魔王と呼ばれた男、転生して平穏に暮らしたい
@force16
プロローグ
今から約四千年前、人間と魔族の大戦争が起きた。
きっかけは至極単純。人間か魔族の誰かが誰かを殺した。
その殺された者の関係者が復讐して、そのまた関係者が復讐して、止まらぬ報復の連鎖が続き、遂には戦争へと事が大きくなってしまった。
今の時代の人間や魔族は戦争のきっかけなど知らないだろうし気にも留めないだろう。
そして戦争はより過激になり、両者とも凄惨な状況になった。
人間側は剣や槍などの近接武器による中世的な戦闘や陣形による展開などを得意としていた。
それに対して魔族側は魔法や製造面に優れ、魔道具を造って奇襲や遠距離攻撃などを得意としていた。
どちらも熾烈な戦いを繰り広げたが、四千五十年前、遂に人間側が優位に立った。
後に勇者と呼ばれる英雄が兵士を率いて魔族を制圧し、味方の士気を高めた。
他にも慈愛に満ちた回復魔法を得意とする聖女、人間ながら魔法の才能に恵まれた大魔法使いなど勇者には心強い仲間がいた。
これにより魔族側は劣勢になり、魔族のリーダーの初代魔王は高齢を理由に息子を二代目魔王にさせた。
しかし二代目魔王は戦争の事を知らない、いわば無能のリーダーだった。
これによりさらに魔族側は劣勢の道を歩む事になった。
不運なことに二代目魔王は子供がいなかった。
跡継ぎがいないため、魔王軍上層部は必死に新たなる魔王を探したが、中々初代魔王に匹敵する者が存在しなかった。
そこで魔王軍上層部の誰かが議会でこう進言した。
「この世界でいなければ他の世界の人間を連れてくればいい」
魔族の魔法技術はとても優れており、複数の時空魔術師による召喚魔法が使える。
それは膨大な魔力を消費するが、それに引き換えて異世界の者をこちらに召喚する事が出来る。
他に方法がないと上層部はこれを承認。
四千三十年前、すぐさま召喚の儀式を始めた。
やり方は半径五メートルの魔方陣を書き、十人以上の時空魔術師が魔力を込め、長い詠唱をする。
これが最も成功率の高い召喚の儀式であった。
そして儀式は成功し、魔方陣から一人の男が現れた。
その男の姿は魔族はもちろん、この世界の人間も見たことがない姿だった。
黒のTシャツに灰色迷彩の軍用ズボンを着ていて、服の上には黒のボディアーマーと呼ばれる防具が着けられていた。
各関節には戦闘用のパット、ベルトにはゴテゴテと色々な物が装着されていた。
顔は黒のフェイスマスク付き戦闘用ヘルメットで隠されていた。
呼んだ魔族は異形と呟いた。
この世界の装備ではない物を付けた、この世の者とは違う何かだった。
そして魔族が服装よりも驚いたのは男が手にしていた武器だった。
別の世界では突撃銃(アサルトライフル)と呼ばれる武器で、男の世界では世界的に普及された物だ。
黒色の横に長い異世界の武器、魔族の技術者は喉から手が出る程興味深かった。
男が辺りを見渡した後、自分を見ている魔族にこう言った。
「ここはどこだか知らないが、また戦場に戻されたか?」
その後、男はゼロと名乗り、この世界に召喚した理由を魔族の上層部から聞いた。
魔族の言葉は男が分かる日本語にそっくりだったため、理解が早かった。
男はもうすぐ引退する二代目魔王に魔王のイロハを教えて貰った。
そしてこの世界がどういうものか理解した男は自分を召喚した時空魔術師に命令した。
他の異世界の人間を召喚しろ、と。
これに魔族の魔術師達が反対した。
時空魔術師の割合は全体の魔術師の0.5%。
さらにその中で選りすぐりの魔術師を選出しなければならない。
だが男は魔族の反対を無視して自分を召喚させた魔方陣に手を触れた。
すると異世界の男が魔方陣の効果を発動し、何人もの異世界の住人を召喚させた。
魔族は目を疑った。たった一人で召喚の儀式を成功するとは思わなかった。
しかも詠唱をせずに。
当の本人は半信半疑だったが、まるで成功するのが分かっていたか驚いていなかった。
その後ある程度の人数を召喚させた後、ゼロは軍を改変させた。
武器を異世界の銃に変更させ、装備もゼロと似たような物を兵士に配備させた。
装備の量産は魔族の錬金術師の一人がやり方を教えたらすぐに使えるようになった。
問題は多々あるが、さほど難しい問題はなかった。
なぜならゼロが召喚した者は皆軍人や特殊部隊、スパイ、殺し屋、傭兵など戦闘のプロばかりで、教官の経験がある者が魔王軍の兵士を教育した。
さらにはその中に魔法が使える者がおり、魔術師達の指導で戦闘に使える程技を上達させた。
兵器はゼロが記憶を頼りに高難易度魔法の具現化魔法でポンポンと作製させ、魔王軍の兵士に使い方を教え、訓練させた。
それから数十年後。
魔王軍の装備が一変し、戦力が増大した事で再編成された部隊を投入すると、人間の軍隊を圧倒した。
たった数年の訓練を受けた魔王軍は余裕をもって人間を倒す事が出来た。
さらに魔法技術を兵器に併用する事で兵器がパワーアップされ、近接武器しか持たない人間を蹴散らした。
連合軍も独自で魔王軍と渡り合える似たような装備を製造し、数年後に魔王軍と渡り合えた。
勇者率いる連合軍をぶつけ、両者とも屍の山を築いた。
そして再編成された魔王軍が投入されてから十年後。
後に「決闘の大地」と呼ばれる場所で勇者と魔王の称号を二代目魔王から与えられたゼロの一騎打ちが起こった。
激しい戦いの末に両者とも岩の大地に倒れた。
傷だらけで戦う気力さえ無くなっていた。
だがゼロは前魔王からの依頼を達成させるために最後の力を振り絞った。
勇者の魔力を利用し、禁断魔法「新世界」を使って世界を一度破壊した。
それは今ある世界を破壊し、全く新しい世界を創る強力で人間も魔族からも禁じられた魔法だった。
ゼロは長引く戦争に嫌気が差され、また自分を慕う魔族にも複雑な心情を抱いていた。
全てが破壊され、無になった。
その数百年後に色んな種族の種が芽を出し、新たなる文明を築いていった。
この物語は、そんな世界に転生した、一人の男の物語である。
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