第19話 魔王、仲間と模擬戦を行う

数週間後、ゼシール王国軍の大型演習場で俺と元魔王軍幹部の模擬戦をやる事になった。

もちろんお遊びでやる訳ではない。

俺の能力の把握と確認の為でもあるし、王国軍に実力を見せる為でもある。

演習場の外には貴族や軍の上層部、非番の兵士達、アミリア達幹部の部下達、さらにはスラマンとその家族も来ていた。

まったく見世物じゃないんだが。

ちなみにドクは模擬戦を辞退して観客席にいる。

自分はアミリア達みたいに強くないから、観客達を失望させるかもって言って断った。

俺が戦うのは零、アミリア、アーニャ、ヒナ、メリーピトフーイ、双葉、錬子、優子、クレア、ミーナの十一人だ。

約十人がかりで俺と勝負し、皆の実戦経験を積む。

特にクレアとミーナは本格的な戦闘をまだ経験していない。

アミリア達と共闘して戦えば二人の実戦経験がかなり積まれる。

二人もアミリア達が一緒だと言ったら凄く喜んでた。

さて、まずはルールを確認しておくか。

「皆。ルールの確認だ。今回は実戦形式の模擬戦だ。銃の弾は殺傷能力を消した模擬弾薬を使う。魔法、専用武器、あらゆる攻撃を使って俺を倒せば勝ちだ。逆に全員模擬戦を継続出来ない状態になったら負けだ。分かったか?」

相手の女性陣からルールをしっかり理解したと返事が返ってきた。

俺一人に対して色々と強い女性陣の模擬戦か。

正直勝てるとか負けるとか以前に、やりにくいなぁ。

俺だって男だ。模擬戦とはいえ女と戦うのは気が引ける。

今回はそんな事言ってたらすぐにやられる。

何せあっちには化け物並みに強い女性が多い。

あまり手加減しているとやられる。

『それでは、これより三分間。作戦会議時間を設けます』

拡声魔法から王国軍の審判のアナウンスが入った。

久しぶりの模擬戦だから女性陣で作戦会議をする時間を設けるよう俺が頼んだ。

一緒に戦うのが初めてのクレアとミーナがいるからな。

『では、作戦会議を始めて下さい』

さて、あっちの作戦会議を優雅に待ってるか。


「じゃあ、指揮官を倒す作戦を考えるか」

「どうやるの?あいつは自動で障壁を展開するのよ」

「確かにあの自動障壁は厄介だ。だが何度も攻撃すれば障壁を破れる」

「どのぐらい障壁を攻撃すれば破壊出来るのですか?」

「……確か指揮官がその実験を四千年前にやった所、戦車の砲撃約五発だったと思います」

「あれ?意外にお兄ちゃんの障壁ってそんなに固くないんだね」

「自動で障壁を展開するのも魔力をかなり使うから、その分障壁が脆いのよ」

「ですがそれでもかなりの攻撃をしないとあの障壁を壊せません。本気でやらなくても高火力の攻撃で障壁を破壊しましょう」

「でもね~、問題はその後なんだよ」

「メリー、そういえばゼロが戦っている所見たことある?」

「いや、ゼロはほとんど戦わなかった。戦っても銃で対処したから本気で戦っている所を見ていないんだ」

「零は?」

「ごめん……私も本気でお兄ちゃんと戦った事ない」

「え!?あいつ、そんなに強かったの!」

「正解でもあり不正解だよクレアちゃん。指揮官様は当時魔王と呼ばれていて存在自体目立っていたから色んな敵にその動きを見られていてあまり戦わなかったの」

「それに、あいつは面倒事が嫌いだからよく私達幹部に頼んでいたわ」

「……聞いてみると勝てる気がしないんだけど」

「ゼロさんって凄い……!」

「おや?ミーナちゃん、もしかして……」

「お姉ちゃん、それは後で。今はゼロの障壁を破った後の作戦を考えないと」

『なら、私の作戦に乗るか?これなら奴に勝てるかもしれない』

「クロエ、何か作戦が?」

「クロエ?」

「ああ。クレアちゃんとミーナちゃんは知らないと思うけど、クロエ=ブラックホールが本名だよ」

『……それより話を聞け。作戦はこうだ……』


何かクロが皆に話しているな。

クロの立てる作戦は厄介だから、警戒しとくか。

両脇にデザートイーグルが収まったホルスターを装備し、ベルトの後ろに自動装塡装置を付けた。

今回はあまりM4A1の出番は少ないかもしれない。

接近戦が多くて取り回しがあまり良くないアサルトライフルはあいつらと戦うのに向いていない。

お。ようやく作戦がまとまったか。皆で頷き合っている。

『三分が経過しました。作戦会議を止めて下さい』

アナウンスが入り、アミリア達の作戦会議が終わった。

銃のセーフティを外して、ボルトを引く。

カチャン!という音がミックスして軽快な音が演習場に流れる。

「あ。先に言っておく。俺は五分間攻撃しないし攻撃を避けないから安心しろ」

「ハンデって意味で良いよね?」

「ああ。まずはお前達の実力を見ておきたい」

アミリア達がニヤリと笑う。

うわー、絶対俺が嫌な作戦を立てたな。

クレアとミーナも笑っているし、何か吹き込まれたな。

『それではこれより模擬戦を開始します。神に恥じぬ戦いを』

神……か。あの管理者気取りの連中に恥じぬ戦いをするのは性に合わない。

まあ今は敵対する神はいないからどうでもいい。

目の前の相手に集中しよう。

「行くわよ!ゼロ!」

アミリアの号令でそれぞれ左右や空に飛んで散開した。

アーニャが浮遊魔法が使えるのは知っているが、何をする気だ?

アーニャを見ていると横から銃撃された。

ヒナがP90で撃ったみたいだが、俺の障壁で防がれていた。

PDW程度の弾でこの障壁を破れないのは知ってるはず。囮か?それとも何かを逸らすフェイク?

今度は背後から銃撃された。

クロと双葉のアサルトライフルの射撃だった。

だがこの射撃も障壁によって防がれた。

何がしたいんだ?障壁を壊したいならもっと高火力の攻撃じゃないと無理だぞ。

「ん?」

前と右から銃撃された。

前にはアミリアとクレアとミーナ。

右には錬子と優子がいた。

まさか……。

俺はあいつらの作戦を予想した。

そしてそれが当たったと身をもって実感する事になった。

「撃て!」

四方から一斉に銃撃された。

障壁が自動で展開されて銃撃を防ぐとはいえ、障壁の耐久性がどんどん落ちている。

俺の自動障壁の燃費の負担が高いのを知っていて、障壁を展開するのとあらゆる方向から来る攻撃を自動で展開するので魔力切れを狙うつもりだ。

ビシッ!

上から一発の弾が飛んできて障壁で防がれた。

アミリアの攻撃だ。だがトンプソンの45AC

P弾の威力じゃない。

見ると細長い木製のライフルの銃口がこっちに向けられていた。

あれは……M1ガーランドか。

7.62ミリ弾を使う旧アメリカ軍制式ライフルのM1ガーランドの7.62ミリ弾が俺の頭上の障壁に撃ち込まれていた。

そのアーニャのM1ガーランドの銃口が黄色く光り始めた。

「やべっ!」

俺はアーニャの攻撃に備えて残っている魔力を半分使って障壁を上半身に回した。

そしてアーニャの放った7.62ミリ弾が飛んできて障壁に大きなヒビを入れた。

あいつ、貫通の付与をM1ガーランドの銃身にしやがった。

本来の威力に貫通力を上げて、俺の障壁にヒビを入れた。

しかも貫通力が高いのか、八割の障壁にヒビが入っていた。

アーニャはさらに貫通の付与を施したM1ガーランドの狙撃を続ける。

やばいな……そろそろ障壁が破れる。

思ったよりアーニャの貫通の付与魔法が強かった。

だが。

腕時計を見ると俺の指定したハンデが終わるまで残り一分。

このペースなら障壁が破壊されるにしてもギリギリの時間だろう。

中々悪くない作戦だ。

四方に障壁を分散させて障壁に回す魔力を増やし、さらにアーニャの狙撃でごっそり削って障壁を破る。

そこから一斉に突撃して俺に攻撃するだろう。

だがその時間が少ない。ハンデがあっても俺の障壁を壊すのはやっぱり……んな!?

前からさっきまで撃っていたアミリアがAKを撃ちまくりながら突撃してきた。

タイミングが早過ぎるだろ。何でこのタイミングで?

奥のミーナの手から火のバレーボールサイズの玉が飛んできて理解した。

あの玉で一気に障壁を壊すつもりだ。

アミリアがAKのマガジンを交換しないで銃口に付けられた銃剣を構える。

その銃剣が赤く燃えた。

やっぱり使うか。火属性魔法に特化した付与魔法を。

銃剣に燃焼と溶解の魔法を付与しているのが分かった。

アミリアが俺に銃剣を刺突する。

俺の障壁が必死に止めるが、他の所に回して少なくなった魔力ではすぐにロウのように溶かされる。

あとわずかな時間で俺に銃剣を刺すつもりか。

「いっけええええぇぇ!」

障壁が溶かされ、俺のボディアーマーに銃剣が刺さる。

「えっ!?」

アミリアが素っ頓狂な声を上げた。

銃剣が刺さらずボディアーマーを貫通しなかった。

アミリアが後ろに下がって距離を取る。

他の女性陣も距離を取って俺がアミリアの銃剣を防いだ事に驚いていた。

「何で……?まだ時間があったはず……?」

一番驚いているアミリアに種明かしをしてやろう。

「言ったはずだ。攻撃しないし避けないって。逆に言えば防御はするって意味だ。お前達は俺の障壁ばかりを気にしていたようだが、ボディアーマーの機能には気づかなかったようだな。まあ俺もさっき知ったけどな」

「機能……?まさか……!」

「気づいたか。そう。俺のボディアーマーは魔道具だ」

魔道具とは本来自分の魔力を利用してその道具を使うことが出来る。

微量な魔力でもその道具本来の機能を発揮する。

魔道具自体はこの世界にも幅広く普及しているが、戦闘用はまだそんなに発達していない。

生活用品でよく使われるのが家庭用魔道具だが、俺は自前のボディアーマーを改良して『物理攻撃完全吸収』という付与魔法をかけた。

その機能を作戦会議まで忘れていたが、ようやく思い出した。

やはり転生して忘れている記憶があるな。

思い出せばまだ俺の能力が分かるかもしれない。

「だがかなりギリギリだった。あと僅か0.

1秒でお前の銃剣が刺さるかと思った。作戦会議中に思い出していなかったらどうなってたか……だが結果はこの通りだ。障壁は破れられたが、まだボディアーマーの機能が残っている。それに、少しでも魔力が残っていたら回復する」

俺は指のデバイスを操作してある装備を一気に付けた。

防弾フェイスマスク付きヘルメット、関節に付けるプロテクターパット、腕に付けるプロテクター。

全て魔道具だ。四千年前に作った戦闘用の魔道具だ。物によっては人殺しの道具だ。

だがどの時代でも民間の技術は軍事利用されてきた。

天気を予測する物から敵の位置を把握する物に変わった衛星、鉄の発達が剣などの武器に変わった事だってある。

逆に遠くの敵を殲滅する大砲が花火を撃って人々を魅了する平和利用された物もあるがな。

「時代はいつでも最新を求めている。敵も味方も賢くなって新しい戦い方や武器を作る。原始的な戦いの時代は終わり、現代的な戦いに移行している」

二丁のデザートイーグルを抜いてスライドを引いた。

「さあ来い。普段戦わない俺が戦う絶好の機会だ。せいぜい楽しませてくれ」

俺は前に歩き出してアミリア達に近づく。

アミリアは俺の動きに反応して新しい75連ドラムマガジンを装塡して俺に撃っていた。

だがアミリアの撃った7.62×39ミリ弾は俺の魔道具のボディアーマーやプロテクターで防がれていた。

「クレア!ミーナ!左右に散って!」

アミリアが二人を左右に散開させ、左右にいる仲間と合流させる。

アミリアのAK47の弾が切れ、俺はアミリアに殴り掛かる。

アミリアの素早い判断で横に避けられて腹にAKの銃剣の太刀が当たる。

だがボディアーマーには傷一つ付いていない。

「防刃の付与まで!?」

アミリアは弾切れのAK47をスリングで肩にかけ、右手でPP2000を抜いてフルオートで撃つ。

弾は全部弾かれたアミリアは俺の右ストレートの銃剣を食らう事になった。

腕のグローブで銃剣を掴んだが、俺の膝蹴りで地面に倒れた。

俺がトドメを刺そうとすると上からアーニャが狙撃してアミリアの後退を援護した。

デザートイーグルでアーニャを落とそうとするがビュンビュン飛び回って中々当てられない。

弾切れになって自動装塡装置でリロードすると、クロと双葉が突撃してきた。

右からヒナのP90の援護射撃を受けたが、腕のプロテクターで頭を撃ち抜かれるのを防ぐ。

そして双葉が横に回り、クロがアサルトベストのホルスターからコンバットナイフを出して俺に斬り掛かる。

容赦ないクロのナイフが体中に斬り付けられるが、腕のプロテクターで全部防いでいる。

後ろから双葉がG3を撃ったがボディアーマーに防がれた。

クロが斬り掛かった時にナイフを持った腕を掴んで遠くに蹴り飛ばし、後ろの双葉にデザートイーグルの正確な射撃をした。

「ぐっ!」

双葉は横にローリングして避けるが足に一発当たった。

デザートイーグルの50AE弾の威力は自動拳銃界最強だ。

殺傷能力は消されているが、弾の威力で太股の骨にヒビが入ったはずだ。

双葉に攻撃を仕掛けようとすると錬子と優子とヒナの制圧射撃が入り、一時的に後ろに下がった。

マガジンに装塡されている弾を錬子達に向けて撃ちまくり、自動装塡装置でリロードしてさらに撃った。

錬子達は何とか弾を凌げる大きな岩に隠れたが、俺の射撃で身動きが取れなくなっていた。

さあどうする?このまま隠れているつもりか?

「隙あり!」

「うおっと!」

背後から銃剣を構えて突撃した零に驚きながらも避けた。

錬子達のあの射撃は背後から回り込む零に気づかせない為か。

零が20式小銃の5~7発のバースト射撃をするが、腕のプロテクターで防いだ俺はデザートイーグルで反撃する。

零はアクロバティックな動きで俺の撃った弾を全て避けた。

「やる~」

俺は自動装塡装置でマガジンを再装塡して零に二丁のデザートイーグルを構えた。

零は20式小銃をスリングで背中にかけ、VP9自動拳銃を構えている。

零の顔はまだ戦う意思を持っていた。

まだ俺を倒す作戦があるらしい。

いいぞ。それでこそ俺の妹だ。

他の皆も作戦の為か動いている。

まだまだ勝負はつきそうにないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る