「ロボ」とあだ名をつけられている俺の彼女。

鳴子

1話

 誠哉は萎縮した。


 ……そんな某文学小説のような始まり方をしても、今の気持ちを落ち着かせることは出来るはずもなく、俺——岡崎誠哉おかざきせいやはガチガチに緊張していた。


 その緊張していた理由は目の前に居る女の子にある。

 メガネをかけており、服装は校則を完璧に守っているそんな女の子だ。

 周りには誰もいない状況、そんな中で俺と彼女は面と向かって立ち会っていた。


「あ、あのさ……」


 俺は意を決して彼女に告白しようと言葉をかけたその時だった。俺を応援するかの様に追い風が吹いた。彼女の真っ黒で長い髪がなびくほどとても強い風だった。   


 それによって勇気づけられた俺は


「由紀さん、——いや常盤由紀ときわゆきさん。俺と付き合ってください!」


 流れる様にその言葉を発した。

 彼女——常盤由紀はその言葉に対して俯きながら


「…………」

 

 由紀の声はほとんど聞こえなかったけど、口は「うん」という風に動いていたし、こくりと頭を下に動かした事によって成功したんだと実感した。


 こうして俺たちは付き合うこととなった。



***



 俺と由紀さんとの出会いは今から約半年前だった。

 二年生になり高校生活にも慣れてきた頃、同じクラスにいた女子の中の一人が由紀だった。

 由紀さんは誰とも喋らず一人、教室の端で本を読んでいる様な静かな女子だった。

 最初はまるっきり接点がなかった。でも、ずっと気になっていた。

 なぜかと言うと、由紀さんのあだ名が「ロボ」だったことだ。

 あだ名がついた理由は単純だった。表情が殆ど変わらず無口だからと言う理由だった。一年の時につけられたらしい。

 俺は皆んなが笑っている姿を見るのが好きだ。でも、由紀さんだけはずっと無表情だった。

 だから俺は決めたんだ。絶対に笑わせてやるって。

 そうやって絡んでいるうちにいつの間にか好きになっていた。

 ——でも由紀さんの笑っている姿は一度もまだ見れていない……。



***



 告白の次の日。

 いきなり一緒に学校に行くのは速いと思ったため、今日は別々で学校に行った。

 直ぐに一緒に行ける様にしてやる。そう思っていると後ろから、肩を叩かれた。そしてその後


「よう! 元気か?」

 

 と、聞き覚えのある声が聞こえたので、俺は後ろに振り向いた。


「元気だよ。でもお前ほど元気ではないけどな。裕也ゆうや

「そうか! いつも通りだな!」


 もうわかると思うが裕也とはさっき肩を叩いてきた男の名前だ。

 そして俺たちは一緒に学校に行くことになった。まあ途中で会ったら行かない理由がないよな。


「誠哉さ、最近なんかノリ悪いよな」


 一緒に学校行っている途中いきなりそんなことを言われた。


「そうか? 別に普通だと——」

「だってお前最近授業が終わると直ぐにあの『ロボ』のところに行くじゃねえか」


 俺が否定しようとすると、裕也はそれを許さないかの様に言葉を被せてきた。


「その『ロボ』ってあだ名辞めないか?」

「どうしてだ?」

「由紀さんも嫌がるかもしれないし……」


 俺がそう言うと、裕也声を出して笑った。


「お前、嫌がると思ってたの? ははっ、『ロボ』に感情なんてないんだから嫌がるわけないだろ。お前やっぱり笑わす天才だわ」


 そんな事を言うと、裕也は「ふう」と息を整えていた。

 俺は流石に許せないと思った。由紀さんだって人なのに何でこんな事を言われなければならないのか。


「おい。裕也。それは流石に言い過ぎじゃないか」


 俺は我慢できずに怒りを込めた言葉を裕也に言った。


「はぁ……。お前何キレてんの。もしかして『ロボ』のことが好きなのかよ」


 裕也は呆れた様にそう言った。ここまでいったらもう隠す必要はない。

 こいつに俺と由紀さんとの関係を言ってやることにした。


「ああ、好きだよ。何しろ俺たちは恋人だからな」


 その発言を聞いた裕也は大きく目を見開いた後、見下す様な目でこちらを見てきた。


「お前には幻滅したよ。もう話しかけてくんな。『裏切り者』」


 そう言うと裕也は俺から離れるかの様に、急いで学校に向かっていた。

 俺は少し呆けていたが直ぐに気をを取り戻した。


(なんだよ、裏切り者って。そんなに由紀さん仲良くしたら駄目なのかよ)

 

 そう思いながらも学校に遅刻しそうだった為、学校に向かって走った。

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