今日も私は息をする
@yamag58446
今日も私は息をする
ごく稀に、自分の人生が途端に馬鹿らしく思えることがある。今がまさにそれだ。その時期になると、中身のない映画を見せられているような、なんとも言えない虚無感に襲われる。自分の人生がまるで違う視点から見えるのだ。上から見下し、軽蔑しているように。
「まるで幽体離脱…みたい。」
ポツリと呟くが、部屋の重苦しい静けさがその言葉に覆いかぶさる。窓の外を見るともうとっくに明るくなっていた。
「明美、いい加減起きなって。一限目遅れるよ!」
下から姉の声が聞こえてくる。一つ大きな深呼吸をし、私は勢いよく起き上がった。
階段を降りると、せっせと支度をしている姉の姿があった。
「あ、やっと起きた。ったくもう、何回も呼んでんのにいつまでたっても起きてこないんだから。」
「へいへい。すいませんね、毎日毎日。」
適当に返事をすると、しっかりしてよ、と随分呆れられた。テーブルに座って用意されてあるパンを一口かじった。まだ温かく、バターとはちみつの甘じょっぱい風味がじゅわりと口いっぱいに広がった。あー、美味しい。この後はどうしようか。そういえば一限目はわりと大事な授業だったな。あ、昼過ぎに久美子と昼ご飯の約束もしてた。そういえばレポートもそろそろ仕上げないといけないな。
そこで、私はパンを置いた。
何かが吹っ切れた。
馬鹿らしい。なにをしてるんだろう、私は。自分の人生を上から見下すもう一人の私が、脳内で囁くのだ。なんていう人生だ、と。もっとすることがあるだろう。それなのになんだ、今の自分は。いい単位を取れるように、いい会社に入れるように、まるで機械みたいに勉強して。その後もきっと機械みたいに働いて、冴えないおじさんと結婚して、いつか私も冴えないおばさんになるのだろう。一体なんのための人生なんだ。こんなことがしたくてこの世に生まれてきたわけじゃないはずなのに。なんでこんなにも無駄な人生を送ってるんだ。
こんな人生しか送れない自分を、私は軽蔑する。私は毎日、自分を騙しているのだ。充実した人生を送っている、と自分にいいかせている。これこそが幸せなのだと。これが普通なのだと。そして、自分を騙していることに気づかないふりをして毎日、「今」を生きている。だが、ふと冷静になると、とんでもなく意味のない人生だな、と思ってしまうのだ。だから私は立ち止まらない。冷静になってしまうと、何かを壊してしまいそうで。自分だけ型からつき破れたときのことを考えると、怖くて怖くてたまらないから、毎日型に納まるように生きているのだ。毎日、自分に騙されている自分のことに気づいてないふりをして、普通に生きているのだ。もうとっくに気づいているのに。それなのに、やっぱり。
今日も私は息をする。
今日も私は息をする @yamag58446
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます