第20話 魔王、相手に包囲され攻撃される

「隊長」

「ん?」

演習場の観客席でドクは部隊の仲間とゼロと十一人の元魔王軍幹部と傭兵チームの戦いを見ていた。

ゼロの障壁が破られると周りから歓声が上がったが、ゼロの戦闘用魔道具のボディアーマーの機能で静かになった。

アミリアが近づいてくるゼロを攻撃するがボディアーマーやプロテクターに弾が防がれて圧倒されていた。

双葉も太股に一発当たり、形勢が逆転されていた。

「魔王様……いや指揮官のボディアーマーの機能を知っていましたか?」

「僕も彼が使うまで忘れていたよ。ゼロさんの周りが優秀だからあまり使っている所を見た事がなかったけどね」

「この模擬戦……どちらが勝つと思いますか?」

「普通ならゼロさんだろうけど、彼女達はまだ本気を出していないからまだ分からない」

「そうですか……」

「とはいえ、まだ零さんはまだ能力を使っていないようだね。出来るだけ温存するつもりかな?」

「零の能力って……?」

「それは見た方が早いかな?予測だけど、必ず使うと思うよ」


「そこでお前の背後からの奇襲は驚いた。三人の射撃は囮か」

「さすがお兄ちゃん。歩く理不尽」

「理不尽言うな。俺はそんなに強くないぞ」

(強くなかったらアミリアの銃剣で決着が付いた筈だけどね)

零の背後からの奇襲を避け、俺は拳銃を構えている零と睨み合いをしている。

他のメンバーはどこかに隠れてしまった。

上にいたアーニャもいなくなっている。

「まだ諦めていなくて良かったよ。まだ俺は満足していないからな」

「だろうと思ったよお兄ちゃん。だから出来るだけ温存したかったけど、そうも言ってられないから能力を使うよ」

零の能力は把握しているが、『どっちの』能力を使うんだ?

零が深呼吸すると、零の周りから魔力が溢れ出てきた。

『そっち』の方の能力か。これは厄介だ。

零の魔力がだんだん黒くなり、周囲を威圧する。

周りの観客が震えているのが分かる。

そして零が目を開けると、赤黒い目を俺に見せた。

「ごく稀に出る人間の魔物化、通称魔人。今となっては一人しかいない魔物の頂点が現れるか……」

魔物がどうして出来るのかはあまり解明されていないが、生物が持つ魔力が暴走すると魔物になると言われている。

だがそれはあくまで知性のない生物のみ。

知能の高い生物が魔物になるのはごく稀だ。

だがその生物が魔物になると討伐するのが難しくなる。

だから知能の高い魔物は基本危険度の高いランクになっている。

人間が魔物になるのはさらに稀だ。

普通なら人間が魔物になって魔人にはならない。

だがある事件によって零は魔人になった。

詳しくは言えないが、憎悪と無念、そして激しい恨みと復讐心が多く募って零は魔人になった。

しかも暴走せずに理性を保った魔人に。

その零が今目の前にいる。

「フフフッ。お兄ちゃん、久しぶりに兄妹喧嘩……やろ?」

「理性は保っているとはいえ、闘争心を抑えるのは無理か」

俺が構えると一瞬で零が距離を詰めた。

時間にして僅か0.5秒だろう。

そして拳銃を俺の顔に向ける。

すぐに首を傾げると、俺の左耳から銃声が鳴った。

魔力で耳を守っていたから鼓膜が破れる事はなかった。

零が続けて横蹴りを入れる。

俺はすぐに腕で受け止める。

蹴りが受け止められるのを想定していたらしく、零が拳銃を連射した。

もう片方の腕のプロテクターで防ぐ。

そして素早いバック転で後退しながら拳銃を撃ってきた。

プロテクターで弾いていると、紫色の火の弾が飛んできた。

「うおっ!」

横に避けると後ろの大きな岩が爆発して粉々になった。

相変わらず魔人の攻撃魔法は威力が高いな。当たったらひとたまりもない。

油断していると零が拳銃を撃ってきた。

もうリロードを終えたのかよ。

さてはバック転している間にもうリロードしたな。相変わらず化け物染みた動作だよ。

デザートイーグルで撃つが零の障壁で防がれて、そのまま遠くに逃げてしまった。

「魔人が逃げるのか?」

「そうですよ。交代の時間です」

後ろから優子の囁く声が聞こえて、声がした方向にデザートイーグルを撃つ。

避けられたのか、弾が当たる音はしなかった。

振り向くと優子がTMPサブマシンガンを構えていた。

デザートイーグルを再装塡しようとすると優子の射撃が始まった。

左手のプロテクターで防ぎながら右手のデザートイーグルで応戦するが、優子は戦闘用の義足のパワーを使って避けながら射撃を続けていた。

俺はデザートイーグルをホルスターにしまって、優子に接近する。

優子が避けるのを止めてTMPの銃口を俺に突き付ける。

すぐに腕を掴んで横にTMPの発砲を避ける。

足を引っ掛けて横に回して優子を地面に倒し、優子の腕からTMPを奪う。

優子が距離を取って拳銃を構えようとする。

先に俺がTMPを優子に向けて威嚇した。

「まあ優子にはコレはいらないだろ?」

マガジンを落としてスライドを引いて残っている一発の弾を出した。

TMPを遠くに飛ばして落としたマガジンも蹴っ飛ばした。

優子は拳銃じゃなく専用武器の『ジャック・ザ・リッパー』を抜いた。

優子は俺に接近して自分の義足のパワーを使って何度も斬り掛かる。

プロテクターで全て防いで後ろに優子を蹴っ飛ばした。

受け身が取れずにそのまま転がった。

「ガハッ……!」

優子の口から血が出る。

「どうした?ご自慢のスピードはそれまでか?」

優子はニヤリと笑って立ち上がる。

そうだ。諦めずに最後まで戦うのが重要だ。

デザートイーグルを自動装塡装置で再装塡して、ベルトに付けられた拳銃用の銃剣をそのまま拳銃で装着する。

「まだやれるな?」

「ええ。もちろんです」

優子が変わらない天使のような笑顔を見せ、二丁の拳銃を抜いた。

このままアキンボ勝負か?頭の良い優子がそんな事するはずがねえ。

絶対に裏がある。

ガチャン!

「何?」

俺の右腕に創造魔法で具現化されたと思われる鎖が付けられた。

飛んできた方向を見ると左腕から鎖を出して俺の左腕を拘束したメリーが立っていた。

「お前……目立った攻撃をしないと思ったら俺が油断するチャンスを窺っていたのか」

「そうしなければあなたに勝てないもん。それに、」

メリーの腕に傘型のSPAS12が握られていた。

上からM1ガーランドを構えたアーニャが現れる。

横からは錬子と優子、ヒナ、零が銃を構えて現れた。

後ろにも気配を感じた。

四人だからクレア、ミーナ、クロ、双葉だろう。

「まだ一斉攻撃を諦めていなかったのか。確かに友好的だが俺の魔道具には……あ?」

ボディアーマーやプロテクターに魔力を流し込めない。

それどころかメリーの鎖から魔力が吸われている。

ただの魔法で作った鎖じゃないな?

「ご名答。私の鎖は相手の魔力を吸収して相手の魔法を使えなくする。もちろん魔道具もね」

「まんまとやられた」

右手のデザートイーグルをメリーに撃とうとすると上からアーニャに狙撃されて、デザートイーグルが遠くに飛んでいった。

「王手よ、お兄ちゃん」

零達が一斉に銃を構える。

全員今度こそ追い詰めたと確信した顔をしていた。

だが、

「悪いな。このままやられる訳にはいかない」

煙幕魔法で体全体を煙で隠す。

周囲に煙が広がって零達が後ろに下がった。

まずは邪魔な鎖を外すか。

ボディアーマーのポーチから小型ナイフを出して指に付け、メリーの鎖を切った。

メリーの鎖が引っ込んでいく。

そして俺はデバイスを操作して予備の散弾銃を出す。

そしてそれを右に回りながら『フルオート』で撃った。

「銃撃よ!避けて!」

煙の外からアミリアの声が聞こえた。余計な事を。

弾が切れると同時に障壁が使えるアミリア、アーニャ、零が障壁が使えない他の仲間を守っているのが見えた。

そして俺の持っている散弾銃を見て納得していた。

「そういえばあったね。フルオートマチックのショットガンが……」

「AA12……数少ない連射出来るショットガンの一つ」

AA12はアメリカのMPS社が開発した軍用散弾銃だ。

毎分300発の散弾を撃つことができ、またその時の反動は少ない。

特殊なガスシステムによって反動が少なく撃てるようになっている。

マガジンには30連ドラムマガジンを装塡していて、それを一気に撃ちまくった。

僅か2秒だったが、アミリア達の障壁に弾痕が出来ていた。

マガジンを捨ててドラムマガジンを装塡する。

「さて、そろそろ決着をつけよう」

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