「ルビーの涙」の感想

 「ハイブローなもの」を書く、と認識されている私だが、今回はストレートに分り易い「お話」を目指した。

 いや、普段もそんな衒学的で知識を鼻に掛けるスノビッシュな物を書いて居るつもりは(少なくとも私には)無く、「お話」としては割とストレートに書いているつもりなのだが、コンテストのお題から自作のテーマに落とし込むときや、そのプロットに練り込む際に捻りを加えたり、様式自体に一手間加える様な作り方をする所為でそう云う印象を与えてしまうのだろう、と反省し、今回は構造は簡単にして装飾部分だけ弄る事にした。

 その結果、「散文詩的一人称視点物語」と云う形になったのだが、これが「テクニカル」と評されたのは、意外であった。


 そこで、今回は「何故『散文詩的一人称視点物語』を書こうと思ったのか」だけ述べたいと思う。


 そもそもは、今回のイトリ川のお題である「たった一つの望み」がその出発点であった。


「なるほど『たった一つの望み』か。それは『絶望的状況の中での一発逆転を成し得る『最後の望み』』なのであろうか?或は『それが叶いさえすれば全てが上手くいくと思える『唯一の望み』』も可能であるな」


 そんな事をつらつらと考え、組み合わせパターンの表を作っている時に思いついたのが、「本人はそれが『たった一つの望み』と勘違いしているが、実はそれは『別の望み』の反転であった」と云うパターンであった。


 そして、今回のモデルにもなり、正に上述のパターンとして私が思い描いたのは、『星の王子さま』に出て来る「王子さまのバラ」であった。

 このバラは、実にワガママで、高慢ちき、自分の美しさを鼻にかけているのだが、実は王子さまの事が大好きで、大好きな王子さまに「私がいる事で、どれだけあなたの人生が豊かになるか」を実感して欲しい一心で動いているバラなのである。

 王子さまは、普段バオバブに浸食されるばかりで彩りの無い自分の星の唯一の楽しみとしてこのバラを大切にしつつ、このバラの手間の掛かる事に辟易もしている。

 このバラと王子さまの「互いを思いやっているのに、それが自分を中心に出てしまう」と云う行き違いの関係が良いな、と想いつき、そこから如何に表すかを考え始めたのである。


 絵本にしてもいい様な、歌う様な語り口で、しかし自分の価値観からしか見えず、ディスコミュニケイションの生じる、主観的で、彩りに溢れ、それでいて寂しい「視点」。

 上を表すのに、今回の「散文詩的一人称視点」は実にぴったりだったのである。

 例えば、サウンド・ホライズンの「檻の中の遊戯」、それもナレーションの無い状態を思い浮かべて頂ければ、それが如何に作用するか想像し易いかと思う。


 こうして「ロンドやミュゼットの様な雰囲気とリズム」が決まると、後は早い、と思ったのだが、これが逆に大変でもあった。


 慥かに、求められる語数は少ない。

 寧ろ多くてはリズムやテンポを損なう。

 しかし、詩文的に様式化され、そこに主観者、それも鉱物であるルビーの視点や価値観からのみ状況を述べなければならない。

 しかも、視覚的にも音的にも意味の上でも響き合う様に注意して。


 そこから先は、プロットから各章毎の文章的色や温度を当て、物語はその雰囲気に語らせる事にし、装飾上での宝石や金属の意味内容は、西洋占星術や錬金術的意味、視覚的歴史的印象も加味しながらそれに合った単語も選ぶ、と云う、文章を書くより図鑑や辞書とにらめっこしていた時間の方が長い可能性も充分にある執筆状況となった。

(それに加えてエアコンの不調から、今年の文字通り殺人的酷暑との闘いにも勝利を納める必要が有った)


 今回は福音書等からの援用や寓意は基本的に無く(一部ダンテの『神曲』からイメージソースにはしているが)、部分的に仏教的観点を取入れつつ、特殊な知識が無くても分る様な、キラキラしたお話を目指した。


 もし、『ルビーの涙』を御読みになられた方の内面に、宝石箱をひっくり返した様なきらめきが見られたのなら、幸いである。


 以上、ざっとではあるが、今回の作者自身による自作への誤読を前提とした所感である。


 それでは、貴方の「たった一つの望み」が叶いますように。さようならオルヴォワール

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これは解説ではない @Pz5

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