第1話 エグリゴリの悪魔

テンプル騎士団所属第一位 キュース=アルベルトは、頭痛に悶え苦しんでいた。


「キュース。今、何て言った?良く聞こえなかったんだが?」


「総統。現状、俺達にはあの化け物を倒す方法は存在しないと言ってるんです」


頭の痛みを悟られない様に、出来るだけしかめ面にならないように振る舞うキュース。総統が目線を外した時にこっそり、こめかみを撫でる。


「馬鹿な事を言うんじゃない。オカルトや異形の類いを始末するのが、お前らテンプル騎士団の役割だろうが」


そう言いながら、SHUGARと書かれたポットから取り出した角砂糖を紅茶へポチャリと落とす。


「まぁ、こちらとしては、得体の知れない奴の手を借りるくらいなら近代兵器で対処したい所だが、安全保障上の問題でな…今の時期に派手にドンパチする訳にもいかんのだ。分かるか?」


クルクルと角砂糖をスプーンで溶かして満足げに、紅茶を飲み干す。


キュースは、頭をさすりながら、いつもの言葉を返す。


「…なんとかしますよ。なんとか」


「おお。そう言ってくれると思っていた。

解決出来たら良い店があるんだ。一杯やろうじゃないか」


十十十


「なんとかじゃなーーい!何でそこで戻って来ちゃうかなこの◯◯◯ヤロー!」


テンプル騎士団本部に戻ったキュースを待っていたのは、同僚リディからの心温まる罵倒だった。


「まぁまぁ、リディ。下品ですよ。落ち着いて下さい。周りの人がビックリしてるじゃないですか。あ。うちの子が煩くしてすみません」


ニッコリそう言うと、震える手で眼鏡もとい、顔を抑えているのは、ニコール。


「権力に逆らえないというのは、それとしても。ここに帰って来たということは、対策は考えてあるんですよね?」


「総統にも言った事なんだが…あの化け物には俺達が使っている誓約が効かない。

誓約の強度が最も高い俺が一度失敗してるからな」


いてててと、こめかみを抑えるキュース。


「遠隔操作の誓約はある程度なら距離をとっていても全く効かないということはこれまでに前例が無かったんだ」


「ん?それって、どういうこと?何で今回は効かないの?」


「まぁ、待てリディ。今話す。これはあくまでも仮説なんだが……」


「どんな魔であろうと性質上、因果に干渉する誓約からは逃れることは出来ない。だが、残念なことに、一つだけ例外がある。誓約を持つ者には誓約をかけることはできないということだ」


「それは……」


絶句するニコール。


「この中に裏切り者がいるってことかしら?」


「マリア。聞いていたのですか」


「聞いてちゃ悪い?むしろ、同じチームの面子が揃う前に話し始めちゃうなんて、こんなのがウチのリーダーだなんてね」


「よく言うよ、単独行動ばっかしするくせにさぁ。どうせ、わざと遅れてきたんでしょ」


「何よ。やるなら手加減しないわよ?」


火花を散らし始めるリディとマリア。


「はいはい。二人ともそこまでにしましょう。それにウチのリーダーさんからもまだ話の途中だっていう顔をしてますし」

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Distorted World 黒鳥 @regadex

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