第1話 魔王、目覚めて人に出会う

「…………」

数千年ぶりに目を覚ますと、綺麗な青空が広がっていた。

新鮮な空気を運ぶ風に眉をひそめ、自分の姿を確認する。

オッケー、とりあえず転生に成功したな。

今の姿はまだ一歳の赤ん坊だったが想定通りだ。

考察なら後でも出来る。

入っていた籠からなんとか出て、成長魔法でとりあえず十五歳ぐらいまで成長させる。

目を下に向けると、ある程度鍛えられた自分の体が見えた。

寒っ。そういえば服着ていなかった。

時折吹く風で全裸だった事に気付いた。

大戦中に指に埋め込まれた小型装置で画面を出し、たくさんある項目の装備という項目をタッチし、その中の一括装備をタッチした。

すぐに自分の装備が身に付けられ、改めて自分の装備を確認した。

あの大戦争から使っている黒の戦闘服に灰色迷彩のズボン、軍用ブーツ、ブラックボディアーマー、戦闘用フェイスマスク付きヘルメット、装備ベルト、軍用バックパック。

うん、どこも異常は見当たらないな。

次に武器の項目を選択し、自分の愛用のアサルトライフルを出す。

地球で多く出回っているアメリカ軍制式突撃銃M4A1を手に取り、一通り確認する。

ライフルの上部には2~4倍スコープ、銃口にはマズルブレーキ、その後ろの右側にはフラッシュライト、下部には単発式グレネードランチャーのM203が装着されていた。

100連ドラムマガジンが装塡され、普通の人間なら持って戦うのが難しいだろう。

だが俺は魔族だ。人間よりも力がある魔族ならライトマシンガンを片手で撃てる。

次に両脇のホルスターを実体化させる。

ホルスターにはイスラエル製の50口径拳銃デザートイーグルが収まっていた。

自動拳銃で一番威力がある拳銃でこいつらも俺の愛銃だ。

右脇のはシルバースライドタイプ、左脇のはメタルブルースライドタイプのデザートイーグルだ。

この二丁の拳銃を使う時は、M4A1が弾切れになったとき、近距離戦闘をするときなどが多い。

これも人間が持って戦うのに向いていないが、魔族だから問題ない。

その後にM67手榴弾、閃光手榴弾、煙幕手榴弾を実体化させ、ボディアーマーやベルトに付けた。

ひとまずこれでいいだろう。

一通りの装備を終えた俺は近くの倒れている丸太に座って今の状況を確認した。

あの大戦の時、勇者にやられた俺は殺されるよりも早く禁断魔法を使って先代魔王の依頼を達成させた。

多分人間も魔族も新世界で消えたが、俺の幹部は死んだら転生するよう細工していたからこの世界にいるだろう。

だが腑に落ちない点もある。

なぜ森の中で目覚めたのか?

もし魔獣が生息する森だったら目覚める前に殺されていたかもしれない。

俺の予想していたシナリオとは違う。誰かが俺を森に捨てたのか?

まだ分からない事が多い以上調査が必要だな。

まずはあいつらが何処にいるか探さないとな。俺が最後だったからもうこの世界の何処かで生きているだろう。

立ち上がって指のデバイスで地図を開いた。

しかし何も表示されていない。

まあ別の世界だからな。表示されないのは当然か。

何もない地図を消して、ひとまず奥に続いている道を歩いて進んだ。

周りを見ると木々が横に広がっていたから森の中にいたことを確認する。

久しぶりに歩く地面はどこか新鮮だった。

こんなにのんびりと歩いたのはいつぶりだ?

大戦中は走ってばっかだった気がする。

撃って、移動して、また撃つ。

この繰り返しでもはや慣れてしまった。

あの時はのんびりと歩く時間さえ無かったからな。銃声も爆音も聞こえない森が居心地が良い。

さっき成長魔法が使えたから、転生しても他の魔法も使えるだろう。

というより、魔法が使えるのはとあるRPGの魔法がそのまま使えたからだよなー。

ちなみにこの体は昔やっていたゲームのアバターで、頭に戦闘技術がそのまま入っていた。

魔法も同様だ。

だけど一応俺は魔族だ。姿はゲームのアバターだけどな。

さらにはRPGのアイテムも使えるのに気付いた時は目を疑ったよ。

異世界召喚何でもありかよ。

無線機で仲間に連絡を取るが繋がらない。

まあそうだよな。繫がる方がおかしい。

無線機をしまって森の外に出ようとする。

……おっと?

足を止め、索敵魔法を使う。

左右数十メートルに三人ずつ。草むらに隠れているな。

明らかに害意を向けているからすぐに気付けた。

「隠れてないで出て来い。いるのは分かっている」

するとゾロゾロと明らかにガラの悪い山賊が現れた。

下卑た笑いに、オラオラ感満載の山賊達に俺は笑いを必死に堪えた。

あの大戦にもいたなぁ。追い剥ぎもどきの山賊や盗賊が。

よく兵士の武器を奪う盗賊の多さに苦労した時が今では懐かしい。

「おいお前。とりあえず身に付けている物全て置いていけ」

懐かしんでいると、一人の山賊が声を掛けてきた。

「え?やだよ」

俺は即座に山賊の命令を断った。山賊如きに従ってたまるか。

山賊が俺の舐めた態度に苛立ってきた。

「おいおいおい。お前、今どんな状況か分かっているのか?」

「そっちこそ、誰に物を盗ろうとしているのか分かっているのか?」

「あまり舐めた態度とってると殺すぞ!」

おっと早速一人の山賊が声を荒げて脅してきた。

他の山賊も同じだった。

「今の時代の山賊は迫力が無いな。五千年前の山賊の方が獅子の睨み顔をするぞ」

「んだとゴラァ!?」

「後悔させてやるぞ!」

「はいはい。そんなに遊びたいなら遊んでやるよ」

M4A1をスリングで肩に下げ、ファイティングポーズをとる。

そして盗賊を挑発してやる気を起こさせる。

「来いよ、雑魚」

「上等だゴラァ!!」

正面にいた盗賊が殴り掛かってきた。

……遅ぇ……。勇者の拳と比べると差が泣きたくなるほど大きい。

とりあえず山賊の拳を受け流して顔面に一発殴った。

山賊が後ろに数メートル吹っ飛び、頭から地面に倒れた。

あれ?死んで……ないよな?ピクリとも動かないけど。

「うおっ!?おい!?」

「てめぇ!!よくも!!」

吹っ飛ばされた山賊の隣にいた仲間は呆然として動かなかったが、仲間がやられて怒った三人の山賊が俺にかかってきた。

だがこの三人も同じだった。

仕方ない。そのまま寝てろ。

右手を握り締め、人間の目で見る事が出来ない程素早く殴って山賊を昏倒させた。

「ひえっ!?こんなあっさり……!!」

「こいつやべえぞ!逃げろ!!」

昏倒して倒れていない山賊が仲間を抱えてそのまま一目散に逃げていった。

何だか骨のない奴らだったな。四千年も経つとあんな貧弱になるのか。

俺はすぐに山賊の事など忘れてそのまま前に進んでいった。


しばらく森の道を進んでいくと、ようやく森の外に出られた。

前には草が一面に広がっていた。

草原の中の道を歩いていく。

不思議だ。こんなにも戦闘音が聞こえないなんて。

俺が外を歩くといつも銃声が聞こえる。正直ウンザリしていた。

戦争がないこの世界に愛着を持てるようになった。

俺の仲間も平和になったこの世界を楽しんでいるのだろうか?

それにしてもかれこれ十分は歩いているが、全然人に出会わないな。

かなり田舎の町の方に転生したかもしれない。

この道の先に何があるのか分からない。

都市なのか町なのか他なのか。

いずれにせよこの世界を知るためには人の住んでいる場所に行かなければならない。

そんなこんな考えていると、後ろから何かが近づいてくる音が聞こえた。

振り向くとオープンタイプの乗用車が接近してきた。

ほう。車があるのか。新しい文明の中で生まれたのか知らないが、車があるならこっちとしてもちょうど良い。

俺に気づいたのか車を止めて、二人の少女がフロントガラスから体を出した。

俺は二人に近づき、声を掛けた。

「やあ、可愛らしいお嬢さん達」

「どうも、見慣れない不審者さん?」

「お姉ちゃん。ちょっと……」

乗っていたのは銀髪の双子の姉妹だった。目つきと性格以外同じだ。しかも服も同じ水色の服に白のスカートだ。

彼女達は同じアサルトベストを着ていて、そこにマガジン用のポーチが幾つもあった。

助手席に乗っていた姉の方はロシア製の《AK12》アサルトライフルをスリングで首にぶら下げていた。

ホロサイトにマズルブレーキが付けられていた。

アサルトベストの胸元のホルスターにはM&P45拳銃。

一方ドライバーの妹はドイツ製の《MP5》サブマシンガン、オーソドックスな固定ストックのA2タイプを持っていた。

サブマシンガンの上部にドットサイトを付けていた。

アサルトベストのホルスターには同じM&P45。

四千年前、銃は豪華で貴重な物だった。

今はこんな可愛らしい少女が持てる程普及しているようだ。

姉が突撃して妹がそれをサポートする感じかな?

二人の装備を見てそう思った。

「ところで、あなたここをずっと歩いてきたの?」

姉が俺に質問してきた。

「ああ。後ろの森からずっとな。ウォーキングにピッタリなコースだったよ」

「嘘でしょ?山賊が多く出没するあの森から来たの?」

道理であの山賊達が森の外で待ち伏せていた訳だ。

「別に、あれが山賊と呼んでいいのか疑いたくなる雑魚だったから問題なかった」

「ふーん。それなり実力のあるってことね」

まあ、元魔王ですから。多分この二人の少女は目の前にいるこの不審者が約四千年前の魔王だとは知らないだろう。

長い年月が経つと忘れてしまう。人間も魔族もそうだった。

「ところで二人はこれから何処へ?」

「町に戻るの。ちょうど依頼を終えた帰りだからね」

「依頼?」

「知らないのですか?私達これでもギルドに登録された傭兵です。実力があれば誰でも傭兵になれます」

傭兵だと?

かつての世界は冒険者という者が多く存在した。ギルドに登録された冒険者は色んな依頼やクエスト等を受注して金を稼ぐ。

傭兵と似たものだったが、冒険者という職業は消えたのか?聞いてみよう。

「冒険者とやらはないのか?」

「あなた本当に知らないみたいね。その冒険者が傭兵になったのよ」

「どういう事だ?」

「最初は冒険者がいたみたいだったけど、どんどん数が減って、それを見かねたギルドが冒険者を傭兵として登録して、元々傭兵だった人もギルドに登録されて世界公認の傭兵となったのよ」

どうやら元々少なかった冒険者がさらに減って、冒険者より数が多い傭兵に仕事を回した訳か。その冒険者も傭兵に変えて。

「ちなみに冒険者が完全に消えたのはいつだ?」

「三百年前よ。それからずっと傭兵が冒険者の仕事の肩代わりをしています」

「大体分かった。悪いが頼みがある」

俺は意を決して二人にある事を頼んだ。

「俺はこの世界を知らない。だから二人の仕事に就いて知ろうと思う。その傭兵としてギルドに登録する手伝いをしてくれ」

「……どう?」

「私はお姉ちゃんに委ねるよ」

「……あなた、名前は?」

「ゼロだ」

「ゼロ、条件に従えばその頼みを聞いてあげるわ」

「何だ?」

「ギルドに登録した後、私達のチームに加わりなさい。そうすればあなたのギルド登録を手伝うわ」

フフフッ。中々に傲慢で真っすぐな目をした少女だ。

思わず心の中で笑ってしまった。四千年前にはそんな奴がいなかったからだ。

まだ二十にもなっていない少女のそれではない。熟練の傭兵の目だ。

それに、どこに断る理由がある?

「了解しました、お嬢さん」

「中々骨のある男だと期待しているわ」

「というわけで改めてよろしくな、ええと……」

「クレアよ」

「ミーナです」

金髪の姉が最初に名乗り、青髪の妹が続けて名乗った。

「クレア、ミーナ。不束者だが、よろしくな」

こうして俺はクレアとミーナのチームに加わり、彼女達の車に乗って町に向かった。



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