第28話 「それでも絶対に許せない教育が二つだけある」
「教師によって矜持など人それぞれでしょう。中には先祖代々からの誇り高い伝統的魔術を継ぐ魔術師もいる。帝国とは何か、愛国心に満ちた使命を語りたい人間もいる。どれも一長一短だ。話した感じ彼らには彼らなりの教育論がありそうなんで、そんな人達相手に僕如きが教育論を翳しても響かないでしょうから黙っていますが、それでも絶対に許せない教育が二つだけある」
相手は公爵だ。でも知らない。
相手は自分の兄だ。でも知らない。
相手はこの帝国で指を数える程しかいない、間もなく公爵となる家の人間だ。メルト如き人間など簡単に踏みつぶせる。でも知らない。
そんなものは、メルトにとっては些細な事でしかない。
きっとツクシなら、権力なんてものを鼻で笑う事だろう。
「その教育とは、“生徒を傷つける”教育と、“支配する”教育だ」
「……その前に、この手を放せい愚か者!」
グローリーの右手に赤い魔法陣。
直接灼熱の拳を当てる気だろう。
「
その灼熱がメルトの腕に到達する前に、逆に放してやった。
ただし重力の向きが変わったように、グローリーの体は横に落ちて、黒板に磔になる。
全身が叩きつけられる音。だがまだ喋れるくらいの元気はあるようだ。
「これは……インベーダの魔術……貴様……インベーダに魂を売ったのか!」
グローリー如きに宇宙が理解できるとは思わないから説明は省く。
疑われたままなら、疑われたままでいい。
「あんたさっき何しようとした。こんな教室に閉じ込めて、フクリに服を脱がせて、それから何をしようとした」
「お前には関係ない話だ……!」
「あ?」
一点だけ重力の強さが途方もなく強くなる。
未だ素知らぬ顔をしていたグローリーの顔が突如酷く苦しんだ顔になる。
「やめろ……今……俺の股間を……」
「ふざけた事言う様なら、ここであんたの金玉は潰す……だが生徒の手前だ。実力行使は控えたい」
「……」
流石に何を返す気力も無くなったのか、押し黙り始めたグローリー。
話の続きをメルトが語る。
「異性の生徒の服を脱がせて、乱交でもしようと思ったか。それが一体どれだけ身も心もズタズタにする行為なのか、あんた分かってんのか? 女性にとって、それが死にだってつながるような心の傷に繋がると、どうして想像できないんだ!! 唇を噛み締める程に、怖くて竦んで恐れる行為を、どうして生徒に強要出来るんだ。それが“傷つける”教育だと言っているんだ!」
「……メルト先生」
ミモザが自分を呼ぶ声が聞こえたが、特にフクリに変わった様子はない。
いつも見せているメルトと違う背中に何か思う所でもあったのだろうか。
だがメルトは止めない。
実力行使は生徒にとっては目に毒だが、せめてこの男に最低限いうべきことを言うまでは。
「相手の立場に立って物事を考える。スカートを捲られたら、服を脱がされたら、性器が晒されたらどんな思いをするか、その程度の事も思いつかないのか!! あの父親にその辺教育されなかったのか。エリートだけの魔術学院は、そんな事前提に授業を進めるから教えてくれなかったとでも言う気か!? ふざけるんじゃない!!」
「……ぐっ」
「ましてやそうやって傷つけるばかりか、自分の思う様にしか動けない様に支配する! 教える立場を支配する立場と勘違いし、生徒から自由を奪い、思考を奪い、未来を奪う。一生フクリを自分無しでは生きていけなくする! 性行為をした事実で一生雁字搦めにする……。教師が一番やってはいけない行為だ!!」
再び重力の突風。
グローリーの体が教壇から弾き飛ばされ、扉まで転がっていく。
「貴様一体……どこでこんな力を」
一切響いていないようだ。
別に説得する気もない。ただこの男の毒牙に、生徒を巻き込みたくない。
メルトの頭にあるのはそれだけだ。
「お前に教師の資格はない。後でプトレマイオス先生に直談判するとするよ……ミモザの入学撤回の撤回と、あんたを教師の座から引きずりおろす様にな……」
「……はん、やれるものならやってみろ」
不敵な笑みを浮かべながら、立ち上がるグローリーは扉の鍵を開ける。
「ハーデルリッヒ一族は一番の出資元だ! この学院の創設に一番貢献したのは我がハーデルリッヒ一族だ! 俺がここにいるのもそういう意味だ! その事実を無視して、プトレマイオス先生を説き伏せられるものならなぁ!」
ガン! と扉を閉まる音。
最後に置いていった台詞を、メルトは鼻で笑う。
「何がハーデルリッヒ一族だ……昔から自分達の事しか考えず、子供も切り捨てるような一族が教育大臣だと? 笑わせてくれる……」
銀河魔術の先生~天の光は全て教室~ かずなし のなめ@「AI転生」2巻発売中 @nonumbernoname0
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