第32話 魔王、敵の司令部を偵察する

ふぅ~、もうすぐ敵の司令部に着くか?

日が暮れそうだが、このペースなら夜になる前に着くな。

王国軍からの命令で敵の司令部を強襲するため、先に回り込んでいた。

途中で敵に遭遇すると思ったが、何故か敵の一人も会わなかった。

不思議に思ったが、敵に会わずに目的の司令部まで近付けるなら充分だ。

皆を連れて、警戒を緩めずに歩いていると、突然銃声が聞こえた。

皆は静かに姿勢を低くして、周囲を警戒する。

「どこからだ?」

「五時方向、南西、距離までは分かりません」

「その方角って……!」

クレアの懸念通り、そこには王国軍とアミリア達が待機している敵の前線基地がある。

そこで銃声が絶えずに鳴り響いているという事は、敵は側面から回り込まず、正面から基地を襲撃したと推測した。

なぜこんなメリットの少ない攻撃を仕掛けたのか分からない。

よく耳を傾けると、重機関銃や、装甲車の射撃する音も聞こえる。

かなりの戦力が基地に向かっているだろう。

爆音も聞こえ始め、クレアとミーナが不安になっていた。

「ちょっと待ってよ。敵は犠牲を覚悟して基地に突撃しているの!?」

「多分な」

「なら戻って助けに行きましょう!そうしないと……」

ミーナの言いたい事は分かる。

突然の襲撃で今も王国軍や俺の仲間が被害を受けている。

助けに行きたいのは山々だが、もう敵の司令部の近くまで来てしまった。もう引き返せない。

「もうここまで来たんだ。今さら引き返して助けに行っても遠くて、着く頃には終わっている」

『だがゼロ。それでいいのか?』

「あっちには火属性魔法が使えるアミリアと、多彩な魔法と浮遊魔法による素早さで戦うアーニャ、衛生兵部隊のリーダーのドク、それを支えるヒナ、さらには俺の妹がいる。犠牲は多くなるかもしれないが、必ず王国軍を撤退させるはずだ」

『確かに、うちのエースが三人もいる。問題ないか』

「ああ。今はあいつらを信じて、先に進もう」

俺達は後ろから銃声と爆音が鳴り響く戦場を後にして、敵の司令部に向かった。


辺りが完全に暗くなり、しかし月明かりで少し明るい夜になった。

途中で幸運にも辺りを見渡せそうな小さな山を見つけてそこに登ると、松明の明かりで照らされているテント群を発見した。

錬子と優子を周囲を警戒する見張りにして、他は敵の司令部と思われるテント群を監視した。

双眼鏡でテント群を見ると、やはり何百人ものハーグ王国軍の兵士が警備していた。

やはりあそこが司令部のようだ。

司令部だと判断した後も双眼鏡でくまなく監視する。

敵の兵士は見えるが、妙なことに戦車や装甲車などの陸上兵器はどこにも見つけられなかった。

どこかに行っているのか?

考えられるのは制圧したあの前線基地だ。

あそこに待機していた味方を奇襲する為にほとんどの陸上兵器を投入したかもしれない。

よく見ると、敵の魔術師も歩き回っていた。

四千年前に比べて魔術師の人口は減っているが、まだ魔法に優れた魔術師が必要だから軍に残している。

『ゼロ、奥のデカいテントに動きが』

クロエに言われたテントを見ると、そこにただの歩兵用のテントにしては兵士が五人と厳重過ぎる警備が見えた。

テントの中の松明で中が透けていて、そこに誰かが話し合っているみたいだった。

あの中の会話を聞きたいが、俺達の装備に盗聴器や集音マイクなどの機械は持っていない。

もしかしたら、クロエのアレならテントの中の会話を盗聴できるかもしれない。

「クロエ、今もアレはあるか?」

『ああ。今も私の中にいる』

「テントの中に潜入してこっちに中の会話を盗聴出来るか?」

『久しぶりだが、そのぐらいならやれるだろう』

「やれ」

クロエが双眼鏡を置くと、クロエから魔力が体に纏うと、すぐに下に消えていった。

「どのくらいで着く」

『約一分だ』

「了解」

俺が双眼鏡を覗いて再度敵の司令部を監視していると、クレアとミーナがさっきクロエが何をしたのか聞いてきた。

俺はすぐにそれに答えた。

「シャドーヒューマン。ヒューマンなんて呼ばれているが、それは姿が人みたいだからそう呼ばれているだけだ。シャドーヒューマンは実体のない影で、よく洞窟などの暗闇に潜んでいる」

「シャドーヒューマン!?危険度Aランクの魔物じゃないですか!」

「前にそのシャドーヒューマンを倒そうとどこかの国の討伐隊が派遣されたけど、誰一人帰って来なかったっていう噂があったけど、本当だったのね……」

どうやらこの世界にもシャドーヒューマンは生息しているみたいだ。

危険度Aとランク付けされているが、それはある意味正しい。

シャドーヒューマンは太陽が出ている時は活動しない。

それに彼らは色んな物の影を利用して移動する。

それが頭に入っていれば対処は簡単だが、それが難しい。

シャドーヒューマンの数は少ないし、棲む場所も限られる。

それに彼ら自身強い力を持っている。何百人もの軍隊を投入しないと倒せないぐらい強いのだ。

「クロエはまあ、ある事情でシャドーヒューマンを宿している。クロエのシャドーヒューマンは従順で優秀だから、密偵やクロエを通じてシャドーヒューマンの周りの音を流す事が出来る。まさに使い方次第で悪用出来る魔物だ」

よく偵察や情報収集でシャドーヒューマンは活躍した。

姿を消したシャドーヒューマンの気配に気付けるのはよほどの熟練者じゃないと到底無理だ。

俺の知る限りだと、勇者カイルや大魔法使いのレーシャなどのごく少数しかステルス状態のシャドーヒューマンに気付けない。

『ゼロ、闇人(やみびと)がテントに着いて傍受した。拡声魔法で流す』

本当に一分で盗聴してこっちに音を流す準備を整えた。

さすがクロエのシャドーヒューマンだ。

ちなみにクロエは闇人と名前を付けている。

「よし。じゃあ早速……」

「待って。司令部の入り口で動きあり」

錬子から声が掛かった。

確認すると、入り口の兵士が手前から来たボロボロの兵士五人と何か話しているのが見えた。

ライフルがなく、どの装備も壊れている兵士五人は命からがら司令部に来たみたいだった。

「あいつら、アミリア達を奇襲攻撃した兵士か?」

「多分。でも様子がおかしいわ。生き残った兵士達、怯えているみたい」

「入り口の兵士も何だか怒鳴っているようです。変ですね。普通なら中に入れるはずですが」

確かに、本来なら生きて帰ってきた兵士達を労って、中に入れると思うが。

その予想は外れて、入り口の兵士がボロボロの兵士五人を射殺した。

「マジかよ」

「ええっ!」

「うわ……」

その後奥から兵士達がやって来て、射殺された兵士五人の遺体をどこかに運んでいった。

まさか生き残った兵士を本当に殺すとは思わなかった。

何かがおかしい。ここの兵士、頭がおかしくなっていやがる。

死ぬのが分かっていて突撃させたり、帰ってきた兵士を射殺するなど、普通の軍隊にしては異常だった。

「何か嫌な予感がするな……クロエ、盗聴を開始しろ」

『了解』

クロエがシャドーヒューマンを通じてテントの中の会話を傍受する。

雑音混じりだった音がだんだん綺麗になり、テントの中の会話を聞く事が出来た。

『……これで我々の条件を満たしましたね、マルクス国王陛下』

『よくのうのうとした態度で言えるものだ女狐め。我が兵士が何人死んだと思っている』

今の声がハーグ王国国王のマルクスか。

声を聞いている限りだと、先に話した女に怒っているようだな。

『おや?ご不満ですか?ですが我々にとってたった五百人の命など何とも思いません。数人生き残ってここに来たようですが、約束通り射殺してくれてありがとうございます』

『それがお前の本性か?片言の言葉しか喋らないからおかしいと思ったが、演技をしていたとは』

今度は若い男の声が聞こえた。

ハーグ王国が雇った傭兵の一人だろう。

『この演技もある計画によるものです。あの男を葬る駒が無事にやってくれるでしょう』

『それがさっきから喋らない不気味な女に関係しているってわけか』

そういえば反応は四つあるが、マルクスと傭兵の二人が話しているのに一人だけ黙っている傭兵がいるな。

喋らない事情でもあるのか?

『ええ。何せ彼女は私が、いえ私達が作った人間兵器ですから。そう、我々、神道十字軍によって』

神道十字軍だと?懐かしい勢力の名がここで聞くことになるとはな。

神道十字軍は四千年前に存在した神の軍隊だ。

人間、魔族と並ぶ第三の勢力で、神の指示の基に行動する頭が固すぎる連中だった。

奴らは神の恩恵を受け、猛威を振るっていたが、俺などの魔王軍幹部や勇者カイルなどの連合軍の強者の敵ではなかった。

しかし下級兵士などより強くて、俺もカイルも奴らがよく弱い兵士を狙って攻撃する事に頭を悩ませていた。

神道十字軍を知っている錬子、優子、クロエの部隊は静かに驚いていたが、声を上げずに会話を聞いていた。

『神道十字軍だと?四千年前の神の兵隊の残党が何故この戦争に加担するんだ』

『それが神のご指示であるからです。その為に、魔王軍の幹部の一人と大魔法使いの融合体を作りました』

融合体……しかも俺の仲間とあの大魔法使いのレーシャの。

どうやって二人を見つけて、二人を融合させたのかは分からないが、どうやら神道十字軍の狙いは俺のようだ。

『あの魔王が禁断魔法新世界を使ってくれたおかげでこちらも準備の手間が省けました。これで世界は再び神を信仰する者で選別する』

四千年前は神の信仰心は薄くなっていた。

失った神の信仰心を取り戻す為に、こんな戦争を起こさせたのか。

そして神道十字軍が協力する代償として五百人の兵士の命を犠牲にした。

神は相変わらず自己中心的な奴が多い。

今回の神もそんな性格だろうな。

『なるほどな。ま、俺は金さえ貰えればそれでいい。あんたらの事情は俺には関係ない』

『フフフ。それでこそ傭兵というものだ。理解が早くて助かる……ん?どうした?』

突然音が切れた。クロエに目を向ける。

『融合体に勘付かれた。急いで闇人を避難させたが、追ってこないようだ』

中々鋭い奴だ。完全ステルス状態のシャドーヒューマンに気付くという事はかなりの手練れに違いない。

「司令部の状況は?」

「何故か警戒態勢に入っていないわね、黙認したのかな?」

「あるいはわざとか。どちらにせよ融合体は俺達に会いたいみたいだ」

司令部が警戒態勢に入っていないからといってずっとここにいるわけにはいかない。

少し後ろに後退して、どうやって司令部を制圧するか考える。

「どうする?敵はその神道十字軍という奴らに従っているんでしょ?なら、そいつらだけ倒せばいいんじゃない?」

「クレア、ところがそう簡単にはいかないのよ。神道十字軍はハーグ王国の兵士を人質にとって、あのマルクス国王を脅しているの。しかも傭兵は神道十字軍寄りよ。神道十字軍ばかり狙っていたらハーグ王国軍がフリーになってしまうわ」

「でもどうしますか?このままだとハーグ王国軍が危ういですよ」

優子の言うとおり、神道十字軍がハーグ王国軍を使ってまた特攻させたらゼシール王国軍もハーグ王国軍も共倒れになってしまう。

しかもゼシール王国軍は前線基地に後退して、負傷兵の治療に当たっているからそこから動けない。

またまだデコボコの大地に逃げ遅れてたが、砲撃から逃れた味方が残っている可能性がある。

仲間を見捨てないゼシール王国軍は必ず救出に向かうはずだが、戦力が低下している今は動けないだろう。

そうなると残っている味方が危険だ。

神道十字軍が生き残りの兵士を見逃すはずがない。

残党狩りの兵隊を送って皆殺しにするつもりだろうな。

「なら、マルクスに恩を売ろう。神道十字軍と傭兵を倒して、ゼシール王国と仲直りすればいい」

『その様子だと具体的な作戦は思いついているようだな』

「ああ。その為には皆の力が必要だ。協力してくれ」

俺が皆に目を向けると、全員頷き了承してくれた。

よし、絶対に神道十字軍の好きにはさせない。

神も驚く作戦を実行してやる。

「じゃあ、これより作戦を伝える。この戦争で信仰を得ようとしている狂った神共に俺達がどんな者か見せつけてやろう」

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