第5話 魔王、久々の戦闘をする

何だコイツ?ゴリラ?ゴリラも魔物になるのか。

急に襲ってきたのは黒い毛皮のゴリラだった。

見た目は普通のゴリラと変わらないが、目が赤いし凶暴そうだ。

しかもこいつは索敵魔法で探知されなかった。

気配を消して奥の崖からここまで飛んで来たのだろう。何て脚力だ。

崖での狩りが得意だとしたら、ちょっとまずいな。

「優子、魔物に襲われた。黒いゴリラだ」

『アングリーゴリラです。危険度の高い魔物の一種です。普段は地下深くで活動してあまり登って来ないのですが』

「あの白い花を餌にして俺を襲ってきやがった。知能は少しはありそうだ」

『クレアさん達に連絡をしたいのですが……』

「このゴリラに隙を作る気か?隙を見せるとこのゴリラの熱い歓迎を受ける事になるぞ」

『下にもゴリラの仲間がいます。ゴリラを倒しながら逃げましょう』

「了解」

無線機をしまって待ってくれたゴリラを見た。

コイツ……わざわざ俺達の連絡を妨害しなかった。

「戦うまで待ってくれたのか?」

ゴリラはニヤリと笑った。

「なら、俺はいつでもいいからかかってこい。肩慣らしにはちょうど良いだろ」

そう言うとゴリラが襲い掛かってきた。

それを避けて後ろに退避した。

下から二体のゴリラがやって来た。

数で攻める気なら、正々堂々と受けてやろうじゃないか。

ゴリラが襲い掛かってきたのと同時に崖を蹴って避ける。

そして両手のデザートイーグルで攻撃に失敗したゴリラを撃ち殺した。

崖に戻ると、前からさっきのゴリラが殴ってきた。

俺はそんなゴリラに下から蹴りを入れてデザートイーグルを撃った。

撃たれたゴリラはそのまま下に落ちていった。

こいつらの戦略が読めた。

数体が掛かってきて一体が様子を見る。

現に観察しているゴリラが遠くにいる。

そして下には大量のゴリラ達。

「やれやれ。ゴリラにはモテたくはないな」

スリングで下げていたM4A1を手に持つ。

観察役のゴリラが合図のような雄叫びを上げると一斉に下のゴリラが襲ってきた。

近くの三体のゴリラを撃ち殺して崖を蹴って後ろに振り子の運動で飛んでいく。

飛び掛かってくるゴリラ達をフルオートで撃ちまくって下に落としていく。

崖に着地すると横からゴリラが来た。

ゴリラの連続パンチを避け、股間に蹴りを入れて銃剣でゴリラの首を切り裂いた。

後ろからもゴリラが来てたから青い炎の弾で撃ち落としておいた。

少しずつ上に登りながらゴリラの群れを撃退していくが、数が多くて捌ききれない。

M4A1が弾切れになり、マガジンを落とすとゴリラが掴み掛かった。

崖にぶつけて俺を落とそうとしている。

「触んなこのゴリラ野郎!」

半分の力で抱きつくゴリラ野郎に何度も拳を入れ、脳震盪で動かなくなったゴリラを蹴っ飛ばした。

遠くに飛んでいって瘤になっている岩に激突して落ちていった。

うわー、痛そう。

「ゴアアアアァァァ!!」

うおっと。下からお怒りのゴリラが五体。

だが俺に近づかず、崖の岩を剥がして投げてきた。

さすが知性のあるゴリラだ。普通の奴ならもう死んでる。

障壁を展開して防御し、隙を見て二丁のデザートイーグルを撃って左から順番に落としていった。

デザートイーグルが弾切れになったから、マガジンを落として後ろの自動装塡装置にデザートイーグルをかざして再装塡した。

奥の崖を見ると、ゴリラの増援が見えた。

まだあんなにいるのか。面倒だな。

奥の崖のゴリラを見ていると、横からゴリラが飛び掛かってきた。

しつこいゴリラだな!

俺がデザートイーグルで撃ち殺そうとすると、ゴリラが後ろから銃撃されてそのまま下に落ちていった。

横からやって来たのは優子だった。

優子も数が多くてしつこいあのゴリラ達を倒しながらここまで来たみたいだ。

「奥のゴリラは見ましたか?」

「ああ。他の奴らが呼んだみたいだな」

「気を付けてください。奴らはあの距離でも飛び移れる腕力と脚力を持っています」

「もはや化け物じゃん。どうするよ」

上を見ると、ミーナが奥のゴリラ達を火の弾で牽制して、クレアと錬子が俺達の横から来るゴリラを撃ち殺していた。

奥のゴリラは飛んだ後にミーナの玉で撃ち落とされているが、ミーナの魔力切れも心配だ。

「優子、一気に駆け上がるぞ」

「作戦は?」

「お互いゴリラにやられないように援護しながら上に行く。それだけだ」

「それ、作戦とは呼べませんけど……」

「いいから!下のゴリラも来たしやるぞ!」

俺の合図で崖から走り出す。

それをゴリラ達が追跡する。

クレアと錬子が援護射撃してゴリラを撃ち落としているが、何体か二人の射線をくぐり抜けて俺達に接近していた。

「優子、右から二体来てるぞ」

優子はすぐにTMPでそのゴリラ達を始末した。

俺の方にも三体のゴリラが来たからデザートイーグルで撃ち落とした。

そしてあと少しで崖の上に着く……その時、後ろから何十体ものゴリラが飛び移ってきた。

ミーナの玉で何体か犠牲になる覚悟を決めて飛び移ってきやがった。

「やばいです!」

「優子、ジャンプしろ!」

俺と優子は崖からジャンプして追ってくるゴリラ達から距離を取る。

M4A1の下部のM203グレネードランチャーを撃ち、複数いたゴリラ達を吹き飛ばした。

優子が92FとM9A1をホルスターから抜いて残っているゴリラを正確に撃ち殺す。

そして運良く生き残っているゴリラがいたから戻る時に足でゴリラを崖に潰して、デザートイーグルの銃剣でうなじを削いで下に落とした。

そして崖に着地して、何とかクレア達と合流した。

「大丈夫?怪我はない!?」

「心配すんな、傷一つつかずにここまで来たよ。あのゴリラは?」

「下に逃げていきました。索敵魔法で調べましたが、完全に地下の巣に逃げたみたいです」

「撤退したか、懸命な判断だ」

ゴリラも損害が多くてこれ以上の狩りは無理だと判断して撤退したみたいだ。

俺も確認したが、索敵圏内に反応なし。

何とか逃げ切ったみたいだ。

「それにしてもここから援護しながらあなたの戦いを見てたけど、危険度の高いあのアングリーゴリラを何体も殺して逃げ切れるなんて、やっぱり強いのね」

「本当はファイヤーボールで一網打尽にしても良かったが、優子が巻き添えを食らうから、代わりにグレネードランチャーで何体か倒して残りを優子に始末させた」

本当にノーダメで逃げ切れたのは奇跡だった。

久しぶりの実戦とはいえ、やっぱり腕が鈍っているな。

後で鍛え直そう。

「で、目的のブツは?」

異空間収納から白い花を出してクレアに見せた。

「パーフェクトよ!さあ、帰ろ!」

「ああ。俺はクタクタだ……」

俺はとりあえず全員が生き残った事に感謝して、車のある場所まで休憩込みで行き、センフィーネスに帰還した。


「凄いわね、あいつ」

車に乗っている間、クレアは疲れて休んでいるゼロを見て皆に聞こえないように呟いた。

クレアはあの時、

崖の上から援護射撃してゼロと優子に襲い掛かってくるアングリーゴリラを倒していた。

その時にゼロの戦闘を見ていたが、次々と襲うアングリーゴリラを正確に撃ち殺していた。

拳銃、ライフル、時には銃剣、拳でアングリーゴリラに力の差を見せつけていた。

ゼロは知らなかったと思うが、途中からアングリーゴリラの顔が恐怖に染まり始めていた。

あんなに強い人間と初めて戦って、勝てないと悟ったのだと思う。

ゼロと優子が合流すると、ゴリラ達は一斉に下に逃げていった。

ゴリラ達は幸運だったかもしれない。

もしゼロが撤退ではなく、殲滅する気だったらアングリーゴリラ達を皆殺しにしたかもしれない。

ゼロにはそれだけの力がある。

「私はとんでもない奴を仲間に入れたかもね……」

優子と楽しく話しているゼロを少し畏怖し、遠目でそう思ったクレアだった。


昼になって、俺達はギルドに依頼を達成した事を報告し、目的の花を渡した。

一個だけで充分だったかと聞くとギルドの受付は大丈夫だと言った。

むしろ逆に咲いていた事に驚きを隠せていなかった。

あと、アングリーゴリラの群れに遭遇した事を伝えると受付の女性が唖然としていた。

あのアングリーゴリラは熟練の傭兵でも倒すのが困難な魔物だったらしい。

確かにあの群れで連携して攻撃する技は結構厄介だった。

優子がいたからあの時かなり楽だった。

アングリーゴリラの群れに襲われて生き残った事を伝えると、それを聞いていた周りの傭兵がヒソヒソと話し始めた。

「アングリーゴリラに遭遇して生き残ったって?」

「普通はアングリーゴリラに遭遇したら一巻の終わりだけど……」

「でもまぁ、結局逃げたんだろ?大した実力はやっぱりねえよ」

まだ俺が魔王だと信じていない傭兵も多数いた。

実際に俺の戦いを見たのはクレア達だけだからな。この目で見ないと信じないかもな。

「ところで、一つ聞きたいのですが。なぜ撤退を優先したのですか?」

受付の女性が急に質問してきた。

顔を見るに、単純に気になって質問した感じだった。

「当たり前だろ。傭兵は依頼達成が命だ。どんな状況であれ、依頼達成が傭兵で食っていける糸だからな。あの時は花を回収した後に襲われたから撤退を優先した。もし花が見つからずに襲われたら、下のゴリラの巣にナパーム弾を落としていたよ」

「ナパーム弾……?」

ありゃ?ナパーム弾を知らないみたいだな。

「簡潔に言うと焼夷弾の上位互換だな。下に落としてゴリラの巣ごと焼きつくして、攻撃の手を緩めさせる。その隙に花を探すんだが……」

あれ?クレア達の視線がおかしいぞ?

「ナパーム落とすつもりだったの……?」

「アングリーゴリラ達が可哀想……」

特に錬子と優子の冷ややかな視線が俺のハートを抉られる!

「まあ、それは最終手段だな。結局使わずに採取出来てよかったよ」

「そ、そうですか……ありがとうございます」

あれ?やっぱり言わなきゃよかった。受付の女性に引かれたんですけど。

ついでに後ろの傭兵達にも引かれた。最悪だ。

「ちなみに、ナパーム弾なんてあったの?」

「異空間収納の中にな。他にも白燐弾、焼夷弾、榴弾、硫酸弾、凍結弾などなど色々あるよ」

「使わなかったのは?」

「そんな暇がなかったのと、グレポンに頼らなくても何とかなったから」

「はあ……少しは自重してよ。特に白燐弾は」

はいはい。多分使う機会はめったにないと思うけどな。

「それよりも昼飯食いに行こう。ゴリラと戦って腹が減ってる」

「あんな激しい戦いをしておいて平然としているその精神が羨ましいよ」

「アハハ……」

クレア達から引かれた俺はギルドから報酬を受け取った後にすぐにギルドから出て行った。

傭兵からも引かれて少し傷ついた。

やっぱり自重した方が良さそうだ。


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