僕が刹那に見たもの。

Toy

僕は、紅しか見たことがない。そう、真っ赤に染まる憎悪だけ。

目の前に広がっていたのは、

炎々と広がる紅の世界だった。


木も、藁も、そして人も、等しく燃え盛っていた。



僕は、何もわからなかった。



「自分が産んだ子供で…!妻を…!殺してしまった…!」



そう叫んだのは、炎から少し離れた場所にいた男性だった。


彼は、激昂していた。

いや、真偽はわからない。



ただ確かだったのは、

僕に向けられた憎悪の気持ちがあることだけ。


彼はその言葉と共に、腰に刺していた刀を抜いた。



その刀は80cmほどはあったのではないだろうか。



そのまま僕に近づく。



不思議と、恐怖は生まれなかった。



一閃。



僕に見えていた紅の世界が、揺れた。



重く弾む。



聞こえたのは、なんとも形容し難い美しい音と、響きもしない鈍い音だけ。



彼の刀から、今まで見えていた紅よりも、もっと黒い紅が滴るのが見える。



一滴ではない。幾度となく、滴り落ちた。



視界が霞む。



僕が最後に見たのは、

刀を放り出し、泣き崩れる男と、

僕を取り囲む多数の人影だった。

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