第3話
闇はどこにでもある。しかし、昼間は例え雨が降る薄暗い日でも生命の活動が闇を遠ざけてくれる。しかし、夜は-
夜になると、沙耶はいつも朝を焦がれるしかない。
闇の気が嫌でも強くなる。
雪がお守りに与えてくれた水晶を入れた袋に紐を長く通して首から下げて眠る。
それが沙耶の習慣だった。
沙耶がまだ幼稚園に通っていた頃のある夜。
ほとんど毎晩闇のものを見て、声を聞いていたが、その日はいつもと違っていた。
闇のものは例え小さな灯りでさえ、光には近づこうとしない。水晶の放つ僅かな光沢でさえも。
その夜、沙耶は何かの気配で目を覚ました。
いる。すぐそばに。
隣で眠っている弟はただ安らかな寝息を立てて、特に変異はないらしい。
しかし、沙耶はすでに背中にじっとりと重い汗を背負っていた。
なんだろう。
掌に水晶を握りしめる。
沙耶は目蓋を固く閉じた。
意味がないとわかっていても、だ。
今まで夜になると、闇からの気配は目蓋越しにも姿を現してきた。目蓋が透けて闇のものが見える。
これまでも、気づかないフリを決め込んで相手にしないように沙耶は必死にやり過ごしてきた。どんなに固く目蓋を閉じても、それらは沙耶を見つめ、耳元で囁いてくる。
眠ったふりをしているだろう。わかっているぞ。喰ってやる。喰ってやる。だが、まだ早いか。
闇の中から、真っ赤な瞳を滴らせては沙耶を怯えさせるのだ。
しかし、この夜、固く閉じた瞳に映し出されたのは白い動物の足だった。
!?
沙耶が思わず足の主を探すと3匹の白い犬が枕元にいた。
その犬は大きいものと、中位のものと仔犬で、おそらく、親子か兄弟だろうという気がした。そして、その3匹は音のない世界でけたたましく吠えていた。
音はなくとも、空気が振動しているのがわかる。
ただ、いつもと違うのは、それらは沙耶に害を為そうとしていないことだった。
沙耶が気づいたことに、1番小さな仔犬が気づいた。
沙耶がしまった、と思ったが、その仔犬は沙耶に柔らかな表情を向けた。
生きているもの以外の存在に敵意を抱かれなかったのは、これが初めてだった。
少し余裕が生まれた沙耶はこの犬たちが何に吠えているか、気になって、犬たちが吠える先に視線を向けた。
すると
真っ赤な血のような塊か沙耶に向かって飛び散ってきた。
いやっ。
沙耶はあまりの恐怖に、その場で蹲り、何もできずに身を固めた。すると、
フィー!ピィー!
何か笛のような高音が鳴り響いた。
気づけば、あの犬たちも、真っ赤な血の塊もなく、窓から月明かりが差し込んでいた。
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