2話
学校に着いたとほぼ同時にチャイムが鳴った。
俺が入ってくると、教室がざわざわしていたが先生が来ると一気に静かになった。
そしてHRが終わって休み時間になった。
俺はいつも話していた人達がいる所には見向きもせずに、由紀さんの所に向かった。
「おはよう。由紀さん」
「う……ん…………」
俺が挨拶すると由紀はこっちを見て挨拶してくれた。本当に聞こえるか聞こえないかの絶妙な大きさだったけど。
「あっ! そうだ。一つ提案があったんだよ」
俺は由紀さんにそうやって言った。
昨日から考えてきている提案だ。
由紀さんは少しだけ、本当に少しだけだけど、キョトンとした顔をしていた。
「呼び方を変えたいなって。由紀さんじゃなくて、由紀って呼んだら駄目かな?」
「………いい、よ……」
「本当! なら良かった。俺の事は気軽に名前で呼んでほしいな」
「………」
由紀は首を縦に振って返事した。
少し無理やり過ぎるかもしれないけど、早めに呼び捨てで呼んだいた方がいい、俺の直感がそう言った気がするのだ。
その後、もうすぐ授業が始まりそうなので席に帰ろうとすると、一人の男に話しかけられた。
「裕也から聞いたよ。『裏切り者』め。もうクラスのほとんどがこの雰囲気だから話しかけてくんなよ」
少し前まで一緒に話していた、
圭司は言うだけ言うと席に戻って行った。
そこでは「ジャンケンに負けたの最悪だよ」などと元気そうな会話が聞こえてきた。
そして、この日はその後大きな出来事を迎えることもなく終わった。
***
「おはよー。由紀」
「…………おはよう」
付き合い始めてから数週間が経った。
喋るのは俺からばかりで由紀の話は全然聞けてない。
それでも由紀と居るとなんだか落ち着くし、楽しい。
でも由紀が楽しんでいるかわからないのは中々辛い。どうにかして笑顔にできたら良いんだけど。
そんなことを思いながら登校していると、周りでコソコソと話し声が聞こえてきた。
「(おい、見ろよ)」
「(あっ、裏切り者とロボじゃねえか)」
わざと聞こえるように話しているのだろう。顔を近づけながら話しているのに大きな声で話している。
最近こんな風に陰口をされているのをよく聞く。見えていたら陰口じゃないかも知れないけど。
原因は多分俺だ。由紀と付き合うまではあいつらと一緒に話していた。
でも、由紀——あいつらで言う「ロボ」と付き合い始めてから少しずつ避けられるようになった。
そして最近ではあんな風に悪口を吐かれる様にもなった。
でも俺は気にしてない。確かにこうやって避けられるのは悲しいけどいつかわかってもらえると思う。それまで気長に待つ。それが俺の役割だと思う。
***
学校の休み時間。
友達と話す人や、さっきの授業で出た宿題をしている人もいる。
そんな中俺は一人の女子の席へと向かう。
「由紀。さっきの授業分かった?」
「……何と、なくは」
俺の問いに対して、由紀は一言そう言って、こくんと首を縦に振った。
「そっかー。じゃあ今度教えてもらおうかな」
「……う、ん。いいよ……」
「本当か! 楽しみだなー」
由紀の席に向かっては、そんな他愛のない話をしている。
俺ばっかり話している様に見えるかも知れないけど、これでも成長した方だ。
付き合って最初の頃は首を振ったりして答えてただけだったからな。
そんなことを思っていると由紀から話しかけてきた……。
「私と居て……楽しい……?」
「えっ! ああ、もちろん楽しいぞ」
由紀から話しかける事なんて滅多にないので驚いたが、直ぐに由紀の問いに対して素直に返した。
「そう……なんだ……」
由紀はどこか安心した様な様子でそう呟いた。
その後もいろんな話をして次の授業が始まる前の予鈴がなった。次の授業は数学で三角定規を使う予定だ。
その為三角定規を出そうと……
「あれ? ない……」
思わず声が出てしまった。
確かに朝入れたと思ったんだけどな。
俺はしょうがないと思い素直に先生のところに行った。幸い忘れ物はほとんどしたことがなかった為、そこまで怒られなかった。
***
「由紀ー。帰ろー」
「……うん」
俺は授業が全て終わると由紀の所に向かった。これはいつもの日課の様になっている。
そして由紀も早々に帰る準備をして席を立った。
「——それでさ、三角定規が無かったから渋々先生のところに行ったんだよ」
「……そうなんだ……」
「まあでも、全然怒られなかったからまだ良かったんだけど」
「良かった……ね」
下校中、今日あったことを話していた。
心なしか前よりは由紀と喋れている気がする。
由紀も多少は心を開いてくれたって事なのかな? そうだと嬉しいけど。
でももっと話せるようになるにはどうしたら良いのかな。……そうだ!
いい事を思いついた。
「なあ。由紀。急なんだけどさ今週末デートに行かない?」
「……えっ……」
「何か予定があるならいいんだけど」
「…………」
由紀は少し考える様な仕草をした後、
「行く……」
由紀はそう静かに答えた。
空は赤い夕焼けだった為、由紀が頬を染めている様に見えた。
「ロボ」とあだ名をつけられている俺の彼女。 鳴子 @byMOZUKU
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