1章
ことの始まり
「今、君の家の前にいるんだけどちょっと会えない?」
そんな電話が幼馴染である葵からかかってきたのは、深夜1時のことだった。
普段だったらそろそろ寝ようとする時間だ。しかし切羽詰まったような声が気になり会うことにした。
久しぶりに見た葵の顔は、酷く疲れたような途方に暮れたような今にも泣き出しそうな顔をしていて僕は思わず
「どうしたの?何かあった?」
と尋ねた。
すると葵は、その言葉で堰が外れたように泣き始めた。
「ちょっ、いきなりどうしたのさ?」
と僕は慌てて家にとりあえず入れることにした。幸い、この1週間は親が旅行でいないので親にバレる心配もなかった。
家に戻りリビングに案内してソファーに座らせ、10分ぐらいたってくるとやっと葵が落ち着いてきたようだったので事情を尋ねることにした。
「それでなにがあったの?」
「何があったか…聞いてくれるの…?」
「うん。葵は大切な幼馴染だし、それにそんな顔を誰でもしていると何があったか気になるよ。」
だって目の前で泣かれて気にならない人なんて居ないだろう。そもそも葵は、大切な幼馴染なんだ絶対に気になる。
「ほんとに…?」
「うん」
「じゃあ何があったか話すね。私が侵した最悪の罪を…」
そう言って葵は、何があったか話はじめた。
「私さ連絡は取っていたとはいえ、半年ぐらい君に会ってなかったじゃん。」
「うん」
葵と半年も会わないのは、僕らが出会ってから初めての事だったのでそれは僕も気にしていた。というか嫌われたんかな?と心配していた。
「実は、あの時、虐められてて身体に傷とかがたくさんあったからきみにも会いたくなかったんだ…」
そう言って葵は、弱々しい笑顔を僕に向けてきた。
「虐められてたって…嘘でしょ?」
葵は、ホントだよと呟きながらいきなり着ていたシャツをずり上げ、傷だらけの腹を見せてきた。
そこには、紛れもなく悪意をもってやられた痕が無数にありぼくは思わず目を逸らしていた。
「これで嘘じゃないって信じてくれた?」
葵が虐められてたってなんで気づいてられなかったんだろう。出会ってから半年も会わない事なんて無かったのに…なんで僕は、嫌われたのかな?とか自分の心配ばっかしてるんだよ!と葵に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ごめん。僕、何も気づいていなかった…」
「それは全然いいの。私、君だけには気づかれないようにしていたから」
「それは、何で?」
「だって君に心配をかけたくなかったし。君が私が虐められてることを知ったらいじめを止めようとするでしょう。そうしたら君までいじめられる気がして…それが嫌で言えなかった。」
それでも僕は、知りたかったな…それで葵の力になりたかった。だって葵はぼくの大切な幼馴染だから。
「でもそれはもういいの。終わった事だから……私が終わらしてしまったことだから。だからここからは私の贖罪のお話……」
逃避行 天夜翔太 @amayashota
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