第34話 クレアとミーナ、傭兵のカーバと対決する

周りに人がいない事を確認してから、クレアとミーナは目の前の黒マントの男に顔を向けた。

「先に名乗らせてもらう。俺はカーバ、これでもAランク傭兵だ」

この世界の傭兵はそれぞれランク付けされている。

一番下のFランクから最高ランクのSまである。

ちなみにクレアとミーナはゼロには伝えていないが、カーバより一つ下のBランク傭兵だ。

「カーバね。魔法メインのプロの傭兵だって聞いたわ」

「こちらも、美しい双子の姉妹二人の噂は聞いている。あまり注目されていないが、それなりの実力者だと」

「一つ上の傭兵にも名が通っているなんて、光栄だわ」

「ふん。お喋りはここまでにするか。悪いが王国からそれなりに前金を貰っている。報酬を貰う為にも貴様ら二人の命を頂戴する」

カーバがマントの留め具を外して、マントの中の装備が現れる。

黒いボディアーマーと右腰の拳銃が収まったホルスターが露わになった。

「魔法メインでも拳銃は携帯しているのね」

「あくまでサブの武器だ。あまり使わん」

カーバが両手を広げ、幾つもの魔方陣を展開する。

「ミーナ、援護して」

「分かった」

ミーナが持っていたSR25マークスマンライフルを構える。

クレアはAK12ではなく、M&P45自動拳銃を持った。

そして、屈んでいつでも走れる態勢になる。

「食らえ。ファイヤーボール」

魔方陣から火の玉が放たれる。

クレアは魔方陣から火の玉が出るのと同時に走り出して距離を詰める。

クレアに向かってくるファイヤーボールは全てミーナの弾が強化されたSR25の狙撃で撃ち落とされていた。

距離を詰めたクレアはカーバに蹴りを入れる。

それが分かっていたカーバは腕で防ぐ。

蹴りが防がれたクレアは拳銃を撃つが、カーバの障壁で防がれた。

その後は攻撃を続けずそのまま後ろに下がった。

「ほう。追撃しないか」

「まだあなたの手が分からないうちは様子見よ」

カーバは魔方陣を展開して、今度は光の槍を放った。

ただし、今度の狙いはクレアを援護しているミーナだ。

ミーナは障壁を腕に展開して飛んできた槍を上に弾き飛ばした。

(障壁で光の槍を上に飛ばして腕の負担を減らしたのか。見事)

カーバはミーナの判断に賞賛を送り、続けてクレアとミーナに向けてファイヤーボールを撃ち続ける。

二人は華麗な身のこなしでファイヤーボールを避け、ミーナは光属性魔法の一つ、シャイニングカッターをたくさん展開してカーバに放った。

カーバは周囲から飛んでくるシャイニングカッターを障壁で防ぐ。

その間にクレアが接近して拳銃を撃ちまくる。

カーバはさっきのように障壁で防いだが、ミーナの狙撃には対応出来なかった。

周りに障壁を展開しているせいで障壁の防御力が低下し、貫通力を強化されたSR25の狙撃で障壁が貫通され、カーバの右肩を貫いた。

「ぐっ……!」

カーバは後ろに下がって右肩の傷を見た。

弾は貫通していてまだ腕は動けそうだが、これで腕の機能が低下した。

あの時、クレアが拳銃を撃ちまくったのはミーナの狙撃を気付かせないようにカーバの注意を引く為だ。

シャイニングカッターで周囲を警戒していたカーバは気配を消していたミーナの狙撃に注意を向けられなかった。

「あの拳銃射撃は狙撃の注意を引く囮か。一人が俺の前に立てばライフルを構えている奴を隠せる。なるほど、見事だ。傷を受けたのは久しぶりだ」

「肩なのが残念ですが、次は重要器官を狙います」

「うちの妹をフリーにするとこうなるのを身を持って体験したけど、次はどうするの?」

カーバはニヤリと笑うと、一気にクレアと距離を詰めた。

クレアは素手でカーバのパンチを受け流す。

カーバのパンチの応酬が激しくなり、少しずつ後ろに下がっていた。

ミーナはクレアがカーバに被って狙撃出来ない。

誤射してしまうからだ。

カーバがこのまま後ろに下がらせようとした時、

「お姉ちゃん!横に避けて!」

ミーナからの声でクレアはカーバの腕を掴んで後ろに倒した。

すると、カーバが倒れた地面から魔方陣が現れた。

それは地面に展開して足元から攻撃する地雷魔法だった。

クレアが距離を取って爆発の範囲内から逃れるが、魔方陣はそのまま消えていった。

カーバが立ち上がり、口から出た血を手で拭った。

「下がらせて踏ませようと思ったが、そこのお嬢さんのせいでバレちまったぜ」

「さっきのファイヤーボールを撃っていた時にあなたの右手から違う魔法が出たのを見ました。途中まで分かりませんでしたが、お姉ちゃんを格闘で後ろに下がらせようとした時に意図が分かりました」

「あのファイヤーボールは地雷魔法を仕掛ける為の目眩ましね。ミーナの注意がなかったら爆発に巻き込まれてたかもね」

「流石だ。あの乱戦でよくぞ見破った。あの地雷魔法は俺以外の対象が踏んだ時に発動するように設定してあった」

カーバが地雷魔法のあった地面に倒れても発動しなかったのはそのせいだった。

自分が間違えて踏んでしまっても問題ないようにする為だった。

「仕切り直しだな。こうも攻撃が効かないと調子が狂うな」

クレアとミーナが武器を構えたとき、二人は前にゼロと模擬戦をやった時の事を思い出した。

『いいか?敵と正面から戦う時、敵を観察しろ。相手がどんな武器を使い、どんな戦い方をするのか見極めるんだ。そうすれば自ずとその攻撃の対処がしやすくなる』

(分かっているよ、ゼロ)

クレアは拳銃のマガジンを交換して、ミーナに目配せする。

クレアの意図が分かったミーナはカーバの足元に魔方陣を展開して、そこから無数の矢を飛ばした。

華麗に避けたカーバだったが、そこから来たクレアのパンチとキックのコンボを受ける事になった。

二秒で受け流せたが、その間に体に少なくないダメージが入った。

クレアは途中で肘と膝の攻撃を混ぜ、少しずつカーバにダメージを与える。

『もし魔法をバンバン使ってくる敵がいたら、なるべく近付いて近距離戦に持ち込め。魔法を使うには頭を使う。頭の中で魔法を想像して魔法を撃つんだ。もし不安定な精神状態で魔法を使ったら、その魔法の効果が低くなる。出来るなら相手に魔法を使わせるな。その方が自分が受けるダメージを減らせる』

クレアは前にゼロに教えて貰った事を活かして、カーバに魔法を使わせないように絶え間なく近接格闘を繰り返した。

カーバはクレアの格闘を防ぐのに手一杯だった。

中々魔法を使う隙がなかった。

(このままだとやられる。なら!)

カーバはクレアの足を払って、クレアを転ばせた。

そこからファイヤーボールを放とうとしたが、ミーナの狙撃で後ろに下がった。

「助かったわ」

クレアは助けてくれた妹に感謝して、立ち上がった。

カーバは内心かなり焦っていた。

こんなにクレアとミーナという少女に追い詰められるとは思っていなかった。

自分がベテランの傭兵でそれなりに強い事を自負していたが、まさか自分の一つ下の傭兵の少女にかなり傷を負わされるとは思わなかった。

(強い。ただ強いだけじゃねえ。意志も俺よりも固い。あの黒髪の男が彼女達を強くしたのか?やべえな、勝てる気がしねえぞ)

カーバの額から汗が流れる。

カーバはその汗を拭った。

まさか自分が汗をかく事になるとは予想していなかった。

目の前の少女二人に改めて敬意を払った。

一方クレアとミーナは一つ上の傭兵とここまで戦う事が出来た事に驚いていた。

ゼロと彼の幹部の指導があったとはいえ、こうも上手くいくとは思っていなかった。

両者とも自分に対して驚いていた。

「そこのお嬢さん方、名を聞こう」

「クレア」

「ミーナ」

「覚えておこう。俺が初めて強者だと認めた者として」

「それはどうも。ところで、あなたの魔力はまだ残ってる?戦いはこれからよ」

「安心しろ。貴様ら二人を倒す分は残っている」

それは嘘だった。

カーバは二人に対して約半分の魔力を消費していた。

残り一割になると思うように魔法が使えなくなる。

一方ミーナの魔力はまだ八割残っていた。

クレアがいるのもあるが、魔力消費を抑えて魔法を使っていたのでかなり節約魔力を出来た。

(こりゃ、早めにケリをつけないとな)

カーバは腹をくくって、二人に宣言した。

「これ以上長引くとこちらが不利だ。そろそろ決着をつけさせてもらう」

「まだ戦いたかったけど、そちらがその気ならどうぞ」

「後悔するがいい。ハアッ!!」

カーバが地面に手を着けると、二人を中心に半径五十メートルの魔方陣が現れた。

二人は魔方陣から逃げようとしたが、足が動けなかった。

「この魔法は俺のオリジナルだ。その魔方陣にいる者は足を動かせない。拘束魔法を混ぜてあるからな」

「お姉ちゃん……」

「ミーナ、作戦があるわ」

「何、お姉ちゃん」

「合図したら私を魔法で奴の後ろに飛ばして。そしたらあなたはすぐに防御に徹して」

「……それであいつを倒せる?」

「必ずじゃないけど、やらないとこっちがやられる」

「分かったよ、お姉ちゃんに託すよ」

クレアは自ら危険な役を任された妹を心苦しかったが、ミーナの笑顔ですぐに苦しさが消えた。

クレアは深呼吸した後、これから強大な攻撃魔法を使おうとしているカーバに顔を向けた。

「話し合いは終わったか?では始めるぞ!」

カーバが魔方陣に魔力を込めると、魔方陣の外側から囲うように魔法で出来た壁が現れた。

そして上に大量の火の槍が針千本のように出てきた。

このまま下に落ちれば二人は無事では済まないだろう。

「これで死ね!《業火の雨》!」

上の火の槍が一気に下に落とされる。

「今よ、ミーナ」

火の槍が投下され、魔方陣の中が火の海に包まれた。

地面が焦げ、辺りは一酸化炭素でいっぱいになった。

さらにカーバは念を入れて地面に神経毒を染み込ませた。

これで万が一地面に逃げられても毒で死ぬ。

しばらく火の槍が投下され、そして魔方陣が消えた頃、魔方陣があった場所は黒こげになっていた。

カーバは膝を着いて血ベトを吐き捨てた。

予定より多くの魔力を消費したが、まだ二割残っている。

右腰のホルスターからロシア製の自動拳銃トカレフを抜いてスライドを引いた。

まさか拳銃を使う時が来るとは思っていなかったカーバはそこまで手負いになった自分を嘲笑い、魔方陣があった場所を見る。

そこには黒こげの体が一つあった。

「よし……あ?」

もう一人の少女はどこに行った?

あの魔方陣からは逃げられなかったはず。

カーバが目を凝らして探していると、銃声とともに左胸に痛みが走った。

「ガハッ……!!」

吐血し、体を見ると左胸に一つの穴があった。

そこから血が流れ、カーバのボディアーマーを赤黒く染めていた。

恐る恐る後ろを見ると、M&P45自動拳銃を持ったクレアが立っていた。

「な…………何故…………?」

「何故生きているかって?ミーナがあなたの魔方陣からあなたの後ろに転移しただけよ」

「転移魔法……だと…………?だが、それを使う暇は…………」

「予めマーカーをあなたの足に付けて正解だったわ。ミーナの痕跡魔法には感謝しないとね」

「……まさか…………あの格闘の時に…………!」

「ご明察。ちょうどあなたの足に蹴りを入れた時に付けたわ」

「…………やられたぜ……だが、お前の妹は……犠牲になったな…………」

「は?何言ってるの?よくあの死体を見なさいな」

カーバが怪訝そうに死体を見ると、急にその死体が立ち上がった。

カーバが驚くと、黒こげの死体の皮が剥がれ、そこから無傷のミーナが現れた。

「何……………!?」

「ゼロさんから自分の薄皮を使った防御魔法を教わっていて良かったです。薄皮ぐらいなら治癒魔法で治せます」

「というわけで私の妹はこの通り無傷よ。あなたの奥義の魔法の規模が大きくてやばかったけど、私達の勝ちよ」

カーバは負けを認め、拳銃を捨てた。

「参ったぜ…………あの魔王の指導力に目を……光らせておくべき……だった……」

「あなたは強かったわ。ゼロとの模擬戦をやらなかったら先に死んでたわね」

「ゼロさん……やっぱり凄いです……」

カーバの口からは血が絶え間なく流れ、もう長くはなかった。

「グフ…………まさかここで負けるとは………貴様ら姉妹を侮っていた……いや……負けてスッキリ……している自分がいる…………そうか……俺は……心の……中で……」

自分に終止符を撃つ者を待っていたかもしれない。

長年負けを知らなかったベテランの傭兵のカーバはそのまま死んでいった。

死んだカーバの瞼を閉じさせ、クレアはこう言った。

「もしあなたと早く出会っていたら、こんな結果にはならなかったかもね」

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