第4話 魔王、初めての依頼を行う

四千年前、魔王軍が勝ち進み、軍によるセレモニーが行われていた頃、司令本部でゼロは各精鋭部隊長と話していた。

「この戦争はいつ終わると思う?」

戦争が始まって間もないが、少し魔王軍が勝っただけで国民達はもちろん兵士まで浮かれていた。

ゼロが魔王軍指揮官になってまだ三ヶ月の時だ。

だが戦争では慢心や傲慢が死を早める事もある。

ゼロ達はあまりにも浮かれている魔族に危機感を感じていた。

ゼロは各精鋭部隊長にいつ終わるか聞いた。そして各精鋭部隊長はそれぞれ答えてくれた。

「いつ終わるかは関係ない。必要なのはどうすれば戦争を続けなくなるか、それだけよ」

そう答えたのは魔王陸軍特殊部隊の隊長、ロシア人のアミリア=カラシニコフ。

元ロシア特殊部隊スペツナツのブロンドの女性。

ロシアが第三帝国の次に作った突撃銃AK47をスリングで背中に背負い、両腰のホルスターにスコーピオンVz-61サブマシンガン、左脇のホルスターにマカロフ自動拳銃を装備したヴェーブオーダ(戦士)が最初に答えた。

「出来れば短い方が良い。戦争が長引くと損害も大きくなる」

次に答えたのは魔王軍の海軍特殊部隊の隊長のレギー=シーメンス。

元アメリカ海軍特殊部隊シールズの精鋭。

イラクやアフガンのゲリラを何百人も葬った狙撃兵。

ゼロの古い友人でもあるレギーはアミリアに続けて答えた。

右腰のホルスターにはM45A1自動拳銃。

「戦争屋の意見も聞きたいね」

レギーがある少女に向けて言った。

白い旧ドイツ軍の軍服を着た金髪の少女がルガーP08自動拳銃を回して、ゼロの質問に答えた。

「出来れば戦争が長いとわしらとしてはええんじゃがなあ。我々は元々死んだはずだからのぅ」

魔王軍吸血鬼部隊隊長アドロフ=ジュピター。

見た目は可愛いらしい少女、精神年齢は七十を越えている第二次大戦時のヒトラードイツ第三帝国の元少佐。

魔王軍は陸海空海兵隊の四つに分けられ、それぞれ三個師団規模の戦力を保有している。

アミリアは陸軍特殊部隊の隊長、レギーは海軍特殊部隊の隊長、アドロフは陸軍の特殊工作部隊の吸血鬼部隊の隊長である。

階級だと将官クラスで、仲間から多大な信頼を得ている。

「そうか。俺はレギーと同じだ。戦争を早く終わらせてゆっくりしたい」

「まあ、戦争が終わればのんびり過ごせるしね」

「じゃがのぅ、人間の軍隊はおぬしらみたいな先のビジョンを持ってはおらぬぞ。勇者を祭って戦争を続けさせるつもりじゃぞ」

「カイルも苦労するな。人気者はやっぱりつらいねぇ」

「だが人間というのは卑しい生き物だ。穴が出る」

「その通りだ。その穴が開くまで待とうじゃないか。浮かれている彼らには申し訳ないが、俺達は傭兵だから人間とのコネを作りたい」

「クックック。おぬしも悪やのぅ。だからこの付き合いは止められぬ」

「まあ、期待しているよ、指揮官殿?」

三人にこれからの期待を向けられたゼロは笑ってこう答えた。

「任せな。俺はお前達にとって、敵でも味方でもない、それ以上の仲間だからな。くだらない結果にはしないよ」


そして現在……


翌日、朝食を食べ終えたらすぐにギルドに行った。

ここの傭兵ビジネスは口から紙へと変わっていた。

まず仕事をするときはギルドに行って依頼遂行許可書を出す。

ギルドが許可書を受理してようやく傭兵が依頼を受ける事が出来る。

依頼を達成するまでは本来と変わらない。

その後もう一度ギルドに戻って依頼を達成した事を報告し、後日依頼主がギルドを通じて報酬を渡す。

これが数百年前から続いている傭兵ビジネスだ。

クレアがギルドに依頼遂行許可書を提出し、すぐにギルドが受理してくれた。

その後車に戻って、依頼を受けに現地に向かった。

予め全員装備を整え、準備万端だった。

今日の依頼は元々クレアとミーナを指名した依頼だった。

センフィーネスから少し離れた場所に魔物が生息している草原地帯がある。

そこに生えているある花を採取してほしいというのが今回の依頼だった。

その花は草原地帯の崖のどこかにあるらしい。

これが初めての依頼か。楽な気がするが頑張るか。

ミーナが車で行けるギリギリの場所までジープを飛ばし、路肩にある岩の近くに車を止め、車から降りた。

「ブツはここから少し遠いわ。でも魔物がいるから徒歩で行くよ」

「了解。フォーメーションは決まっているのか?」

「ミーナとユウコがポイントマンで先導して、私とレンコがカバーよ。あなたはレンコから魔法が使えると聞いたわ。索敵魔法で魔法の位置を教えて」

俺がレーダー役か。

索敵魔法は自分の魔力を薄く周りに広げ、近くの生物を探知する魔法だ。

初級魔法だが、上達すると精度も高くなる。

ミーナと優子が前、その後ろをクレアと錬子、俺が殿で花のある崖を目指す。

俺は索敵魔法を使い、今のところ半径二百メートル圏内にクレア達以外の生物はいなかった。

ミーナはMP5A2、優子はTMPサブマシンガンを持ち、前方に魔物がいないかくまなく探している。

優子はミーナとクレアのようなアサルトベストを着ていない。

その代わり腰にはいくつかの装備品が付けられていた。

ベルトの前には優子の両脇のホルスターに収まっている拳銃の予備マガジンが何十個も入っている黒いティッシュ箱のような形をした自動装塡装置が装着されていた。

この拳銃用の自動装塡装置は魔王軍の技術者が開発した機械で、優子のような二丁ガンマンが弾切れの時に生じる再装塡を楽にするために作られた。

装置の上部にはお互い約5㎝離れている二個の予備マガジンが露出している。

拳銃のマガジン装塡部分にマガジンを入れると装置が作動して上に突き上げる。

その要領で拳銃のマガジンを自動装塡するという訳だ。

ちなみにこの自動装塡装置に入れられるマガジンは二十個。

優子の使う92F自動拳銃とM9A1自動拳銃と同じ9ミリパラベラム弾を使う15発入りマガジンがそれだけ入っていると考えるとかなりの携帯量だ。

欠点はその分重くなることだけだ。

ちなみにこの自動装塡装置は防弾プレートで覆われているから盾にも使える。

俺もデザートイーグル用の自動装塡装置を持っている。

だが優子のとは違い、マガジンがデカくて普通の拳銃の弾より重いから後ろに付けるタイプの特注品を技術者に開発させた。

上部からではなく左右から斜めにマガジンを露出させ、後ろからでも装塡出来るように改造されている。

クレアはAK12、錬子はイタリア製のAR15アサルトライフルを時々構え、左右の警戒をしていた。

俺の索敵魔法があるとはいえ、魔物の中には索敵魔法に探知されない魔物もいる。

目視でも確認して魔物の襲撃に備えていた。

錬子のAR15には2~6倍可変スコープ、マズルブレーキ、ショートグリップが付けられている。

近距離でも遠距離でも戦えるようにカスタマイズされていた。

「ところで、目的のその花は何色だ?」

「純白は花びらの花よ。目立つからすぐに分かるわ」

「了解。俺も必要があれば支援する」

持っているM4A1のコッキングレバーを引いて薬室に弾を送った。

今回のアタッチメントはほとんど変わっていないが、銃身の右側に銃剣を付けてある。

魔物との戦闘で近距離になるかもしれないから付けてあるが、ミーナ達がいるし。あまり出番はなさそうだな。

「お、ようやくか」

歩いて十分、前方から複数の反応が出た。

俺は皆にその事を伝え、ミーナと優子が前に出た。

そして前から来たのは……猪の魔物だった。

数は八頭で、大きさは普通の猪と変わらない。

少ないな。四千年前は百が普通だったが、今は討伐されて少なくなったか。

色は若干焦げ茶色で、鋭い牙を見せていた。

猪か……まあ二人なら大丈夫だろ。

「優子、ミーナ。援護は必要?」

「あまり必要ありませんが、最小限でお願いします」

そう言うと優子とミーナが前に走り出した。

ミーナが左手から炎の弾を放ち、猪の魔物に直撃して呆気なく倒れた。

仲間がやられて他の猪が急停止すると、優子が横からTMPを撃って二頭倒した。

やられた猪の近くの別の猪がすぐに反応して優子に突進した。

猪の主な攻撃は素早い突進だ。通常の猪よりそのスピードは早い。

だが、優子にとっては猪の突進など恐れることない。

優子はジャンプして突進してきた猪の上を取り、TMPを撃つ。

猪の背中に無数の弾が当たり、猪はそのまま事切れた。

優子は身体能力が普通の人の十倍ある。

猪の上を取ってサブマシンガンを撃つまでおよそ一秒。

この早さと身のこなしが優子の武器だ。

優子の戦闘を見ていると、横で爆発が起こった。

煙が晴れるとそこには爆発に巻き込まれた哀れな猪の魔物の死骸があった。

これで猪の魔物は全滅だ。わずか三十秒の短い戦闘だったな。

「ミーナは魔法が使えたのか。爆発魔法も使えるとなると、相当なベテランだな」

「ミーナだけが魔法を使う事が出来るから、私達はミーナの支援攻撃を助けているわ」

「ゼロが入ったからこれで火力が増したわね」

そう雑談して先に進んだ。

途中何度か魔物に遭遇したが、錬子とクレアの完璧な射撃で魔物が俺達に近づくことなくやられていた。

クレアも射撃のブレのコントロールが出来ている。

悪くない。俺に強気で言う度胸がある実力を見せたな。

さらに進んで行くと、目的の崖に到着した。

下は暗くて見えない程深い。

奥に別の崖があるがかなりの距離がある。

何でこんなパックリ割れていると聞くと、前の地震で地面が割れてこうなったと説明された。

目的の花は下の崖のどこかにあるだろう。

「相変わらず下が真っ暗ね。じゃあ私と優子が降りるから皆は……」

「クレア、お前は俺の代わりに周囲の警戒を頼む。俺が優子と花を取ってくる」

「え?大丈夫よ。何度もやっているから」

「この中で一番働いていないのは俺だ。それに、崖のミッションは久しぶりだから慣れておきたい」

「クレアさん。私も彼に賛成です。ゼロも私と同じガンマンです。それに久しぶりですが連携も出来ます」

「……分かったわ。確かにあなたに楽な仕事をやらせるのは悪いしね」

クレアは優子の援護もあって許可してくれた。

俺はバックを下ろし、ミーナに渡した。

指のデバイスでベルトの後ろに自動装塡装置を実体化して装着した。

さらにデザートイーグルの下部に拳銃用の銃剣を取り付け、近接戦闘用にカスタマイズした。

準備を俺と優子は近くの木に降下用のワイヤーを固定し、ベルトにワイヤーを付けて崖の前に立った。

「行くぞ、優子」

「はい、今日はよろしくお願いします」

「今更か?」

お互いに笑い合って、崖から降下した。

俺は魔法があるから別にワイヤーは必要ないが、これはある種の生存確認だ。

ワイヤーが動いている間は生きていると上のクレア達に把握させる為だ。

ワイヤーを使っての降下はヘリや突入作戦で経験済みだ。

順調に降りていって、ワイヤーの長さギリギリの所まで降りた。

ここら辺に目的の花があるらしい。

優子と手分けして探す。

俺は左に、優子は右に移動して花を探す。

しばらく上に上がりながら探しているとぽつんと白い花が生えているのを見つけた。

純白の花、見つけた。

俺は花を採取して異空間収納にしまった。

「優子、目的のブツを採取」

無線機で優子に採取に成功したと伝えた。

仲間との通信用に各自無線機を持っている。

魔石を使った無線機だから天候などの自然的影響を受けない。

『了解です。さっさと上に行きましょう』

優子との無線を終え、さっさと上に上がる。

すると、急に下から気配を感じた。

索敵魔法を使うと、俺の下に多数の反応が出た。

ヤバっ。待ち伏せか?

俺は優子に伝えようと無線機を取ろうとする。

すると、後ろから黒い物体が俺に襲い掛かってきた。

俺は横にジャンプしてそれを避ける。

俺が襲い掛かってきたそれにデザートイーグルを向ける。

「ゴアアアアァァァ!!」

そこには黒いゴリラの魔物が鋭くて赤い目で俺を睨んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る