか?」
恥ずかしそうに首筋を掻きながら謝っている瀧氷に対して、ポルカは優しい笑みを浮かべ、自分が料理を作ることを提案する。
「そんなの悪いです」
「いいんですよ。瀧氷様の健康をお守りすることも私のお仕事に含まれていますから。リビングのソファーに座ってお待ちください」
遠慮する瀧氷に対して、これが自分の仕事だからと言ってポルカは瀧氷と共にリビングに移動してから、同じ部屋に併設されているダイニングで料理をし始めた。
ポルカの料理する手つきは慣れたもので、テキパキと調理していく。
瀧氷が感心しながら眺めている間に次々に料理は完成していき、瀧氷の前にあるテーブルに置かれていく。
ただ異星人のポルカが作った料理の割りには、どの料理も瀧氷が見慣れた料理ばかりだ。ただその中に明らかに異質なものが一皿ある。
「ほとんど自分も見たことある料理ばかりですけど、どうしてなんですか?」
目の前に出された料理を見て瀧氷は疑問を口に出す。
「異星由来のほとんど食材は、地球上に持ち込むことは禁止されているんです。地球環境を汚染してしまうような危険なものや、地球人が口にしたら死ぬようなものも数多く存在しますから」
「そっそうなんですね。でもこれはいいんですか?」
そう言って瀧氷は先ほどから気になっている、澄んだスープの中に入っている色鮮やかなかなり肉厚の葉っぱを指さした。
「これは地球人の方が食べても問題ありませんし、既に調理した状態で持ち込んでいるので大丈夫なんです。ちなみに私の星に自生しているカタミバキという植物の葉っぱなんですよ」
「へぇ、そうなんですか」
それを知ってさっそく味が気になった瀧氷は迷いなく箸で食べやすいサイズに分けて口に運んだ。
瀧氷が想像していたよりも癖はなく、噛む度に葉にしみ込んだスープのダシが出てくる。それでいて繊維質でもなく最後は口の中ですっと溶けていく。
見慣れない食べ物ということもあり、少しだけ味見をしたあと他の料理に手をつけるつもりだったが、予想外の美味さに瀧氷は他の料理を無視してあっという間に食べきってしまった。
「カタミバキでしたっけ? これめちゃくちゃ美味しいですね!」
「ありがとうございます。私も大好きなんです」
そんな感じで時折瀧氷が料理を感想を言いながら食事を進めていく。
ポルカが目の前でニコニコしながら食べる様子を見ていたので少し食べにくかったが、カタミバキ以外の料理もいつも瀧氷が食べている冷凍保存した弁当に比べるのも失礼なくらい旨いこともあり、あっという間に完食した。
「どの料理も美味しかったです! ポルカさんは料理がとてもお上手なんですね!」
「いえいえ、お粗末様でした」
その後、瀧氷が風呂に入ろうとした時、水着に着替えて風呂の中でも護衛しようとするポルカを制止するのに苦労するなどひと悶着があったものの、久しぶりの温かみのある料理を食べたおかげかベッドに入るとあっという間に寝てしまった。
異星人との婚活事情 灰ノ木 @Hainoki_na
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