(ネタバレありレビュー注意)
エンターテイメント性たっぷりのタイムリープもの小説です。これ無料でいいんでしょうか。大手出版社の作品でもここまでしっかりしたジュブナイルはなかなかない気がします(校正、編集者泣かせの作品ではありますが。タイムラインを考えている作者様はかなり大変かと思います。)
任意時間にタイムリープできる人間が複数おり、お互いがお互いの時間軸を何度でもやり直せる、という基軸は非常に面白いと思います。どの時間軸でも主人公とヒロイン達の誰かが死んでおり、かつタイムパラドクス回避のために自分の正体を明かせない、というジレンマを抱えています。(正体の暴露自体が武器になるというのは面白い仕掛けかと思います。)
主人公と複数いるヒロイン達の掛け合いがかなり「ラノベ風(ギャルゲー風)」です。この部分でかなり人を選別してしまいますが、ストーリーパートは主要キャラの惨劇が繰り返される手に汗握る展開なので、その部分でブラウザバックせず、一章分を読み切ってしまうことをお勧めします。
レビュー時点では第三章の惨劇の開始時点ですが、まだまだこれから面白くなりそうです。期待しています。
高校二年生に進学した白杉巴は新しい教室に入った直後に、クラスメイトの笹篠明華に付き合ってほしいと告白される。笹篠曰く、二人は近い未来に恋人関係になるのだが、巴は付き合って間もなくトラックに轢かれて死ぬというのだ。それだけならまだいいのだが、さらにバイト先の喫茶店で新しくバイトに入った迅堂春からも、私と先輩は未来で恋人関係になるのだが、巴はすぐに死んでしまうと予言されてしまう。その上、親戚である松瀬海空まで自分が未来からやってきたと言い出して……。
かくして三人の未来人に振り回されるラブコメが開幕するのだが、本作で面白いのは未来人たちは互いが未来人だと知ってしまうと、記憶や人格が吹き飛んでしまうというところ。おかげで三人をうかつに近づけるわけにはいかないのだが、巴の命を心配する三人は自然と巴の周辺にやってくるわけで、巴は彼女たちを正体が互いにばれないように四苦八苦することに。
さらに彼女たちが語る未来は微妙に食い違っていることや、巴に訪れる死の運命の秘密など、作品全体に多くの謎を散りばめられてミステリー要素が強い作品なのだが、その一方で、喫茶店で誰が一番上手くラテアートを作れるかを競ったり、球技大会にテニスのペアで出場したりとラブコメ要素もしっかり押さえており、全方面に隙のない作品になっている。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)