怪談獣玉袋
てんてん
第一怪 白い影
私はハクトウワシ、 キョウシュウチホー在住、
パーク見回り兼、ハンターをやっている。
大型セルリアン騒動以来セルリアンの数はだいぶ減ってきている。
しかし、最近妙な噂を耳にするようになった。
"白い影"
全身が白い、草原に現れる、ウネウネしてる、
「そして、白い影を見たフレンズは二度と目を覚さない....」
「この紙きれ、本当に信用していいんですの?」
そう言って疑問の目で小さい紙に書かれた依頼を見つめているのは、
同僚のミーアキャットだ。
彼女は主に、フレンズから寄せられる依頼を管理している。
「正直私も信じられないわ」
「そんな危険な存在、ミライさんや探検隊が見逃すハズないもの」
「でも、ここまで目撃情報が多いってなると、調査しないわけにはいかないわね」
「そうですわね...この依頼、ハクトウワシに任せていいですわね」
「もちろん、ジャスティスよ」
こうして私は"白い影"を探す任務に就いた。
まずは空中から例の”白い影”を探してみる。
ワシの目は人間の8倍ほど視力がいいらしい、獲物を見逃すことはあり得ない。
サバンナエリアでの目撃例が多いことからそこを重点的に見て回った。
ちらほらセルリアンが見られるものの、
ソレらしいものを見つけることはできなかった。
聞き取りもしたが、目撃例以上のことは分からない。
どこに現れ、どうやって現れるのかも...
本当に実在するのか?
「だいぶ飛び回ったわね、早く帰ってシャワー浴びたいわ」
太陽も沈んできたのでその日の調査を終了することにした。
あいにく私は昼行性、ミミズクのように夜は活動できない。
いつものように、活動内容を報告してハンター仲間とマジオカート8で遊んでから就寝した。
翌日、私は図書館に向かった。
図書館には賢いアフリカオオコノハズクの博士と賢いワシミミズク助手が住んでいて、何でも教えてくれる。
もしかしたら、白い影の正体も知ってるかもしれない。
「こんにちは、久しぶりにハクトウワシが来たわ」
「こんにちは、ご無沙汰なのです」
「何用ですか?」
そう言って本棚の上から降りてきたのはワシミミズクのミミちゃん助手だ。
「ミミちゃん、実は..カクカクシカジカなんだけど、いい感じの本あるかしら?」
「カクカクシカジカ、ですか...聞いたところUMAの可能性があるのです」
「となると、あの本が良さげです」
そう言って静かに飛び上がると、
ある本を持ってきてくれた。
"洒落にならない怖い話集めてみない?"
黒い表紙に禍々しいフォントで文字が書かれている。
「ミミちゃん、これは..?」
「コイツはヒトの怪談をまとめた本なのですよ、そしてお前が言っていた白い影は..」
助手があるページを開く、
そこに書かれていたのは全身が白い怪異だった。
こんなクマより弱そうな奴がフレンズを犯し尽くすなんてありえない。
しかし、助手の口からは恐ろしい言葉がサイの尿の如くたくさん出てきた。
「"くねくね"です。草むらに現れる怪異で、全身が白い、それなりの大型、常に不規則な動きをしている、物理技が効かない、姿を見たヒトをいつまでも追いかける、コミュニケーション能力がある、などが特徴的ですね。」
それなりの大型でコミュニケーション能力がある...これはヒトの特徴と一致する。もしかして犯人は、変態密猟者の類いなのかだろうか。
「くねくねを見ると精神を犯され、廃人になるって書いてあるのです」
「ヤバイですね」
「噂と一致するわね」
「本当にコレがパークにいるなら、ゆっくりもしてられないわ」
「大丈夫、まだ"いる"とは言ってないのです。」
「ただ、新種のセルリアンの可能性がありますねぇ」
「イナリ神社案件かもなのです」
「イナリ?...」
助手はイナリ神社なるものを紹介してきた。
"イナリ神社"
キョウシュウちほーの守護ケモノ、オイナリサマが住んでいる神社。
最近建てられたばかりで知名度は低い。
オイナリサマはパークで有名な霊能力者で、
守護ケモノにしては珍しく何でも相談を聞いてくれる。
怪異については、博士や助手以上に詳しいので
この件については彼女に相談するのが得策だと助手は言う。
私はすぐに神社へ向かった。
神社に着いて出迎えてくれたのは黒いイエネコ、使い魔だろうか?
黒ネコを撫でて先に進むとわふーな建物が一軒、
オイナリサマと酢飯の匂いが漂ってくる。
神社は神聖な場所らしいので深く一礼してからオイナリサマを呼んだ。
「ごめんくださ~い」
「は~い、なんでしょう」
普通の返事である。
しばらくすると、オイナリサマが神社から姿を現した。
手には何故かいなり寿司が、まぁいつものことである。
「ハクトウワシさんじゃないですか!」
「初めて博士と助手以外のフレンズさんが来てくれました!」
どうやらこの神社、相当に過疎ってるようだ。
大丈夫か?この守護ケモノ、そう思いつつ、
私はここに来るまでの経緯を話した。
「白い影ね、私が小さい頃はよく田んぼで見れましたよ」
衝撃の事実、珍しい存在ではないらしい。
「あの頃の私は本州にいてね.......」
初めて聞く話だった。
オイナリサマは昔、本州という場所にいたようだ。
そこでは、先輩のキツネと一緒に異変解決やら畑の手伝いをしていた。
仕事中に先輩が何度も言っていたことがあるらしい。
「田んぼのくねくねした奴は見るな」
キツネの力でも退治できない妖怪がいると当時から話題になっていて、
不気味な動きをすることから”くねくね”と仲間内で呼んでいたそうだ。
最近はヒトの土地開発で住処を奪われて目撃数も減ってるらしいが...
「探すなら田んぼだけど...直接見るのは危ないですね」
「ですので、これをあげましょう」
そう言うと、いつもいなり寿司を出すポケットの反対からブツを出した。
出てきたのはメガネ、ギンギツネが付けてそうなぐるぐるメガネだ。
「とりあえずこれをかけて、この画像を見てください」
オイナリサマは"モザイクを貫通する男"の写真を取り出した。
どんな加工をしてもハッキリ見える男、
それを眼鏡越しに見ると輪郭がぼやけて見える。
このメガネ、写真の男の異常性を無効化したのだ。
「すごいでしょ、ギンギツネが作ったんですよ」
「ぐるぐるメガーネXって名前らしいですよ」
安心と安全のギンギツネ製、
白い影の生息地も分かって、これで安全に調査ができそうだ。
「ありがとうオイナリサマ、これでジャスティスできるわ」
「熱中症に気を付けてくださいね、今日は暑いですから」
「それと、見つけたら私に教えてくださいね」
「にゃー」
現在、だいたい3時くらい、野生のデータがそう言っている。
田んぼに到着、飼育員のタドコロとアライさんとフェネックが作業している。
「ハクトウワシの姉ちゃんじゃないか」
「何か探してる様子だねぇ、飼育員として協力しなきゃだねぇ」
「タドコロさん、最近変なもの見かけたりってしてない?」
目撃者がいるならと思ってタドコロに聞いてた、
その時である、アライさんが指をさして何か言った。
「アレはなんなのだ?動いているのだ」
「アライさん、どうしたのさ~」
「アライさん、確かに...何かあるねぇ」
そう言いながら指を刺した方向を見るタドコロ
ソレを見るなり、タドコロの顔はみるみる青くなっていく
「なんで....いるんだよ....」
「ここどこだと思ってんだよ....パークに....ええ!?」
「タドコロさん、一体何を...」
「だめだ!見るな!見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな」
大きめの声でタドコロは見ないように訴える。
その形相は威嚇するネコ科動物のような迫力がある。
「タドコロさんマズイのだ、大丈夫か?」
「もしかして白い影を見てしまったの?」
「知らない...知ろうとスルナ...わ、ワカラナイホウガイイ....」
それから、タドコロの目からは涙が溢れ、膝が震え、
くねくねと不思議な踊りを始めた。
ドジョウ掬いのような動きで、両手を頭の上で高速で動かしていた。
アライさんとフェネックはかなり恐怖を感じたらしく、
ダンゴムシみたいに丸まっていた。
直後、「ピーーーーー」と奇声を上げたタドコロ。
そのまま四つん這いになって森へ走り始めた。
明らかにヒトの早さじゃない、
私はアライさん達にここから逃げるよう促し、
タドコロを追いかけた。
しかし、森に入られてしまっては空から見つけるのは困難、
見失ってしまった。
私はすぐに仲間に連絡して応援を呼んだ。が、ダメ。
タドコロが帰ってくることはなかったという。
タドコロは犠牲になったのだ。
それからというもの、白い影の噂は聞かなくなった。
このことをオイナリサマに話すと、
「犠牲者が出たのは遺憾ですが...」
「不幸中の幸いってやつですね」
いなり寿司片手にそう言った。
守護ケモノの威厳とは...
結局アレの正体は分からなかった。
見ていたらあの飼育員みたいになっていたのだろうか。
「ジャスティスじゃないわね...」
いつもの日常が戻ってきた。
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