第2話

幼い頃から、沙耶は闇のなかのそれらに気づいていた。

母も、父も、弟も闇のなかのそれに気づくことはなかった。

唯一、沙耶と同じものを感じ取っていたのは祖母の雪だった。


お前を喰ってやる。


暗闇から聴こえる、怯えた子供を嘲笑いながら、執拗にこちらを見ている闇。


祖母は泣きながら怯えている沙耶に決まってこう言うのだ。


-沙耶、怯えるんじゃない。あれらは闇に潜むもの。闇のものは生きたものの輝きを欲しがるけれど、あれらはこちらが気づかなければ存在しないも同じこと。だから、聞いてはいけない。見てはいけない-


でも、おばあちゃん、すごく怖いの。聞きたくないけど聞こえる。見たくないのに見えるんだもの。



怯える沙耶に、雪は歌いながら背中をさすってくれた。


カクヨニアラン ミタマノタマ

ミタマヲミガキ カガヤキアラン

カガヤキアリテ ヨルガアル

ヨルニハ カガヤク ホシアラン


呪文のようでもあり、子守唄のようでもあり、祖母の歌声は沙耶を落ち着かせてくれた。そして沙耶が泣き止むと、陰のものには陽のもの、と言いながら、飴玉を沙耶の口に放り込むのだった。



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