第9話 公園で

俺は地元の直送牛乳屋さんでコーヒー牛乳を2つ買って、待ち合わせの誰も寄り付かない日陰の公園いる。


俺は梅の木の囲いの上に腰掛けて、ラトローを待つ。


人通りが少なくなった夕方に、この公園に走ってくる足音が1つ。


「…お待たせ。話って?」


少し息を切らしてきた幸。


幸はあの大きいリュックを背負っていた人と同じ、

羽根つきフードのコートを着ていた。


學「これ。美味しいやつ。」


俺は瓶に入ったコーヒー牛乳を幸に渡す。


幸「…ありがとう。」


幸が受け取り、俺の隣に腰をかけた。


幸「ごめん、この後用事が…」


學「何で、あの個展に行ったんだ?」


幸がその言葉を聞いた瞬間、目を見開く。


幸「こ。個展…?」


とぼけないでくれ。


學「無名の名画たちっていう個展をやってるビルから幸が出てきた所見たんだ。」


幸「あ…、あー…!ちょっと気になった絵があって。」


學「その絵は女性が子供を抱き上げて見上げてる絵だよな?」


幸「…そんなのもあったねー。」


學「あの絵は、幸の何なんだ?どうして…」


俺が質問しようとした瞬間、立ち上がろうとしたので手を掴み逃げないようにする。


學「俺は、幸が…ラトローが無意味に女性と子供が描かれてる絵を盗んでいるとは思えない。

それに盗んでもその絵を寄付してしまうと言うことは金目的でやってる訳ではない。

なんでなんだ?教えてくれよ。」


幸「ラトロー…って誰かな。コーヒー牛乳ありがとう。そろそろ行かないと、バイトが…」


學「幸、バイトも家も家族もいないだろ。なんで嘘つくんだよ。」


幸「…。」


事務所のみんなに幸の事を調べてもらった。


天充 たかみち こうは、6歳の時一家惨殺事件の生き残り。

中学を卒業直後、施設から脱走。

幸のそれまでの知り合いは、消息をつかめていなかった。

食べていく金は、デート相手に貢いでもらってる。

その人たちが幸を高校生とは知らず、関わりを持っていたという。

幸はその人たちの家を渡って、シャワーやご飯を食べていた。


それを俺は三年間も隣にいたのに、気づいてあげられなかった。


気づく要素はあったんだ。

よく変わるシャンプーの匂い、

二日同じところにシミがあるTシャツ、

栄養面に偏りのある食事、

それはただの幸の性格上の物だと思ってた。


けど、事実を知った時俺はいてもたってもいられなくてまずは美味しいと思える物を口に入れて、少しでも幸福になって欲しかった。


盗みはいけない事だって分かってるから、

家に入れてもらってたんだろ?

なのに何で絵なんか盗ってるんだよ。


教えてくれよ、幸。

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