小学生男子の四人組が、度胸試しを兼ねて、近所の公園で見かける『魔女』の正体を探るお話。
とても優しい手触りの現代ドラマです。なにより目を引くのは作品の細やかさ、丁寧に一歩一歩道を踏み締めて進むかのようなストーリーテリングで、それによってもたらされるリアルな質感というか、物語世界の実存を感じさせる手腕がとんでもなかったです。
主人公のケンタを含め、メインの登場人物であるところの四人組は、その全員が小学三年生で、つまりこれは子供の物語です。子供の世界を子供の視点から、子供の感覚で描いた物語。読む分にはただ普通に読んでしまうのですけれど、でも冷静に考えるとこの時点ですでにとんでもないことになっています。だって少なくともこの作品を書いているのは大人なわけで(たぶん。もしかしたら違うのかもしれませんが)、にもかかわらず子供の感覚をそれらしく、かつわかりやすく、しかも自然な形で書き上げるというのは、それだけである種の特殊技能みたいなところがあります。普通はできることじゃありません。
お話の筋そのものは至ってシンプルというか、『魔女』という存在が登場する割には、実に落ち着いた流れの物語です。少なくとも物語のリアリティラインは現実のそれとほぼ同等で、そして度胸試しと言っても具体的には『魔女に直接その正体を訪ねること』、つまりメインに来るのはあくまでも対話です。
特に派手な事件や魔法のような不思議が巻き起こるわけでもない、出来事自体はきっとなんてことのない物語。にもかかわらずそこには非日常があって、つまり『魔女』という非現実の存在がそれで、そして対話がメインであるにもかかわらず(会話が多くなるとそのぶん行動が起こしづらいのに)、そこにはしっかり冒険がある。
怖い魔女に挑んだ勇気の物語。彼の勇気と迷い、そこに魔女の与えたいくつかの答えと、それをしっかり受け止めての成長。ビルドゥングスロマン、少年の冒険と成長の物語に必要なものが、余すところなく揃っている。それも現実に起こりうる範囲の出来事に、対話メインの展開で。気づけばすっかりのめり込んでいたというか、もうこのお話の筋そのものが魔女の仕業みたいな感じです。
ここから先は個人的な趣味に偏った話になりますが、魔女さんの正体があくまで不明なところが好きです。もっというなら、本当に魔女なのかもしれないところ。彼女の思わせぶりな返答、というか絶妙ないなし方のおかげで、子供たちは結局彼女のことを半ば魔女と確信するのですけれど。しかし読み手はそれを〝大人として見ている〟わけで、したがってただの「魔女のふり」だというのは簡単にわかります。わかるのですけど、でも同時に〝読者として見ている〟のもあって、つまりこのお話が創作である以上、魔女であったとしても何もおかしくないという、この想像の余地がもう本当に最高でした。だってこんなの絶対「本当に魔女だったらいいな」と思ってしまう……。いわゆるロマンとはこういうことかと、言葉でなく心で理解させてくれるお話でした。結び周辺の心地よさ、はっきり伝わる主人公の成長が好きです。