第33話 魔王、ゼシール王国軍司令部に侵入する

翌日の朝、装備を整えた俺は真っ直ぐハーグ王国軍の司令部に向かった。

夜に自分の味方を殺した敵の哨兵二人が気付いて俺にAK47アサルトライフルを向けた。

「ま、魔王が来たぞ!」

「クソ!増援を呼べ!」

一人の哨兵が無線機で増援を呼び、奥から何十人もの兵士がやって来た。

隊列を組んでアサルトライフルを構え、俺を大声で脅す。

「それ以上近付くな!近付いたら発砲する!」

「律儀なこった。だが、お前らの指示には従わない」

俺は敵に撃たれるのを恐れず、一歩ずつ前に進む。

敵は近付くとは思わなかったのか、かなり驚いていた。

だが彼らは軍人。有言実行の塊だ。

「警告したぞ!発砲用意!」

二十丁以上のライフルの銃口が俺に向けられる。

俺は武器も持たず、そのまま前に進む。

「撃て!」

兵士の一人が叫ぶと、兵士達が一斉にAK47を撃った。

7.62×39ミリ弾と威力の高いライフル弾が俺の体に何発も当たる。

だがそれらは全て弾かれた。

兵士達が驚きながらも、射撃を続ける。

しかしどの弾も俺の障壁を貫通する事はなかった。

やがて兵士達が弾を撃ち尽くし、半分は弾倉を交換し、残りはマカロフ自動拳銃を構える。

「クソ!もっと火力が必要だ!ランチャーを持ってこい!」

「安心しろ、その前に終わらせる」

俺は立ち止まり、AKや拳銃を撃ちまくる兵士達に目を向ける。

「眠りの目」

両目に魔力を込め、俺を見ていた兵士達が次々と眠っていった。

最初から兵士達を殺すつもりはない。

なるべく生かしておいた方が何かと役立つかもしれないからな。

すると一人の兵士がRPGを構えた。

「吹き飛べ!」

RPGの榴弾が発射して俺に命中した。

「やったか?」

悪いが、フラグ成立お疲れ様です。

障壁で榴弾を防いだ俺は眠りの目で兵士を眠らせた。

次々と兵士達が現れ俺に向けて撃ちまくるが、障壁で防がれて眠らせれていった。

そしてしばらく前に進むと、上からたくさんの火の槍が飛んできた。

槍が俺を狙って落ちていくが、全て障壁によって防がれた。

と、ようやく現れたか。

目の前に三人の男女が立っていた。

黒マントの男と黄緑色の迷彩のアサルトベストを着た女とドイツ特殊部隊GSG9の装備をした女が俺の進路を塞ぐように俺の前に立っていた。

「ほう。男は初めて見るが、他の二人は知った顔だな」

黒マントの男に見覚えはなかった。

それなりに腕の立つ傭兵だと思うが。

だが他二人は俺も見たことがある。

特に、GSG9の装備をした女はかつて俺の信頼する幹部だ。

なるほど、どうやらこの女が大魔法使いレーシャと融合した人間みたいだ。

「久しぶりだなアレン。レーシャと融合した自分の体はどうだ?」

「…………」

「無駄ですよ魔王。彼女は戦闘に特化しているため、喋る事は出来ません」

両腰のホルスターにM29リボルバーを収めている女がそう言った。

「神道十字軍のヴィーナ元少尉か。お前がアレンを連れて来たみたいだな」

「そうですよ。あなたに対抗する兵器としてここに連れて来ました。あなたも、レーシャと融合したアレンとは戦いたくないでしょう」

「俺が仲間に手を出せない事を知っててアレンをここに連れて来たのか。性格悪いなお前」

「何とでも言いなさい魔王、もうお前の時代は終わりだ。これから神がこの世界を統治する」

「神とやらはいつまでも傲慢だな。信仰心が減ったら増やすように従わせるのは神の言葉に反するんじゃないか?」

「いえいえ。神はこの世界を支配して、神々が主導する世の中に変えるのがお望みです。いつまでも人間や魔族に任せてはおけませんからね」

「世界の管理者になるつもりか?お前の神はワガママで苦労するな」

ヴィーナが顔を歪める。今の発言で怒ったみたいだ。

「これだから魔王が嫌いだ。神を見下すその態度が気に入らない!」

「おいおい、そんなに褒めんなよ。照れるじゃないか」

さらにヴィーナの顔が歪む。

「調子に乗るなよ魔王!いつまでもその態度でいられると思うなよ!!」

「昔より沸点が低くなったな。以外に短気なのか」

「貴様……!」

「てか、センフィーネスのあの倉庫で傭兵部隊と大男を差し向けたのがお前なのは知っているぞ。あと、ハーグ王国の情報提供者を殺そうと傭兵を差し向けたのもお前だな」

図星なのか、ヴィーナは睨んだ顔をしているが黙ったままになっていた。

案外分かりやすくて良かった。

「センフィーネスの傭兵はお前の部隊で、大男は連合軍の生物兵器を複製した。知ったのはあの紋様を見てからだ。あの生物兵器はもう滅んで無くなったはずだからな。アレを知っているとしたら四千年前の連中、それもあの大男に興味を示していた神々の連中しかない」

「あの紋様は我らの兵器を欺く為のものだ」

「じゃあ俺のは?俺にも大男の腕にあった紋様があるぞ」

試しにその紋様を見せると、何だか複雑そうな顔になった。

「そういえば俺が目覚めた時は森の中だった。捨てられたのは分かったが、誰が捨てたのか分からなかった。あのゼペスはハーグ王国の貴族に頼まれて捨てただけだ。じゃあゼペスに頼んだ貴族は一体誰なのか。おそらく、お前と同じ神道十字軍の将校だろう。だから俺の監視にお前が来ていた」

「……それで、何が言いたい?」

「お前達の目的は俺の人格支配、そして俺を神道十字軍の兵器として使う。アレンのようにな」

「!!」

またまた図星だよ。本当に分かりやすい性格だな。

「だからあの紋様をいれたのだろ?お前は我らの兵器として利用される、そのメッセージも含めて。だが保険として転生する体にプロテクトをかけて正解だった。あの禁断魔法が万能じゃないのは俺も知っているからな」

とはいえあのプロテクトは外部内部問わずに危険を感じたら発動するようにしていたが、俺の几帳面な性格が功を奏した。

神道十字軍の駒にされずに済んで良かったぜ。あいつらの言いなりになるのは死んでも嫌だ。

「さて、俺の兵器化に失敗したお前は予備の被検体であるアレンを利用した。どうやってかは知らないが、レーシャの魂をアレンと融合させ、反抗されないように洗脳した。良かったな、苦肉の策でアレンとレーシャを融合して兵器化出来て」

嘲笑うように言ったらヴィーナが急に誇らしげに笑い返した。

「本当はお前をこき使ってやろうと思ったが、このアレンを使ってお前と戦わせるのも悪くはないな」

「確かに、アレンも強いしそれプラスレーシャの魔法だろ?厄介なのはお前の言うとおりだ」

「ならどうするつもりだ魔王」

決まっているだろ。俺は放任主義なんでね。

「どうやらお前の相手はアレンとレーシャの融合体みたいだぞ。張り合いがありそうだぞ」

『なるほど、アレンなら勘が鋭いから闇人に気付くのは当然だな』

俺の足元からクロエが這い上がってきた。

黒マントの男とヴィーナが目を疑うかのように驚いていた。

『久しぶりだな狂信者のヴィーナ、それとアレン』

「まさか死神……?どうやって?」

『私に宿っている魔物の特性がまさか宿主である私が使えないと思っていたか?』

「シャドーヒューマン……なるほど、魔王の影に隠れていたのか」

『その通りだ。お前の事も、アレンの事も、全て聞かせて貰った。おかげでどうしてお前らの脅威であるゼロを見逃したのか分かったよ』

「だが魔王、連れて来た仲間が死神だけなのは心許ないとは思わないか?」

「ああ。だからもっと連れて来た」

俺とクロエの影が大きくなり、そこからクレア、ミーナ、錬子、優子が現れた。

『影さえあれば遠く離れた仲間をここに送るぐらい造作もない』

「これも、お前が考えたシナリオか?」

「クソ、魔王め……こんな伏兵を送るとは……」

忌々しく俺を見るヴィーナ。

四千年前より俺を憎んでいて、それが短気になった原因だと気付いた。

だから奴の考えている事が大体読める。

俺の作戦通りに進みそうだ。

「じゃ、作戦通りクロエはアレンとレーシャを救え」

『任せろ』

「錬子と優子は狂信者のヴィーナを倒せ。奴が転生出来ないようにしろ」

「ま、神道十字軍には借りがあるからね。ちょうど良いから相手になるよ」

「分かりました」

「そしてクレアとミーナはあの黒マントの男を止めろ。決して弱くはないが強くはない。だが油断するなよ」

「ま、簡単にやられる私ではないわよ」

「任せて下さい!」

俺は皆に指示したあと、浮遊魔法で空を飛んで夜に見た大きなテントを探す。

あった。奥にちゃんとあるな。

「クソ!アレン、撃ち落とせ!」

ヴィーナはアレンに命令するが、アレンはヴィーナの命令に従わなかった。

「聞いているのか!?アレン、魔王を、」

「撃たない」『魔王、優しいからね』

アレンの口が開くとそのアレンとレーシャの声が混ざった言葉を言った。

おっと、アレンは喋らないと思っていたが、意外に早くアレンとレーシャが目覚めたな。

「ゼロ、先に行け」『背中は任せなさーい』

「ああ。助かる」

俺は国王がいるデントに直行する。

ヴィーナが撃ち落としてくるかと思ったが、目の前の敵に集中したのか、それとも撃ち落とす力がなかったのか、攻撃してこなかった。


「クソ!このポンコツがぁ……!!」

「ヴィーナ、片言の言葉を話していた方がまだ可愛げがあったぞ」

「くっ……!」

「今は目の前の敵に集中するべきだ。後から追えばいい」

ヴィーナが黒マントの男に宥められ、レーシャを融合したアレンを含めた三人がクレア達に体を向けた。

「ここで全員が戦うのは面倒だ。広い場所で分かれて戦うのはどうだ?」

「敵にしては良い提案ね。そうしましょ」

クレアが黒マントの男の提案に賛同する。

『アレン、救うとはいえ戦って貰うぞ』

「簡単にいかないのは昔から知っている」『問題ない』

クロエとアレンが西へと向かっていった。

「あなたの相手は私達二人よ」

「四千年前の決着をつけましょう」

「……いいだろう。お前達二人の死体を奴に送ってやる!」

怒り心頭のヴィーナと冷静な錬子と優子は東の方向に向かった。

「じゃあ俺は小娘二人を相手してやるか」

「女だからって舐めてかかると痛い目に遭うわよ」

「私達はここで戦いましょう。ハーグ王国の兵士は遠くにいますので」

黒マントの男とクレアとミーナはその場戦う姿勢を見せた。

三つの場所で全員がそれぞれの場所に着くと同時にゼシール王国に雇われた傭兵VSハーグ王国に雇われた傭兵の戦いの火蓋が切られた。

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