第17話 魔王、国王に懇願される
中央区の門をくぐって三十分、ようやくゼシール王国の城に到着した。
城はイギリスとかで見る白く大きい建物だ。
正面の城門を通って近くの軍用の駐車場に止まった。
車から降りて俺達は零の部隊と城の中に入っていった。
城の中は気品に溢れていて、大きな庭や絵画、彫刻などがあった。
どれも作品として優れていて、一体どれだけの価値があるのか気になった。
あと、城の中には王国の兵士達が警備していた。
M16A3アサルトライフル、MP5Nサブマシンガンを装備して、城の廊下をしっかり警備していた。
ここの警備兵にゲリラはいなさそうだった。
時折ここの執事やメイドに会ったが、何故か俺を崇めていた。
それは警備兵も同じだった。
「ここの人は正しい歴史を知っているから、あなたの英雄伝を知っているわ」
「正しい歴史だと?」
「詳しい事は後で話す」
何だよずいぶんと勿体振るじゃねえか。
そうこうして数分も歩いていると大きな扉の前に来た。
門には二人の警備兵がいた。
「例のお客様よ。中に入れて頂戴」
「分かりました。どうぞ中へ」
警備兵が扉を開けて中に入る。
そこは縦に長い部屋だった。
左右には貴族と思われる男女がこっちを見ていた。
その目は様々な思いが多かった。
正しい歴史を持っていても、信じている奴とそうでない奴、半信半疑の奴が貴族達の中にいた。
そして前に進んで行くと、そこに元魔王軍幹部がいた。
「ゼロがようやく来たわ」
「まったく、ゼロは来るのが遅い」
「敵の襲撃に遭ったんですから、遅いのは当たり前ですよ」
「あ!おーい!魔王様ー!」
そこにはロシア人のアミリア、金髪ロリのアメリカ人のアーニャ、日系フランス人のドク、水色の髪のヒナがいた。
アミリアは元魔王軍陸軍特殊部隊隊長で、火の魔法を使う突撃兵だ。
気の強い金髪ロシア人で、だが部下の面倒見の良い女だ。
ロシア軍の野戦服を着て、その上にアサルトベストを着ている。
アーニャは元魔王軍航空魔道部隊隊長で、第二次大戦の元アメリカ兵。
子供の体型でよく敵に舐められるが、あの世界大戦で培った戦闘技術でその態度を改めさせる。
服は大戦中のアメリカ軍の軍服を着ている。
ドクは陸軍の衛生兵で、世にも珍しい回復魔法に優れた大卒の元フランス特殊部隊GIGNのエリート。
命を救ったり奪ったりする立場の兵士で、その立場を変えて味方を救い、敵を時には殺したり生かしたりした。
本人はあまり好戦的ではない性格で良かったと言っている。
GIGNの青い戦闘服を着ている。
ヒナはドクのサポーターで、明るい性格で味方の士気を高める才能を持っている。
出身はとある農村で、村の住民を助ける為に魔王軍に入った経歴がある。
ヒナもドクと同じ青い戦闘服を着ている。
「よう、お前ら。久しぶりだな」
「メリーがゼロを見つけたって聞いたから来てみたけど、本当に会えるとはね」
「何ー?私の情報を信用していないのー?」
「本当会えたから信じているよ」
「ゼロさん。久しぶりです」
「ドク、転生してさらに優男になったか?」
「フフフッ。やはりあなたは変わっていませんね」
「魔王様ー!お久しぶりでーす!」
「ヒナ、今の俺は魔王じゃない。ゼロか指揮官と呼べ」
「はいはーい!指揮官様ー!」
そこは名前で呼んでくれよ。
「アーニャ、またロリ体型か?」
「それ以上言ったら撃つぞ」
「そのおっかなさも四千年前から変わらないな」
どの仲間も外見はあまり変わっていなかった。
皆俺に会えて嬉しいのか、俺に転生してからの事を聞かされた。
「で、優子と錬子の隣にいる二人の少女は誰だ?」
「この世界で知り合った仲間だ。傭兵のリーダーのクレアと、その妹のミーナだ」
「は、初めまして。クレアです」
「ミーナです」
「そんなに畏まらなくてもいいよ。アーニャさんは見た目は怖いですが、根は優しいです」
「ドク、私が優しいだと?どこを見てそう言っている?」
「ほらね。動揺してる」
ドクがからかってアーニャは不快な顔をしたが、図星なのか顔を赤くしていた。
「それより、あなたがゼロを仲間に入れた女の子?」
アミリアがクレアに話し掛けた。
「は、はい!」
クレアがアミリアに会って緊張している。
「緊張しなくてもいいよ。私はあのゼロを仲間に入れたあなたが気になったの。どうやって仲間に入れたの?」
「はーい!私も気になりまーす!」
アミリアとヒナが二人がかりでクレアに俺を仲間に入れた経緯について質問攻めされた。
クレアは多少たどたどしく話したが、ちゃんと二人に経緯を説明している。
さすがチームリーダー。
「あのー皆さん。ここ、貴族達が集まって、そしてこれから国王が来るよ」
そうだった。俺達は国王に呼ばれて来たんだっけ。
すっかり忘れて皆と話してた。
周りの貴族達が俺達の態度についてコソコソ話していた。
あー、まあいっか。別に俺達に貴族を敬えって言われても普通に話すし。
「えーと、貴族の皆さん静粛に。ようやくあなた方の希望となる傭兵を何とか呼べましたから多少は目を瞑って下さい」
「メリー君。黒髪の少年が例の魔王か?」
「はい。転生して何とかここに来ました」
「よろしい。ご苦労だった」
「ありがとうございます」
メリーが頭を下げて礼を言っている。
それなりに地位の高い貴族なのだろう。
すると、横から兵士が現れた。
「静粛に。スラマン国王陛下」
兵士がそう言うと、左から兵士を連れた五十代後半の男が現れた。
白い髭を立派に整え、人の心を掴み掛かる隠れた獰猛さのある顔をしている。
貴族達が足を崩して国王に敬意を払った。
クレアもミーナも貴族達と同じように足を崩した。
こいつがゼシール王国国王スラマンか。
スラマンは中央の大きな玉座に座り、兵士達がその左右に整列した。
「魔王、国王陛下の前だぞ。足を崩して陛下に敬意を払え」
喋っている兵士が俺にそう言ってきた。
「俺に権威が通じないのは知っているはずだ。俺は人の区別をあまりしない」
「貴様……」
「よい。彼らは自由にしても構わない」
スラマンが兵士に優しく言った。
「しかし陛下……」
「彼は魔王だ。怒らせたら後ろの仲間達が黙ってはいないはずだ。自由にさせろ」
「は、分かりました陛下」
スラマンの好意によって俺達元魔王軍メンバーは平服しなくてもよくなった。
スラマンはかなり人が良いみたいだ。
「さて、まずは初めましてと言っておこう魔王。私はゼシール王国国王スラマン=ゼシールだ」
「ゼロだ。今は魔王ではなくクレアの傭兵チームのメンバーだ」
「傭兵だと?魔王が人の下に就くのか?」
「お前は俺を何だと思っているんだ。魔王は周りが勝手に付けた二つ名だ。元は何でもない普通の魔族だよ」
俺が対等な態度で話していると、周りの貴族から指摘された。
無礼だとか国王陛下にどうたらこうたらとか、あまり耳に入ってこなかったが俺に注意していた。
「静まれ。私は彼と話しているのだ。口出しするな」
スラマンが怒気を含んだ声で貴族に言うと貴族の注意の声がなくなった。
「さすが国王陛下様だ。貴族達をしっかりコントロールしている」
「魔王に褒められるとは、私も捨てたものではないな」
「その口振りだとお前はメリーの言っていた本当の歴史を知っているな」
「その通りだ魔王。私は前の世界から歴史を知っている。ここにいる貴族もそうだ」
「町の住民には伝えていないのは何か理由があるのか?」
「人間史上主義という輩に目を付けられてしまうからな。民を巻き込むのは御免だ」
「なるほど懸命な判断だ。それで、俺達をここに呼んで何を頼みたい?」
スラマンは深く深呼吸してからその頼みを言った。
「メリーから聞いていると思うが、ハーグ王国との戦争に協力してもらいたい。これは依頼として傭兵である君に依頼する」
「理由は?」
「残念な事に、我々は彼らに対抗出来る軍事力を持っているが、力に秀でた強者がいないからだ。だから元魔王軍である君達に協力してほしいのだ」
「メリー達のような強い奴がいないから協力しろってか?虫がよすぎるんじゃないか」
「その通りだ。ハーグ王国のように軍事にもっと力を入れるべきだった。そのせいかそのハーグ王国に宣戦布告をされてしまった。このままだと確実に戦争に負けてしまう。これはもはや私のプライドも国の存続の危機の前には不要だ。頼む、この通りだ」
スラマンが立ち上がって俺に頭を下げた。
周りの貴族や兵士達が動揺していた。
一国の国王が頭を下げてまで俺に頼むのか。
相当切羽詰まっているな。頭をまだ上げない。
「陛下!顔を上げて下さい!」
「陛下……!」
貴族や兵士がこれ以上見てられないとスラマンに言うが、それでもスラマンは頭を上げない。
……しょうがない。それに、これは四千年前の戦争にケリをつけられなかった俺の責任だ。
「顔を上げろ、スラマン」
俺がそう言うとようやくスラマンが顔を上げた。
「一国の王が簡単に頭を下げるな。別にお前が頭を下げなくても俺はその依頼を引き受けるつもりだ」
「本当か?」
「ああ。敵方にはまだ消えていない四千年前の亡霊がいる。今の時代に亡霊はいらない。俺達が祓ってやる」
「……助かる魔王」
「ゼロだ。魔王魔王言うな。それは周りが勝手に付けた二つ名だと言っただろ」
「そうか、分かったゼロ。よろしく頼む」
「あんたは普通に話してくれるから案外気が合うかもしれないな」
「陛下!いいのですか!こんな汚れた魔族の事を信用なさるのですか!?」
左にいる貴族が声を荒げて反対してきた。
「私は反対です!第一彼らは殺戮と破壊を尽くした魔王軍ですぞ!そんな奴らと戦うなど、我慢なりません!」
「メーカ、落ち着け。陛下の前だぞ」
隣の貴族がメーカと呼ばれた貴族を宥めているが、怒りでいっぱいで話を聞いていなさそうだった。
やれやれ。人間は怒りに身を任せると周りが見えなくなるな。
「他の者も奴らに依頼するのは反対ではないか?陛下の前では黙って従っては国の未来が勝手に決まってしまうぞ」
こいつ、他の貴族を煽って味方を増やそうとしている。
他の貴族は迷っているようだった。
たまにいるんだ。国の事を考え過ぎて多様な手段を考えられない人間が四千年前にもいた。
このままだと混乱してうやむやになってしまう。
スラマンに目を向けようとすると、煽っている貴族の背後に魔力を感じた。
アミリア達も気づいたみたいだ。
クレアとミーナは見えていないようだ。
「おい、確かメーカという貴族」
「何だ!汚れた魔族が何かあるのか!」
「俺の悪口を嫌う死神が刃をお前の首に向けるぞ」
「そんなハッタリが……っぐ!?」
メーカの言葉が強制的に詰まった。
メーカが苦しそうに暴れていた。誰かに首を絞めているのだ。
「何者だ!」
兵士達がメーカの周りを囲んでライフルを構える。
「もういいピトフーイ。解放してやれ」
メーカが解放され、呼吸を整える。
「ゴホッゴホッ!ハァ……だ、誰なんだ?私の首を絞めたのは」
『私だ』
メーカの背後から黒い戦闘服を着て、専用装備のアルファ装備をしている兵士が現れた。
「な!ハーグ王国の手の者か!」
『違う。私はゼロの部下だ。メリーに呼ばれて参上した』
「私、呼んだっけ?」
『双葉から聞いた。私は双葉から聞いて部隊全員でここに来た』
「貴様の部隊がここにいるだと!ど、どこだ!」
『気づかないか。上だ』
貴族達が天井を見ると、ピトフーイと同じ装備の兵士が三十人張りついていた。
兵士達も驚いてしばらく固まっていた。
そして兵士達が降りてピトフーイの元に集まる。
『私の部隊を知らないか?どうやら正しい歴史をどう認識しているか分かったものではないな』
「ピトフーイ。さっきから正しい歴史と言っているが、俺の知っている四千年前の戦争が正しい歴史か」
『その通りだゼロ。そしてその歴史を改変しようとする輩が今回の敵だ』
「ゼロよ。彼は……?」
スラマンが不思議そうにピトフーイを見ていた。
あれ?スラマンも知らないのか。
まあ確かに、ピトフーイの部隊は非正規特殊部隊だからな。
存在自体が秘匿されていたから、今の時代の人が知らなくて当然か。
「ピトフーイ、ハンク、死神、デビルソルジャー、インディゴ、死の戦士」
「何を言っている?」
「奴のあだ名だよ。幹部や彼女の部隊のメンバー以外は名前を知らないし、素顔を見た事がない」
魔王軍非正規特殊部隊『ナイトメア小隊』は公には存在しない幻の部隊とされている。
前の世界でも世には公に出来ない特殊部隊が多く存在した。
任務はもちろん秘密工作や軍では問題になって出来ない危険な任務をする。
部隊は少数精鋭制で、約三十人しかその部隊に所属していない。
『スラマンよ。今は国家の危機だろう。しかし今は貴族達や兵士達の精神が安定していない。依頼内容はまた後日ゼロに話せ』
「………分かった。依頼は後日話そう。皆、ご苦労だった」
スラマンが立ち上がってそのままうやむやになったまま解散となった。
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