第3話 魔王、歓迎会でイジられる
クレア達の仕事場には車で数分で着いた。
探偵事務所みたいな二階建ての家で、ここで傭兵の仕事をしているらしい。
事務所の駐車場に車を停め、事務所の中に入った。
中はしっかりと物が整頓され、とても綺麗だった。中を見ただけで彼女達が人気である理由が見えた。
「まあとりあえず座りなさい」
クレアにそう言われ、銃とホルスターをデバイスの異空間収納にしまって座った。
このソファー意外に座り心地が良いな。
クレアとミーナは装備をしまいに奥の部屋へ行き、優子と錬子は前のソファーに座って寛いだ。
しばらくするとクレアとミーナが戻ってきて横のソファーに座った。
ミーナが茶を全員分入れてテーブルに置いた。
感謝の言葉を言って茶を一口飲むと、クレアが先に口を開いた。
「それで、あなたがあの伝説の魔王なの?」
「そうだと、ギルドでも言ったが」
「半信半疑だったけど、レンコとユウコからある程度は聞いていたから少ししか驚かなかったわ」
「何だ、先に言ってたのか。名乗って驚かせるのに失敗したじゃないか」
「クレアがスカウトに来たときにポロッと言っただけよ。全部は話していないわ」
「彼女達の整理がつかないかもしれませんからね」
なるほど。気遣って全部は言っていないのか。それなら俺が知っているところも含めて説明するか。
「錬子達から聞いていると思うが、俺は当時の魔族に召喚された人間だ。召喚された理由も、そしてこれからやる事はあっちから話してくれたからスムーズに奴らと契約を交わしたよ」
「異論はなかったのですか?勝手に召喚されて怒ったりしなかったのですか?」
「むしろ好都合だった。異世界召喚は日本男子の夢だったし、異世界で暴れるのも好きだったしな。それで一人だと動きにくいと悟った俺は優子や錬子を含むいなくなっても困らない連中を召喚したって訳だ。まあそれで錬子と優子が召喚されるとは思わなかった」
クレアとミーナが怪訝そうな顔をしていると錬子が補足してくれた。
「前の世界で一度会った事があるの。それなりに付き合いの長い友人よ」
「仕事で何度かご一緒させてもらったんです。彼はその時、フリーの傭兵でしたから」
懐かしいな。あれは俺と錬子達がまだ十代半ばだった頃か。
当時有名だった殺し屋錬子と何でも屋の優子と仕事したときの周りの反応がとてつもなく凄かったのを覚えている。
「話を戻すぞ。魔王軍の指揮官となった俺は召喚した連中と軍を再編成して新たな魔王軍作り、しばらく奴らに貢献した。だが勇者カイルと聖女マリア、大魔法使いのレーシャが人間達を率いてからはお互い膠着状態になった。まったく一体何人の命が失ったんだか」
懐かしそうに俺は白い天井を見た。
あの三人は俺が数少ない強いライバルだった。
特に三人はチームワークが良く、三人のコンビネーションには手を焼いた。
「最終的に俺の魔王軍を壊滅させ、俺も勇者以外の人間の兵士を全滅させて一騎打ちになった。長いようで短かった決闘だったが、相打ちになって死ぬと覚悟した俺は前魔王の依頼を遂行し、禁断魔法『新世界』を使ってこの世界を一からやり直しさせた。それで今があるのは僅かに残っていた種族の種が芽を出し、文明を築いたからだという事だ。ざっくりとだが理解したか?」
「……凄いの一言だけよ……」
「噂でしか聞いた事がなかったから、驚き過ぎて言葉が出ません」
無理もない。今の人が聞いても、実際に起きたのか定かじゃない話を聞いたからな。
そもそもこの話は今や都市伝説と化しているし、本当の事を知っているのは転生した連中だけだろう。
「まあ俺も転生したが、その転生した場所で自分のこの体が何なのかは大体予想できた」
「そういえば、あなたは何処で転生したの?その話は聞いていなかったわね」
錬子が何処で転生したのかを聞いてきた。
「森の中だ。誰もいない森で籠の中に入れられていた。しかも、体はまだ赤ん坊だった」
「森の中だって?捨てられていたの?」
「おそらくな。そしてクレア達と出会って車に乗っている時に偶然、右手に……」
俺が四人に見せると変な紋様があった。
紋様の精巧さからして貴族が彫ったのだろう。
「それって……貴族の家紋ですか?」
「ああ。多分な」
「でもおかしいですね。何故その貴族は自分の子供であるゼロさんを捨てたのでしょう?」
ミーナが貴族の家紋を見て、優子は俺を捨てた理由について考察していた。
それについてはまだ分からない。だが推測は出来る。
もし貴族が四千年前と思想が同じだったら、俺の考察は合っているかもしれない。
四千年前の貴族は体の悪い、異種族の血が混ざっている、親の誰かが自分達にとって都合が悪かった子供を危険のある山や森に捨てていた。
そこなら誰かに見られず、また自分で手を下さずに魔物が殺してくれるから貴族達はよくその風習を続けていた。
俺のあの状況も報告にあったのと一致しているし間違いない。
だが何処の貴族が捨てたのかは分からない。
四人に紋様を見せたが、誰もこの家紋の貴族を知らなかった。
「ま、これは魔法で消せるから別に大した問題じゃない。俺の話はこれで以上だ」
俺が話を終えると、クレアはまだ聞きたそうな顔をしていたが、窓を見ると空は橙色だった。
「もう夕方か。時間が過ぎるのが早いな」
「今日はありがとうございます。お姉ちゃんはまだ聞きたいらしいですが、ゼロさんの歓迎会をしなくちゃいけないのでここで一旦区切ります」
歓迎会?俺がチームに入るからパーティーでも開くのか。
「今から夕食を作ります。ゼロさんは待っていてください」
「私も手伝うわミーナ」
「私も手伝います」
ミーナ、クレア、優子は夕食を作りに奥のキッチンへと向かった。
俺はしばらくのんびりしていると、錬子が俺の隣に来た。
「ゼロ、あの二人の中で誰が良いの?」
「質問の意味が分からん。単刀直入に言え」
「クレアとミーナ、どっちが好きなの?」
何を聞くかと思えばそれか。
まだ合って数時間しか経っていないぞ。
好きとかそういうのはまだ分からない。
「もう戦争は終わったのよ。そろそろ、別の事をしてもいいじゃない?」
「…………」
戦争は終わった……か。
あの勇者とやり合ったあの戦争が終わったのをまだ実感していない。
四千年経っているが、そのまま転生したから俺の中では数時間前の出来事だ。
勇者との一騎打ち、あの最高の時間が今でも思い出す。
剣一本で果敢にも俺に突撃してきた勇者。
人類の代表として責任を背負わされた哀れな勇者。
何度も裏切られ、それでも人間を信じる勇者。
殺し合ったが、俺は今でもあいつを友人だと思っている。
「……他の事か……」
今まで戦争に時間を割いていたから他の事をしろよと言われても何をしようか思いつかない。
「まあ考えておいたら。時間はたっぷりあるし」
「お前はあるのか?戦闘以外の事」
「もちろん。あの子達の指導よ」
「クレアとミーナをか?」
「そうよ。案外人に教えるのは悪くないわよ」
錬子が人に教えるのを初めて聞いた。
今までは仕事を優先していたから想像がつかない。
あいつも転生して変わったのかもな。
「もうすぐ準備が終わるみたいよ。行こ」
「ああ」
俺は錬子とリビングのテーブルに向かった。
「ええー。それでは、新しく入るゼロを改めて歓迎します。乾杯!」
『乾杯!』
クレアが幹事を務め、俺を歓迎するパーティーが始まった。
テーブルには豪華な食事が並べられ、食欲をそそられた。
ミーナとクレアと優子が作った料理はとても美味そうだ。
ミーナとクレアの料理の腕は知らないが、優子の料理は中々高い。
そこらの料理人と負けない実力がある。
だからその三人の料理人がどんなものか楽しみだった。
食べてみると、俺の舌が歓喜に包まれた。
今まで食べてきた料理が霞んでしまうほど三人の料理が美味い。
優子の腕は知っていたが、二人も中々の腕を持っているみたいだ。
「よ、よく食べるわね……」
クレアが俺の食いっぷりに若干引きながら言った。
いや引くことなくない?
「これだけ料理が美味いと食べるスピードも早くなる。優子、クレアとミーナの料理の腕もお前並か?」
「ええ。二人共私に負けないぐらい腕は確かですよ」
あの優子が褒めるとは、それだけ二人の腕が高いって事か。
これからのご飯が楽しみだ。
「ゼロさん、明日はお昼から仕事がありますが、行きますか?」
「もちろんだ。傭兵になった以上は働かないとな」
「錬子、実際ゼロの戦闘力はどれくらいあるの?私達より強いのは分かるけど」
「そうねえ……勇者と互角以上で戦えるから、もしかしたら敵なしかもね」
「だ、だよねー」
「ゼロさんって、本当に何者なんですか……?」
失敬な。ただの傭兵だよ。それ以上でもそれ以外でもない。
それに元々俺は強くなかった。努力した結果がほぼ敵なしの力を得た。
才能があるわけじゃない。何もかも努力で補った。
「ところで、クレア。前から思っていたんだが……」
「な、何よ」
「やっぱり姉妹で違うのか?その……」
やばい。めっちゃ言いにくい。言ったら殺されるかも。
「ああ。胸のこと?」
錬子!?ざっくりと言わないで!
「な!そんなところ見てたの!?やっぱり変態ね!」
「誤解すんな!単にそう思っただけだ」
「言っておくけど、まだチャンスはあるから。これからミーナを追い抜くから!」
ない奴は皆そう言うけど……。
「ここにそう言ってからずいぶんと経っても変わらない奴がいるんだよなあ……」
「何?殺されたい?」
錬子、笑っているけど目が笑ってない。
これ以上この話題を続けたら命が危ういから止めよう。
でもミーナと優子のは大きいよな……何でだ?
「童貞のくせに、私をからかわないでよ」
「え?そうなの?」
油断しているとすぐこれだ!さっきの腹いせか!?
「ゼロさんの気にしていることの一つです。可愛いですね」
優子がまさかの敵側に立ちやがった。
クレア、その哀れな目で俺を見るな。泣きたくなる。
「意外だわ。顔が良いからてっきりもう……」
「まだですよこの野郎!寄って集って俺の童貞心を抉るな!」
しばらく、女性陣が俺が童貞だという事でいじめられた。
言わなきゃよかった……。
だか、四千年前は連合軍との戦いに勤しんでそういう事をする暇がなかった。
前の世界では童貞じゃなかったのに……。
心の底からぞう思った俺であった。
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