第2話 魔王、昔の仲間と出会う

ミーナの運転はとても上手かった。

速度は大体60キロぐらいだが、ほとんど揺れずに順調に町に快適に向かっていた。

俺は車の荷台の座席に座り、しばらく外の綺麗眺めを楽しんでいる。

俺はふと二人の装備について気になり、二人に聞いてみた。

「なあ、二人は何処で銃や装備を買ったんだ?」

「町にある武器屋よ。安くて物持ちが良いから町では人気よ」

「それらはいつからあった?結構前からあったのか?」

「数百年前にはもう銃がありました。正確な時期は分かりません」

数百年から銃は存在していた。しかしそれでも腑に落ちない点がある。

この世界は一度俺によって創り直された。

だから銃などの現代兵器も存在ごと消されたはずだ。

それなのに数百年にその消されたはずの銃が現れた。

おそらく転生した誰かが技術を広めたのだろう。

考えられるのは魔王軍の幹部達の誰かだ。

まあ誰にせよ、この世界は四千年経って銃社会となり、技術が発達したようだ。

「なるほどな……ありがとう。これでまた一つ知った」

「それぐらいお安い御用よ。私もあなたに聞きたい事があるわ」

「何だ?何でも聞け」

「あなた、その装備は何処で買ったの?見た感じ高そうだけど」

「それは秘密だ。これは言えない」

異世界に召喚される前の世界で創ったなんて言っても信じられないだろうから言わない。

「じゃあ家族は?」

「……………」

「ゼロ?」

家族……か。俺の『実の』親はもういない。

父親は俺と母親を捨てて蒸発した。

それから母親は俺に暴力を振るうようになった。だから……。

これ以上は頭が痛くなるから思い出すのを止めよう。

それよりも質問したクレアに返事をしないと。

「幼い頃に二人とも死んだ。その後は叔父夫婦の家で過ごした」

半分真実、半分嘘の返事をした。

「あ……ごめん。嫌なこと言って」

「もう過ぎた事だ。気にするな。いつもの強気なキャラの方が俺としては好きだ」

「えっ!?そ、そう?」

何故か俺から視線を外してフロントガラスの方を向いてしまった。

「どしたー?」

「何でもないわよ!この変態!」

ただ思ったこと言っただけで変態呼ばわり!?酷い!

「クスクス」

そしてそれを見ていたミーナが笑った。

どこか嬉しそうな表情を浮かべて。


センフィーネス。それが町の名前だった。

ゼシール王国という国から少し離れた町で、ここにクレアとミーナの活動拠点がある。

大きくも小さくもない面積の町だが、人の往来が激しいからか、どこも賑やかだった。

建物はレンガ造りの中世ヨーロッパ風で、色のバリエーションが多かった。

やはり異世界の建物は中世ヨーロッパ風なのか。驚きはしないけど。

町の住民の服装はバラバラ。

質素な服装の人もいれば少し高貴な感じの服装の住民もいた。

高貴な感じの服装の人はおそらく貴族か住民の中で有力な人物だろう。

町中では車が行き交っていた。

しかも屋根もあり、それなりに馬力がありそうな車だ。

もう町中で車を走らせる程交通整備がされていたのか。

技術の進歩が凄まじい。やはり人間は技術の発達が早い。

そんな町中の風景を見ながら俺とクレアとミーナは町の車道を通って、町のギルドセンターに向かっていた。

俺の傭兵登録のためだ。

ちなみに門に兵士がいたが、彼女達の顔パスですんなり通れた。

彼女達は町でも顔の知れた有名人らしい。

車に乗っている間に指のデバイスで服と両脇のホルスター以外はデバイスと連動している異空間収納にしまい、町へ歩いても問題のない服装になった。

それを見ていたクレアやミーナ、遠巻きで見ていた住民が驚いていた。

何を驚いているのかは知らないが、確かにこの指に埋め込まれた小型装置は四千年前は希少だった。

持っていたのは数人だっけか?

だがあまり人前で使うと目立つからこれからは隠れて使うとしよう。

そしてギルドセンターに到着し、駐車場に車を止めてセンターの中に入った。

中は木造の酒場みたいな造りになっていた。

テーブルにギルドに登録された傭兵であろう野次馬が俺を見定めるかのように視線を向けていた。

うわっ。野郎の目つき怖っ!

一人だけ見慣れない奴が来たからか、中にいる傭兵の全員が俺に目を向けていた。

傭兵はやっぱりクレア達のようなゲリラ装備で、それぞれ個性のある装備をしていた。

「おいあいつ。クレアとミーナと一緒に来たぞ」

「あいつら、数年前に二人の女連れていなかったか?しかもとびきりの美人さんをよ」

「女の次は男か。しかも顔がイケてるじゃねえか。腹が立つな」

自分の顔を見ていないのでイケメンなのかどうかは分かりません。

それよりもクレア達は数年前にも登録しに来ていたのか。後で聞いてみよう。

男からは嫉妬と威圧の目で、女からは興味と同情の目の中をくぐり抜け、受付のカウンターまで来た。

「ようこそギルドセンターへ。今日はどうしましたか?」

中々顔立ちの良い女性が礼儀正しく挨拶した。

「今日はこいつの登録よ。頼むわ」

「分かりましたクレアさん。では、お名前を教えてください」

「ゼロだ」

「分かりましたゼロさん。ギルド登録のため、幾つか質問させてください」

「分かった」

「まず一つ目に、あなたは人間ですか?」

「いや、魔族だ」

「歳は?」

「十五」

と、ごく普通の質問を返していく。

そんなこんなで最後の質問がやって来た。

「では最後に、あなたは魔王の存在を信じていますか?」

「ああ」

俺かいつも通りに質問を返すと周りの声や音が消えた。

あれ?何か間違えたか?

気になってクレアとミーナを見ると驚いたような顔で俺を見ていた。

「ゼロさん。本当に魔王の存在を信じているのですか?」

「ああ。それの何が悪い」

「その根拠は?」

やけに噛み付いてくるなこの受付。そんなに魔王の存在を信じているのがいけないのか?

なんか周りの空気が嫌になってきたな。肩書きとはいえ魔王だっていうことは伏せておこうと思ったが、魔王の存在が重視されているのも気になる。

ここは正直にバラすか。

「決まっている。俺がその魔王だからな」

少しの静寂の後、後ろからたくさんの笑い声が聞こえた。

後ろで見ていた傭兵の声だろう。

「おいおい!あいつが魔王だって?」

「ゲラゲラゲラ!嘘でもそんなこと言うなっての!」

「根も葉もないこと言いやがって!やばい……腹筋が痛い……」

ん?俺が魔王だと言って何がウケたんだ?

俺がキョトンとしていると、一人の傭兵の男が俺の肩を叩いた。

「坊主、魔王ってのは都市伝説だ。実際にいるわけがねえ。悪い事は言わねえから訂正しな、な?」

「?何を言っているんだ?お前の目の前にいる男こそが都市伝説になってしまった魔王本人だぞ」

俺が変わらずに魔王と言ったからか、目の前の男の顔が赤くなっていく。

「ほーう?そんなに魔王だって嘘つくのか?」

「事実を受け入れられないお前の脳みそはポンコツなのか?なら仕方ない」

「んだとゴラァ!舐めてるのか!」

「そう思っているならそうじゃないか?」

「テ、テメェ……!」

おお。挑発されて怒る寸前だ。意外に短気だな。

「まあ落ち着け。話し合えば俺が魔王だって理解……」

「ゴチャゴチャうるせえ!黙らせてやる!」

そう言って男が殴り掛かる。

男の拳が俺の腹に強く当たる。

バキッ!

何かが折れる音が聞こえた。

「あぎゃあ!!?」

男が手を押さえてそのまま蹲った。

男の右手は人間の手ではなくなり、指は全部あらぬ方向に折れ、赤く腫れ、血まみれだった。

「うぐぅぅ……!」

「どうした?ご自慢のパンチはそんなもんか?」

まだ手を押さえている男を見下して言った。

哀れだ。普通に身体強化魔法を使えば右手が犠牲にならずに済んだのに、馬鹿な奴だ。

周りがザワつき始めた。男の手が壊れたからだろう。

「テメェ……!よくも俺の手を……!」

「何故お前の手が壊れたと思う?」

「……?」

「簡単だ。お前が弱いからだ」

「……!!」

男は何か言おうとしたが、手の痛みで何も言えなかった。

さて、問題を片付けたし話を戻すか。

「受付のお嬢さん。改めて言うが、俺はどんなに言われようが魔王だ。何故なら俺がその魔王だからだ。これで文句はないな?」

「…………」

「おい。聞いているのか?」

「……あ!はい!分かりました。ではこれで登録を終えます。後日もう一度ここに来て下さい。ギルドに登録されたと証明するカードを渡します」

さすがギルドの受付だ。騒いでいた状況で彼女は普通に公務をしていた。

こんなトラブルは日常茶飯事なのだろう。

「以上で登録は終わりです。ありがとうございました」

俺は受付のお嬢さんに手を振って、クレアとミーナの元に戻った。

まだ二人は呆然としていた。

「ゼロが……魔王……?」

「信じられない……」

「信じようが信じまいが俺は魔王だ。事実だから受け入れろ」

「……その話、後で詳しく聞かせなさいよ」

「もちろんだ。さあ次は何処に行く?」

ようやく二人は調子を取り戻し、次の予定を教えてくれた。

「うちの仕事場兼家を案内するわ。家にいるメンバーの紹介も一緒にね」

「了解。じゃあ急いで……ん?」

クレア達の家に向かおうとすると、出入り口を傭兵達が立ち塞がっていた。

俺を恐れた目で銃を構えていた。

「ちょっと。何のつもり?」

「どけクレア!そいつがもし都市伝説通りの魔王なら危険だ!野放しには出来ない!」

「魔王は残虐で平気で人を殺すのよ!早く逃げてクレア、ミーナ!」

二人は撃たれたら反撃出来るように拳銃を抜いて構えた。

やれやれ、魔王って名乗るといつもこうだ。

好き好んで人を見境なく殺すのは間違いだ。

必要な時にしか殺しはしない。

もう少し冷静になれないもんかねぇ。

このままだと外に出れない。最悪魔法を使って、突風でも起こして吹き飛ばそうか?

ありとあらゆる銃口が俺やクレア達に向けられている。

誰かが一発でも撃てば激しい銃撃戦の始まりだ。出来ればそれは避けたい。

「ちょっとあんた達」

傭兵達の奥から女の声が掛かった。

何人かが後ろを向くと慌てて道を開け始めた。

モーゼのように道を開けた女二人はゆっくりと俺達に近づいてきた。

ワイシャツにブレザー、赤ネクタイ、白のスカートを着た紫色の髪を肩まで伸ばした女と戦闘用の青色のメイド服を着た水色のショートヘアの女。

俺はこの二人を知っている。かつて俺の暗殺部隊のメンバーで共に戦ったからだ。

その二人が俺に近づくと口を開いた。

「転生してずいぶんと若返ったじゃない、魔王様?」

「そういうお前もな、錬子」

鬼滅錬子(きめつれんこ)。

元魔王軍暗殺者でガンフーのプロ。

銃と柔道を組み合わせた戦闘術と優れた射撃能力で多くの人間を葬った元ヒットマン。

あのエージェントの妹でもある。

冷静沈着で目が鋭いが意外に面倒見が良い女だ。

「転生おめでとうございます、ゼロさん」

もう一人は葛西優子。

錬子の副官で彼女のサポートをする二丁ガンマン。

二丁拳銃による射撃能力はもちろん、魔族の特性を生かしたスピードは一流のスペシャリスト。

対歩兵戦闘はもちろん、勇者のような対超人戦闘も行える。

よく敬語を使うが、昔は口が悪かった。

錬子と一緒に俺が矯正して治した結果、忠実な美しい二丁ガンマンへと変身した。

「二人共、会えて良かった」

「こっちもよ。クレアとミーナの帰りが遅いからギルドに来てみれば、またあなたが暴れていたのね」

「少しは自重したが、案外ここの傭兵は短気で面倒だった。てかお前らがクレアの言っていた数年前に入った仲間だったんだな」

「そうよ。二人に誘われてちょうど良かったから入ったの。意外に二人の回して来る仕事は悪くないわよ」

「クレアさん、ミーナさん。さっきから呆然としていますが、何かありましたか?」

「ゼロが魔王本人だって言って、しかもその実力があるみたいだからまだ実感がないのよ……」

「まさか伝説の魔王に出会えるとは思いませんでした。しかも私達がスカウトしたゼロさんがですよ?信じられません」

「アハハッ。まあ普通はそんな反応するか。まあすぐに慣れるわよ。それよりも早く家に来てよ。待ってて退屈だったから」

「ああ。行くとしよう」

俺はクレア達の案内のもと、彼女達の仕事場に向かった。

「何なんだよ、あいつ……」

呆然としている他の傭兵を残して。



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