第4話
あれから14年が経ち、沙耶は19になった。
祖母の雪は沙耶が中学2年の秋に脳梗塞で呆気なくこの世を去った。
沙耶にとって闇との対峙の仕方や、その闇の正体と名前、闇以外の者たちについて教えを乞う相手がいなくなる事を意味していた。
雪は生前、沙耶が見ているものと、闇が沙耶を食らおうとする理由を聞かされた。いつどこで闇のものが二人のやりとりをのぞいているかわからないため、それは長年かけて祖母が沙耶に教え込んだ隠語によって伝授された。
やりとりはとても慎重で、複雑なものだった。雪はそれを砂を集める、と表現していた。
隠語は毎年最も陽の気が盛んになる夏のよく晴れた日の昼下がりに大きな水晶に太陽の光を当てながら、文字や記号を照らすのだ。
隠語は声に出してもいけないし、何かに書き記すことも禁じられている。
隠語に使われる文字や記号はその場で祖母が書き記す。
木の葉や星、花や湖などを意味する23種の記号と、特別な言霊によって隠語は成り立っていた。
何年にもわたり、少しづつ
いいかい、沙耶。いつもお前には少しづつ砂のカケラを渡して来た。
私の祖母も、そのまた祖母も、ずっとそうやって伝え合って来た。
沙耶の名前に闇の意味を含む“や”を入れたのも意味がある。
闇に紛れて身を潜めるために必要な音なんだよ。
私の名前の、“ゆ”も黄泉の国に通じている。音を通してやりとりできるようにするためだ。
隠された文字、隠された記号、隠された音。
私が死んだら、沙耶。オカガミサマを探すんだよ。沙耶が忘れてしまっても大丈夫。古い契約があるから。
しかし、沙耶は15を過ぎた頃から闇の声を聞く回数も、闇のものを垣間見る回数も激減していき、祖母の雪が言い残した言葉を思い出すことも、闇そのものも、気に留めずに安定した高校生活を送った。
だから。
だから、あんなに恐れていた闇の存在に、再び脅かされるなんて、夢にも思わずにいたのだ。
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