第5話

沙耶が高校を卒業したその年の夏、誕生日を迎えた日曜日に久しぶりに沙耶は夏祭りに出かけた。


沙耶の誕生日は7月25日。湖の主様に感謝と祈りを捧げる伝統行事のその日が沙耶の生まれた日だということが何を意味しているか、それをまだ沙耶は知らずにいた。


沙耶は幼なじみの和葉と竜頭神社の前で待ち合わせをしていた。和葉とは昨年の暮れから恋人という関係とまではいかないが、互いに惹かれあっているのがわかっていた。あまりにそばに居る時間が長すぎて、沙耶は今更告白するのもおかしいような気がしたし、もしかすると和葉も同じなのかもしれないと思っていた。


沙耶は紺の地に桜の花の浴衣を着ていた。

母親にはもっと明るい色の浴衣もあるのに、とため息をつかれたが、沙耶はこういう落ち着いた柄が好きだった。


人通りが多く、夜店も並び、いかにも祭りだという独特の空気と、夜祭が始まる合図でもある笛の音が聞こえる。


ピィー、フゥィー。


!?


沙耶は足元が不安定になるのを感じた。

立ちくらみではない。足元の地面が突然溶け出したような、そして自分の周りだけ音のない、違う世界が広がるような妙な感覚に襲われる。


このままだと、危ない。


本能的に危険だと感じるが、どうすればいいか分からず途方に暮れかけた沙耶の耳に風のような囁きが聞こえる。


ようやく時が満ちたー





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よるのあしおと 桶上 ゆら @okegami-yura

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