第18話 魔王、ゼシール王国軍の現状を確認する

王国の城で豪華な夕食を食べ、王国が貸してくれた部屋で一泊した次の日、朝に城の駐屯地の広場に元魔王軍部隊と俺達傭兵チームが集まった。

全員戦闘装備をして、俺の前に集まっていた。

アミリアの部隊はロシア軍特殊部隊スペツナツの野戦服、ボディアーマー、その上にアサルトベストを着ていた。

顔は目出し帽で隠し、頭にはヘルメットを被っている。

武器はロシア製の武器が主体で、AKシリーズのアサルトライフルに、PKMやRPDなどの軽機関銃、SVDドラグノフやSVUなどの狙撃銃を装備している。

その部隊の隊長アミリアは、同じ野戦服にアサルトベストを着た軽装備だった。

手には世界で一番有名なソ連製の突撃銃AK4

7を持っていた。

通常の二倍以上撃てる75連ドラムマガジンを装塡し、銃口の下には銃剣が付けられている。

両腰のホルスターにはPP2000サブマシンガンが収まっている。

また彼女のベルトの後ろにはGSH18自動拳銃が収まったホルスターが二個、重なって付けられている。

アミリア、というより多くの武器を携帯して戦える幹部は近距離でも戦える武器を最低限装備する。

アーニャの部隊は服装は旧アメリカ軍の兵士と同じだが、武器はバラバラだ。

色んな第二次大戦期の武器を装備していた。

主に空中戦が多いから、ライフルを装備している兵士が多い。

アーニャは旧アメリカ軍制式短機関銃のトンプソンM1A1。

軍用に改造されたトンプソンに50連ドラムマガジンを装塡している。

彼女の胸のホルスターには同じ旧アメリカ軍の主力拳銃M1911ガバメントが収まっている。

ドクの部隊はフランス特殊部隊GIGNの装備とほぼ同じで、防弾フェイスシールドを付けていた。

彼らの武装はフランス製のFAMASブルパップ式アサルトライフル、ベルギー製のPDW(個人防御武器)のP90、ドイツ製のMP5サブマシンガンというGIGNで採用されている武器が多い。

ドクは同じ装備に専用のメディカルアイテムをボディアーマーに付けていた。

ドクの専用武器は救急医療銃型注射器『スティムピストル』という回復アイテムだ。

ドクが技術班に遠くからでも味方の傷を治せる回復アイテムを要望されて開発された専用武器だ。

攻撃するのではなく回復させるこの注射器は、前世のゲームで流行ったステルスゲームの主人公が持っていた麻酔拳銃の作動方式を利用している。

ヒナはPDWのP90に、38口径のMR73リボルバーを装備している。

なぜリボルバーを装備しているのかと前に聞いたら、短い時間に多くの銃弾を敵に当てたいから、と言われた。

ニューギニア固有の毒鳥の名前のピトフーイの部隊は黒い戦闘服とボディアーマーを着ていた。

彼らの任務の時間帯は主に夜だから全身黒い装備をしている。

アミリアの部隊と同じように顔はガスマスクや目出し帽などで隠している。

武装はアーニャの部隊と同じでバラバラ。

というのも、各自が自分の力を引き出せる武器を選んでいるから、様々な銃を携帯している。

隊長のピトフーイは赤いレンズの戦闘用ガスマスクで顔を隠し、ヘルメットで頭を守っていた。

体には部隊のメンバーと同じ黒い戦闘服にボディアーマー、そして専用装備のアサルトベストを着ていた。

ピトフーイの専用装備は対人、対魔物用防御ベスト『アイゼンヴァント』という次世代アサルトベスト。

ドイツ語で鉄壁を意味するそれは銃弾や打撃などあらゆる攻撃を無効化する魔法付与や耐衝撃性を備えた規格外なアサルトベストだ。

50口径のデザートイーグルクラスまでの銃弾なら目の前で撃たれても弾いて使用者に傷つける事が出来ない。

武器はドイツ製のHK416Cという短縮型アサルトライフルとドットサイトを付けたグロック34自動拳銃、そしてピトフーイの専用武器『ライトニングホーク』の三つだ。

デザートイーグルをモデルにした50口径自動拳銃『ライトニングホーク』はモデルになったデザートイーグルより反動が軽減されていて、銃身が少し短いのが特徴だ。

色は黒で、それはピトフーイの右脇のホルスターに収まっている。

そしてもう一人紹介するのはピトフーイを支える副官双葉=ブリッツというアーニャと同じロリ体型の金髪少女だ。

魔族である彼女はピトフーイの右腕で、小柄な体型を生かした近接戦闘を得意としている。

武器はイギリス特殊部隊SAS仕様のG3アサルトライフルと二丁のMiniUZIサブマシンガン、USPコンパクト自動拳銃の三丁。

そして俺達の装備はいつもと変わらない。

「よし。今日は集まってくれてありがとう。今日は今の状況を確認してから動きたいと思う」

「今の状況って言われても……私とミーナは戦争の事あまり詳しくないから今日はあなたに任せるわ」

そうか。クレアとミーナは戦争を経験していない。まあ普通の人はまず経験がない奴の方が多い。

「まあクレアとミーナは今日は聞いているだけでいいよ」

「そうするわ」

「分かりました」

「まずアミリア。ここの兵の情報を確認の為にも教えてくれ」

「ここの兵士の数は約五万。そのうち二万が魔法師団よ。武器はM16A3とM14のライフル、M60軽機関銃よ。だけどこの数十年、出兵していないから兵士の心構えが甘いよ」

まあセンフィーネスでも戦争の話を聞かなかった。

それだけの期間が平和だったという事だ。

喜ばしい事だが、いざ戦争が起きた時に平和ボケしているのはいけない。

「ここの兵器は?」

「それが何もないの」

「何もだと?」

アミリアに聞き返したのはアーニャだ。

「戦車も装甲車も大砲も迫撃砲も無いというのか?」

「その通りよ。さらに言うと航空兵器も無い。まあ魔法を利用した砲撃はあるみたいだけど」

「頼りないな。まああの国王が頭を下げるぐらいだ。兵器の無さも理由の一つだったという訳だ」

各部隊がそれぞれ兵器が無い事についてどのように戦うか話し合う。

元兵士なだけあって詳しく掘り下げて話し合っていた。

「ねえ。兵器が無いと何か問題あるの?」

クレアが俺に聞いてきた。

「歩兵を支援する兵器が無いと歩兵の損耗が高くなる。最終的に重要になるのは歩兵だ。その歩兵の数で戦争の勝者が決まる」

「つまり兵士の数が少ないと敵の司令部を制圧出来るまで至らないって事?」

「俺達はあくまで傭兵だ。主役はここの兵士だ。大体の敵部隊と戦うのはここの兵士じゃないと俺達の負担が増えてしまう。まあそこはここも分かっているはずだ」

「じゃあハーグ王国の方が有利って事?」

「必ずしもそういう訳ではないが、あっちにも兵器を持っている奴がいるかもしれない。そうなると、あっちより強力な兵器が必要だ」

前の世界の大国も戦争時に強力な兵器による支援によって危機的状況を打破した。

個々の歩兵の能力も大事だが、状況を変える兵器の数が多いのも大事だ。

「でもゼシール王国は魔法師団の攻撃魔法で兵士の魔物討伐を楽にしているから今すぐに強力な兵器を作っても戦争には間に合わないわよ」

「だろうな。そんなすぐにポンと兵器が完成する程世の中優しくないのは知ってる」

そこまでこの世界の技術は発達していないからな。

「じゃあどうするの?」

「俺の懐から出すしかない」

クレアがコイツ何言っているんだって顔を向けたが、俺は無視して指のデバイスを起動して、色んな物を収納しているストレージを見てみた。

兵器を中心に見てみると一機のソ連製の攻撃ヘリコプターハインドD改があった。

これは確か四千年前にコレクション目的で自分好みのハインドDを造らせてそのまま異空間収納に保管して結局そのまま出すことが無かった機体じゃなかったか?

俺も今まで忘れていた。名前を見て思い出したレベルで忘れていた。

こいつが使えるか分からないがとりあえず出してみよう。

デバイスを操作して何もない基地の広場にそのハインドD改を出す。

「うわっ!」

「おお!」

「凄え……!」

皆が俺が出したハインドを見て驚いたり感嘆の声を出していた。

周りの兵士も立ち止まって俺のハインドを目に焼き付けるように見ていた。

「鑑賞用のネイビー迷彩パターンのハインドだ。装甲には通常の物に加えて魔力と物理の二重障壁を施してある。武装は12ミリ機銃と対地ミサイル、それと対空ミサイルを搭載している。フレア搭載で、攻撃魔法の玉なら簡単に誘導出来る。世界大戦を始められるな」

「凄いわね……見たところ操作は変わらない使えるの?」

「鑑賞用だから使った事はないが、整備すれば使えるかもしれない。アミリアの部下にパイロット経験のある奴はいるか?」

「ええ。見てもらう?」

「頼む」

アミリアがパイロット経験のある部下に指示してハインドの状態を確かめてもらう。

どうやら簡単な整備とガソリンを入れれば問題なく動かせるようだ。

後日確認も兼ねた訓練をさせて使えるようにしよう。

アミリアのパイロット経験者の部下に頼んだら喜んで引き受けてくれた。

まともな攻撃ヘリの訓練はおろか一度も乗っていなかったらしいから頼んで良かった。

次は……兵士の強化訓練だな。

だらけた兵士の教育するのに適した奴は……

「アーニャ、やれるか?」

「私が?使う武器が違うぞ」

「射撃は自分達でもやれる。だが心は何度も訓練を通して鍛えるしかない」

「何でアーニャさんなんですか?」

ミーナが俺に質問してきた。

それにはちゃんとした理由があった。

第二次大戦時、アメリカの基地で一時期教官を務めていた。

時期は1943年からノルマンディー上陸作戦までやっていた。

小柄な体型で新兵に馬鹿にされるが、彼女は強い力と過酷な経験を通じて新兵の生意気な態度を改めさせた。

アーニャの父は陸軍の歩兵だったが、旧日本兵によって殺された。

父を殺した復讐で1942年に入隊して当時のアメリカ軍を驚かせた。

まず入隊したのは彼女が8歳の時だった。

軍部からたくさんの批判があったが、訓練課程を首席で卒業し、特に彼女の子供ながらで圧倒的な射撃能力で批判から羨望に変わった。

それは彼女が持っていた才能だけでなく、父親を殺した枢軸国の復讐心が彼女が鍛える新兵を伝染させた。

彼女は人を魅了し、士気を高める能力があるから俺はアーニャに頼んだ。

「それに、お前は面倒見が良いからな。教官の経験があるお前にしか頼めない。やれるか?」

「……まあ久しぶりに教官をやりたいと思っていた所だ。いいだろう、ここの兵士の気を引き締めてやる」

アーニャは素直に感謝しないが、久しぶりの教官時代を思い出して引き受けてくれた。

昔からあまり自分に正直じゃないのが彼女の短所だ。

「まあこれをしばらく続けて敵の動きがあるまで敵を泳がしておこう」

「アミリアさんとアーニャの部隊はそれで良いですが、僕とピトさんの部隊は何をすれば?」

「……自主練習?」

『何も考えていないのか?』

ギクリ。流石ピトフーイだ。勘が鋭いな。

『顔に出るからすぐに分かる』

マジかよ。俺、顔に感情が出るタイプだったのか。

確かに俺が考えていたのはゼシール王国の軍の強化だけだ。

正直準備が完了している俺の仲間に指示する事は無かった。

さて、何をするか……。

「よし。基地に演習場があったな。あそこが借りられたら試してみるか」

「何をですか?」

「……実戦の空気を先に吸っておきたい。各部隊長のガチンコでな……」

まだ俺は自分の能力を把握していない。

それを確認する為にもアミリア達と模擬戦をやるのは好都合だ。

それに……クレアとミーナにも参加させて実力を高めさせたい。

……やる事なす事が多くて大変だな。四千年前程ではないけどな。

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