第35話 錬子と優子、神道十字軍元少佐ヴィーナと対決する
広くて何もない場所に着くと、ヴィーナが相手にする錬子と優子の二人に恨みを込めた目で睨み付けた。
「え?何、どうしたの?」
「貴様ら魔王軍さえいなければ、我々の計画は成功していた!ゼロさえ召喚されなければ我々の未来を築けただろう!」
「はい?どういう事?」
錬子はヴィーナが言った事を何一つ分からずにいた。
優子も同じくヴィーナの言った意味が分からなかった。
「我々の手違いで別世界の人間を召喚してしまった。その結果がこれだ!ゼロは神によって死ぬと定められている!そう!そうだとも!」
「あれー?あいつってあんなおかしな奴だったっけ?」
「いえ、ですがゼロさんの恨みや憎しみが大きすぎてあんな風になっているみたいです」
「負の感情が大きすぎてやばい奴に変わったって事ね」
「こうなれば、ゼロに貴様ら二人の首を見せてやらないとなぁ」
「あいつお構いなしに喋り続けているけど、大丈夫かな?」
「変な癇癪を起こす前に倒しましょう。その方が良いです」
優子と錬子が拳銃をホルスターから出してスライドを引いた。
ヴィーナもホルスターからM29リボルバー二丁を持った。
ヴィーナは復讐の対象であるゼロの仲間である二人を睨み、二人は冷静にヴィーナを見た。
ヴィーナの武器はリボルバー二丁だけだが、隠してある可能性があると二人は推測する。
「錬子さん、いつも通り援護して下さい」
「はいはい。やばくなったらサポート入るよ」
「殺してやるぞ!かかってこい!」
ヴィーナはリボルバーで二人に向け撃ちまくる。
優子は義足のスピードを上げ、弾を避ける。
錬子は左に回避して、M19自動拳銃でヴィーナを撃つ。
「無駄だ!」
だがヴィーナは障壁を展開して弾を防いだ。
やっぱりそう上手くいかないか。
錬子はその後も拳銃を撃ちながらそう感じていた。
錬子の射撃の腕は正確で、ヴィーナの頭や上半身を的確に撃っていた。
しかしヴィーナの障壁で全て無効化されていた。
「神から与えられた力を得た私の前では、貴様の豆鉄砲など効きはしない!」
「分かった。あなたが凄いんじゃなくてあなたに力を与えた神が凄いんだね。別にあなたはアレンよりも強くはないわよ」
「ほざくな!」
ヴィーナがリボルバーを錬子に向ける。
引き金を引いたのと同時に横から来た優子の蹴りで横に弾が飛んだ。
ヴィーナはリボルバーを撃ちまくるが、機動力の高い優子は軽々と避けた。
そして92F拳銃でヴィーナを何発も撃つ。
障壁で防がれるが、障壁にヒビが入り、弾が撃ち込まれるごとにだんだん多くなっていった。
優子はそのヒビに蹴りを入れる。
障壁が破られ、優子の右足がヴィーナの腹に当たる。
「ぐはぁ!」
ヴィーナが右手のリボルバーを優子に向けて引き金を引くが、弾切れだった。
彼女は撃ちすぎてリロードするのを忘れていたのだ。
仕方なくもう一丁のリボルバーで優子を撃つが、既にヴィーナから距離を取って避けていた。
「案外、あいつ弱いわよ。詰めれば早く倒せる」
「じゃあもう一度お願いします」
錬子が拳銃を構え、優子はもう一度ヴィーナに近付こうと走る体勢に入る。
ヴィーナが舌打ちしながらリボルバーのシリンダーに44マグナム弾を装填する。
ヴィーナはリボルバーの特性である連射力を活かした中距離戦を得意としているが、優子のように近距離戦に持ち込まれると対応が遅くなってしまう。
ヴィーナはまたリボルバー二丁を二人に向ける。
お互い準備が整った時、ヴィーナがニヤリと笑った。
何がおかしいのか二人が怪訝そうな顔をすると、優子が左から気配を感じ取った。
「左から新手!」
優子がそう言って錬子を抱えて跳躍すると、銃声とともにたくさんの銃弾が飛んできた。
優子は弾を避けながら手頃な大岩に隠れて、飛んでくる銃弾から身を守る。
錬子も大岩に隠れて銃弾を受けないように姿勢を低くする。
銃声が止み、二人から大岩から顔を出す。
ヴィーナの周りに二十人以上の神道十字軍の兵士が立っていた。
白い戦闘服で身を包んだ彼らは雪原迷彩模様のSCAR-Lアサルトライフルを持っていた。
既に弾の再装填を終え、優子達がいる大岩に銃口を向けていた。
「ようやく来たか。遅かったが、ここから逆転してやる!」
ヴィーナは自分の手駒の神道十字軍の兵士を待っていたのだ。
一人では自分より格上の優子と錬子に勝てないと悟って隠れていた兵士達を呼んで横から射撃してもらった。
しかし優子の鋭い勘で避けられ、弾を防いだ大岩に隠れられてしまった。
「あいつら、神道十字軍の兵隊ね。ヴィーナはあいつらを待っていたみたいね」
「どうしますか?どちらにせよ彼らがヴィーナの周りにいると厄介ですよ」
「私がヴィーナをやる。優子は邪魔な兵士を片付けて」
「では、援護を」
優子が大岩から飛び出す。
二丁の92FとM9A1拳銃を撃ってヴィーナの近くにいた兵士を倒す。
兵士達が優子に照準を定めてSCAR-Lをフルオートで撃つ。
錬子は優子が動き回って兵士達を翻弄している間にヴィーナに一発だけ拳銃を撃つ。
ヴィーナの頬に弾丸がかすり、血が流れる。
「あの女……!お前ら!青髪の女を殺せ!私はもう一人をやる!」
ヴィーナは身体強化魔法でスピードを上げ錬子との距離を詰める。
錬子が拳銃を何発も撃つが、桁違いのスピードで避けられていた。
そして錬子が遮蔽物にしている大岩を身体強化魔法で強化された足で破壊すると、錬子が拳銃を撃ちまくる。
ヴィーナは障壁で弾を防ぐ。
その間にリボルバーを撃つが、錬子がリボルバーを掴んで上に銃口を向けたせいで上に発砲してしまった。
ヴィーナは悪態をついてリボルバーの銃口を錬子に向けようとするが、身体強化魔法で強化されたはずの腕で錬子に銃口を向けられなかった。
何故だ?何故たかが人間の力で強化された私の腕を押さえられる?
あり得ないあり得ないとヴィーナは否定するが、今も銃口を向けられない。
「あなたの身体強化魔法は強化する箇所が限られている。今は足にも強化魔法を使っているから腕に強化魔法を使う魔力が少ないんでしょ」
「ぐ……!」
「それと、私の格闘を舐めない方が良いよ」
錬子はリボルバーのシリンダーを外して遠くに飛ばし、ヴィーナの頚椎に肘を入れ、拳銃の銃口でヴィーナを突き飛ばした。
ヴィーナは分解されたリボルバーを遠くに捨てた。
部品ごと壊されたリボルバーが使えないと悟ったからだ。
ヴィーナは残り一丁のリボルバーを右手に持つ。
錬子はチラリと横を見る。
優子の素早い機動力と二丁拳銃で神道十字軍の兵士達が次々と撃ち殺されているのが見えた。
兵士達の人数は残り六人。
あと少しで優子も終わらせそうだった。
「あなたのお仲間は優子によって殺される。残念だったわね」
「クソが……!せめてお前だけでも!」
ヴィーナがリボルバーをホルスターにしまって、近接戦闘を仕掛ける。
錬子はヴィーナの拳を受け流したり弾いたりして防ぐ。
錬子は拳銃を持った右手と何も持っていない左手でヴィーナに時々カウンターを食らわせていた。
(こいつ、やっぱり強化魔法しか使えないわね)
ヴィーナはさっきから身体強化魔法しか使っていなかった。
隠しているなら魔法が使えない錬子に使わないのはおかしいし、使えるならとっくにやっているはず。
答えは一つ。
ヴィーナは強化魔法以外の魔法が使えない。
事実、さっきから腕を強化して攻撃を強めるだけだった。
(そういえば四千年前もこいつは戦っても強化魔法だけだった。部下と共闘するあたりこいつも自分の部下とそんなに変わらないかもね)
錬子は少しずつヴィーナに攻撃して追い詰めていく。
ヴィーナがこのままだとマズいと判断した時、ヴィーナが足蹴りをした。
まさかの足蹴りにとっさに片足で防ぐが、その隙に錬子の拳銃を払い落とした。
拳銃を落とされた錬子はヴィーナの左手のパンチを受け流し、肘でヴィーナの腕の関節を折る。
だが左腕の犠牲を覚悟していたヴィーナは追撃してきた錬子にリボルバーを向けた。
「!」
「ハァ……ハァ……ようやく追い詰めたぞ。さあ観念しろ」
「ちょ、ちょっと待って!撃たないで!」
「今さら懇願するのか?この穢れた魔族め!」
錬子はわざとヴィーナに撃つなと言った。
「あなた、四千年前より強くなったわね。驚いちゃったよ。あと、私は普通の人間よ」
「どちらにせよ魔王軍に従っていた。それだけで罪となる」
「さっきからあなた、ゼロや私達を憎むんだり恨んでいるけど、何か理由があるの?」
「貴様ら魔王軍のせいで神を信じる者が少なくなった。何が運命は自分で決めろ、だ!それでは神の信仰心が薄れ、私の神様が……!」
(まさか、自分の神を助ける為に……?)
神の信仰心が強いとその神が与えるものも高価なものになる。
そしてその神に従ったり信仰する者は神の恵みが多くなる?
神は信者にとっては命よりも大事な存在だ。
心の拠り所を失ってしまうと、人は悪に堕ちる。
錬子は前の世界でそんな人間を何人も見てきた。
ヴィーナもそんな人間の一人なのだろう。
道理でさっきから冷静でいられず、興奮している。
「なるほどね……確かに拠り所である神が死ぬ……というより消えるのはあなたにとっては死よりも恐ろしいよね……気持ちは分からなくはないわよ」
「そうだとも……理解したか……?」
「ええ……だから国王を脅して兵士達が自分の神を信じるように仕掛けたのね」
「そうだ」
「そして自分の神が元気になって、あなたも他の信者も万々歳……ね……」
「何だ。分かっているじゃないか人間。どうだ、私の神を信じてみないか?そうすれば多くの恩恵を受ける事が出来るぞ」
「そうかもね……」
「さあお前も私に……」
ヴィーナがリボルバーを下げて手を差し伸べる。
「あ、ごめんね」
錬子は左腕のブレザーの袖に隠してあったデリンジャー小型拳銃を出してヴィーナに撃ち込んだ。
「うがぁッ……!?」
「私、無神論派なんでね」
錬子はわざとヴィーナに神の事について話させてリボルバーの銃口を外させて、左腕のデリンジャーを撃っても絶対に当たる距離まで近付かせて撃ったのだ。
一押しに神を信じようとしたのはそうすればヴィーナが近付いてくると予想していたからだ。
その予想が当たり、ヴィーナに弾を撃ち込めた。
「がぁぁ……!!貴様ぁ……!!」
「騙して悪かったわね。だけどこれであなたを倒せる」
「ハァ……?何を言っている……?」
「このデリンジャーに装填された弾には魔法を使えなくする付与魔法が施されている。つまりあなたはご自慢の強化魔法が使えなくなったのよ」
ヴィーナは耳を疑いながらも身体強化魔法を使う。
だが魔法が使えない。それどころか自分の魔力が封じられてしまった。
「な……!?」
「言ったでしょ?魔法が使えないって」
「な、なら!」
ヴィーナがリボルバーを錬子に向けたのと同時に錬子がヴィーナのリボルバーを強引に奪う。
無駄のない動作でスピーディだった。
「あなたのリボルバーは貰っておく」
「か、返せ!」
「終わりましたか?」
錬子の後ろから優子が現れる。
「わ、私の部下は……!?」
「見ての通りです」
優子の後ろには撃ち殺され、切り刻まれた神道十字軍の兵士の死体が転がっていた。
それだけでヴィーナが絶望するのに充分だった。
「さて、終わらせましょ」
錬子が後ろのベルトのホルスターからG26自動拳銃を抜いて全弾ヴィーナに撃ち込んだ。
「あがっ!ぐがぁ!ぎゃあ!」
「くだらない戦争を起こした報いよ」
弾切れのG26をしまって落ちていたM19自動拳銃を拾ってマガジンを交換する。
優子も二丁の拳銃を持って、錬子と一緒にヴィーナに狙いを定める。
「ま、待って……!」
「言い残す言葉は?」
「神の伝言よ。あなた達は地獄に落ちる。絶対に……!」
「ふぅん。まあ覚えとくよ。あなたは死んでなさい、四千年前の亡霊」
二人が拳銃のハンマーを下げる。
「神様……私をお救い下さい……!穢れた魔族に殺される私を……どうか……!」
「神はあなたの最後まで助けてはくれないよ。神はいわば偶像、奇跡が起こるのは最後まで諦めなかった者だけよ。神に従ったぐらいで助かると思わない事ね」
「い、いやあ、」
ヴィーナは力一杯叫ぼうとしたが、錬子と優子の容赦のない拳銃射撃で叫べなかった。
体中に拳銃弾を受け、最後まで本当に助けなかった神に絶望して、ヴィーナは死んでいった。
錬子と優子が所属していた部隊は存在を認めていなかった。
この部隊の特徴は、民間人の殺害を許可されている。
魔王と呼ばれた男、転生して平穏に暮らしたい @force16
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