第10話 學幸
俺が幸の素性を知っている事を伝えて数十分経ったが、幸は未だに無言のまま。
もう辺りは真っ暗で公園にひとつだけある電灯が俺らの足元を照らす。
俺はその間ずっと幸の腕を掴んだまま離さなかった。
この手を離した途端きっと幸はいなくなる。そう思った。
幸「…逃げないよ。」
學「話を聞いたら離す。」
幸はため息をついて、少し口角を上げ目を潤ませながら俺を横目で見て、
幸「僕の唯一記憶に残ってる絵なんだよ。」
と言って、下を俯く。
學「…いつの?」
幸「家族と一緒に暮らしていた時に玄関に飾られてあった絵を探してるんだ。」
探してるってことは今日の絵も違ったのか…?
幸「あの絵はネットでは呪われた絵って言われてた。でも父さんはその事を知らずに玄関に飾ってた。」
學「呪われた…?」
幸「飾っている場で人が死ぬんだって。病死も殺人も放火もなんだって起きるらしいよ。そんな絵なんか無くなれば良いのにね。」
學「なんで幸はその絵を探してるんだよ。」
幸「家族との思い出が唯一残ってる絵だからね。呪われてようがなんだろうが、もう一度目にしたいんだ。」
學「でも呪われるんだろ?死ぬかもしれない。」
幸「うん、だから僕がその絵を破壊する。」
學「それはそれで呪われそうだけど。」
幸「いいんだよ。不幸の連鎖が無くなれば。」
學「でもなんで、いろんな絵を盗ってるんだ?記憶の残ってるんだろ?」
幸「記憶に残ってるって言っても、女性と子供がいたっていうアバウトな記憶なんだ。
僕の家族が殺された時のショックでそれまでの記憶が吹っ飛んだ。
ネットでもその画像を載せたら呪われるって言ってる見た事ないんだ。」
學「…そうだったのか。」
幸「もういい?…会えなくなっちゃうから、學にはバレたくなかったよ。」
ボソッと、幸が呟く。
學「なんで会えなくなるんだよ。」
幸「盗みは犯罪だよ?どんなに悪い奴から盗っても盗みは盗み。警察に連絡するでしょ?」
…まあ、そうだよな。
犯罪をしてるから、ラトローを捕まえるために俺は動いてた。
學「…ん。」
幸「え?」
學「ううん。今はしないよ。」
幸「今は?」
學「うん。俺も手伝うからその絵を見つけよう。」
幸「…やめときなよ。僕たちただの友達だったもの同士なだけだから。」
學「だったじゃない。今もだよ。俺は幸の友達。ラトローの相棒になる。」
幸「そういうのは夢の中だけにしといて。學も呪いで死んじゃうかもしれないんだよ?」
學「その時はその時。俺、呪いとか信じてないからなんとかなるよ。」
幸「…嫌だよ。これ以上僕の大切な人がいなくなるのは嫌だ。」
學「俺も幸が1人で死んでしまうかもしれないのに、ほっとけない。」
そのまま幸は黙り込んでしまった。
學「俺、一応探偵だから調べ物は得意なんだよ。だから手伝わせてくれ。もう1人で生きようとしないでくれ。俺がいる。」
幸が目を瞑りながら下を向く。
何か考えている様子。
幸「大学は?」
學「まだ合格発表はされてないけど、自己採点は合格ライン。」
幸「…そう。」
學「でも、年の半分は休みだから手伝える。幸が拒否しても俺が勝手に探すよ?」
幸が目を開き、前髪の隙間から俺を見る。
幸「もう、脅しじゃん。」
學「決定?」
幸「…分かったよ。」
學「よし!これから共犯同士よろしくな。」
俺は幸の腕を離し、握手を求める。
その手に幸が手を重ねて握る。
ラトロー改め、幸。
これから幸の人生がどう動くかわからないけれど、
その絵からの呪縛から解けられるように俺頑張るよ。
これからもよろしくな。
ラトローの本心 環流 虹向 @arasujigram
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