第6話 チンパンジーとゴリラ、触れ合う

じゃれつくように飛びついた後は、赦すように愛撫した。

ゴリラはチンパンジーから飛び掛かられてすぐ、それが性交渉の誘いだとは信じられなかった。だって、まさか、そんな。しかし、口元に寄せられたチンパンジーの性器から発せられるにおいは雌の発情のそれで、彼女は隙間の空いたあそこを、ゴリラの顔のおうとつにわかりやすく意図的に擦り付けていた。ためしに、伸ばした舌でそこをつつくと、ゴリラの腹の上で、チンパンジーは甘い声を漏らした。まさか、本当に、そんな。ゴリラはくらくらとして、チンパンジーのヴァキナを舐めあげてみた。そこはたちまち激しく蠢き、身体はふる、と微かな痙攣を示した。

チンパンジーの長い腕が、ゴリラの尻たぶを持ち上げるように動かした。ゴリラは加えられる力の方向のままに、腰ごと尻を上げた。すると、あろうことかチンパンジーはゴリラの肉壺に顔を埋めたのだ。熱い舌が、器用に動き回る。まるで、あの朝、蟻だらけの咥内を貪られた時のように。身体の芯がとろけるような甘い気怠さ。ゴリラはぎこちなく、チンパンジーの真似をするように舌を動かした。チンパンジーは快感に昂って、ゴリラの乳房や腹、そして太股までに爪を立てた。その半分は抑えようもない興奮を逃すためでもあったし、実はそのもう半分は、苦痛を与える度にチンパンジーの性器がひくひくと蠢くことに気づいたからだった。どうやらこいつは痛みに興奮するらしい。チンパンジーはいっそ奉仕のような気持ちで、ゴリラの乳房を噛んでみた。ゴリラは喉を鳴らして、その太い脚がびくん、と跳ねた。

ゴリラは、チンパンジーがめちゃくちゃに爪や歯を立てたせいで抉れた己の皮膚が砂利に擦れる度に、満ち足りた気分で苦しげな吐息を漏らした。痛い。嬉しい。胸がくすぐったい。痛い。甘い。気持ちがいい。ゴリラの心の中で、痛みと恋慕と発情とは結ばれていた。チンパンジーのあの黒ずんだ爪で、頬や額をひっかかれている。性器に歯を立てられてる。そして、慈しむように舐められている。赦されている。ゴリラの後悔を、チンパンジーの強引な愛がガリガリと削っていく。罪など要らないと投げ捨てる。死体の骨のように、無残に。ゴリラはそれに、救われる。

見上げたチンパンジーの膨れて火照る尻が、いつのまにか、金色に染まっていた。黄昏時だった。ゴリラは腕を伸ばし、肉体の快に楽しげにのたうつチンパンジーの背を撫でた。チンパンジーは荒っぽいやり方で、ゴリラの太股を擦った。チンパンジーはゴリラの唇に激しく性器を擦り付け、火照る尻でゴリラの頭をぐりぐりと押さえつける。ゴリラの愛らしい亜麻色の頭髪に、チンパンジーの桃のような尻が埋もれて、互いの熱を滲ませてゆく。それはまだ終わらない。そして同時に、終わりつつある。太陽と同じ速度で、地に沈んでゆくのにも似た愛おしい疲労を伴って。ゴリラは歌うように胸を鳴らす。


――愛している、愛している。あなたの爪で沈められる暗い穴は、きっと熱くて痛いでしょう。でもあなたは決して、私に暗い穴などくれないでしょう。燃え尽きるほどに眩い生の痛みで、こういうふうに、私を恍惚の中にざぶんと沈めるのでしょう。


チンパンジーは、己の腹の下でゴリラの胸が力強く跳ねるのに同調する。腰をカクカクと揺らしながら、鼓動を重ねて、優しい気持ちで、ゴリラの脇腹を引っ掻く。


――愛している、愛している。お前が捧げるものなら全て平らげてやる。お前がたとえ死にたいと思っても、感情の記憶に苛まれても、もう逃がしてはやらない。私の狂気すら呑みこませてやる。お前が暗い闇に溺れるのは許さない。私の傲慢な光の中に引き戻して、こういうふうに、痛めつけるように生かしてやる。


愛している。


夕暮れの陽は溢れる蜜になり、樹々の肌を滴り、チンパンジーらの死骸を浸し、血に塗れた地を覆ってゆき、この薄昏い一つの森を満たしてゆく。乾いた風が幾層ものヴェールになり、生の躍動を煽るように駆け抜ける。さざめきは称賛のように、喜ばしく鳴り響く。世界が、この生き物たちを羨んでいる。ゴリラはついに、絶頂に息をつめる。チンパンジーもまた、同じ頂にのぼりつめて体をしならせた。彼らはその時、気づいただろうか。大きく白い蝶と、小さく黒い蝶が、その頭上でまぐわいながら金色の陽の海を泳いでいたことに。






サバンナの長い一日が、終わる。


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チンパンジーとゴリラのヤンデレ百合官能小説 山群 例 @evenifif_20

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