AV女優期
@yokoYAMASUKU
第一話 母が死んだ
さとみの母が死んだのはつい2カ月前のことだ。さとみは一般的なサラリーマン家庭に生まれ、一人っ子だったこともあり両親には大切に育てられてきた。決して裕福ではないものの人並みに生活をし、欲しいものは当たり前のように買ってもらえた。
父も母も明るく優しく、友達から両親の愚痴なんかを聞くたびに「ウチの親は普通
に子ども思いの人でよかった」と思っていた。
成績も普通、家庭環境も交友関係も普通…何もかもが「普通」で暮らしてきたさとみにとって、母の突然の死は16年の人生で初めて起こる普通ではない出来事だった。
さとみの母の死因は交通事故だった。パート勤めをしていたスーパーへ自転車で通勤中、交差点でトラックにはねられ即死だったらしい。
2カ月経ったいまでもさとみは何だか実感がわかなかった。楽しいときにも辛く苦しいときにも母の存在はいつもいちばん身近で、母に支えられてここまで大きくなったことはさとみ自身よく分かっていた。
自分のことはいつも二の次で、さとみのため父のために家事をし、少しでも家計の支えになればとパートをしていた母。水道代節約のためにお風呂の残り湯で洗濯機を回す母。美容院代がもったいないからと、ドラッグストアでカラー材を購入して自分で洗髪をする母。そのくせさとみが欲しいと言ったものはニコニコ笑って、気前よく買ってくれる母。
思えば母もさとみと同様、ごくごく普通の日常を送りながらもそれなりに幸せを実感しながら生きてきたのではないかと、在りし日の母の「母たる姿」を想像しながら改めて感じていたさとみであった。
これから先、そんな普通で温かい母がいない生活はさとみにとって暗く苦しいことになるのではないかと頭では分かっていた。しかしもう赤ん坊でも幼児でもない、高校1年生のさとみはある程度自分のことは自分でできるし、生活に必要な費用は父が面倒を見てくれることはいままでと何ら変わりはない。
ただ母がそこにいないだけで意外と自分の生活は激変することはなく、それゆえに母の死がさとみにとっては現実のものとは捉えられないものになっていたのだ。
49日も終わり母の死からの慌ただしい日々がひと段落した今、さとみは母の死を冷静に受け止める準備をしなくてはと思い始めていた。
母がこの世界から消えてしまっても、こうして日々は淡々と過ぎていく。「もしかしたら自分はこのまま母との決別を受け入れないまま、何となく時間をやり過ごして生きていってしまうのではないか?」そんな考えが心に浮かぶようになり、さとみは母がこの世に残した荷物の整理をしてみようと思い立ったのである。
AV女優期 @yokoYAMASUKU
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