雨後の風
白川津 中々
■
張り詰めたオフィスから外に出ると透き通る涼を感じた。
そういえば夕立が通ったなと腑に落ちる。熱を帯びた夏はまだ続くそうだが、秋の気配が少しずつ、明確に近いづいているように思えた。天候の気まぐれだろうが茹だった肌に浮く汗を一と時でも忘れられるのは喜ばしい事である。
しばらく歩き、思い切ってマスクを外してみると、何やら望郷の念に至る香が鼻腔から脳へ届いた。追憶を覗くと、夏の終わりはいつもこんな風だったなと懐かしむ。
そのまましばらく進むと、チラホラとマスクを外している人々が目に入った。人通りは少なく、誰が咎めるわけでもない道程。それはそうだ。いい風が吹いているのだ。マスクなどしておれんだろう。
しばし気ままに風を楽しむ。懐古は常となりもはや郷を思い出すこともないが、快かった。
燃える夕暮れを見送る。明日の熱暑を予感させる真っ赤な陽の残照に照らされ、俺はマスクをつけ直して駅へと向かった。また、現実がやってくる。
雨後の風 白川津 中々 @taka1212384
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