放課後会議

 放課後になり、すぐさま光葵が話の続きを始める。

 話は盛り上がり集合場所が光葵の家の前になったところで亮が教室に来た。


「時間は夕方ぐらいがいいね。明るすぎても駄目だし、暗い中集まるよりはなにかあったときの為に早めくらいが丁度いいと思う」

「賛成だ」

「亮くんもそれでいいかな」

「了解。なに持って行けばいいとかある?」

「いや、特には。やりたい花火があれば自分で持ってくるくらいだな」

「じゃあぼくロケット持ってきていい?」

「いいわけないだろ。せめて設置型にしろ」


 冗談だよと当の本人は笑っているが、目が本気の色をしていたので許可されたら持って行く気はありそうでこちらとしては全然笑えない。


「その後はなにするとかは……」

「決めてないというか解散になるみたいだ。光葵の家で遊ぶことも考えたらしいがこの人数で押し掛けるのは流石にな」

「ぼくもそう思う。なら解散になるんだ、わかったよ」


「それじゃあ週末に」と光葵に伝えて教室を後にする。

 電車の中では扉の隅に三人で固まってまだ花火の話題が途切れることはなく続いている。



「今週末はあと三日後だよね。天野と透夜はいつにあっちに行く?」

「俺はとりあえず15時には家を出る」

「わ、私もそれくらいに出ようと思っています」

「そっかぁ……そうなるとぼくは15時半の電車で行けば電車で会えるね」

「そうなるな」

「でも天野はひとりになっちゃうけど……」

「そのことなら俺が駅で待ってるから大丈夫だ」


 本当は駅で待つ必要はなく、お隣なのですぐ会える。

 それでも、素直に伝えるのは何処か恥ずかしくてはぐらかしてしまった。


「あ、駅着いた。それじゃあまた三日後に」

「学校は明日もあるだろ」

「そっか、じゃあまた明日」

「気を付けろよな」


 よく通る道でも今日の亮は心配したくなるくらいには危なっかしい態度だったので、お世辞ていどに注意をして送り出した。


「透夜は花火楽しみですか?」

「いきなりで驚いたけど、あまり花火はしたことないから楽しみだよ」

「私もです。なんの花火を持って行くか迷ってしまいます」

「とりあえず花火のセットを買う予定だから最悪香織は手ぶらでも大丈夫だ」

「いえ、私もなにか持って行かないと失礼ですので。なにか欲しい花火がありましたら買いに行きます」

「それは俺が悪いって……なら今から少し寄りたい場所があるんだがいいか」

「どこですか?」


 透夜がスマホを取り出して地図を香織に示す。

 放課後になって直斗からおすすめの近場の花火屋を教えてもらっていた。

 そこではばら売りで花火が売られていて、セットを買う分にはスーパーのコーナーに置いてあるものでも充分だが、色々な種類となると専門の店に行った方がいいということらしい。

 了解の意で香織が頷いたのを確認して地図の経路案内を押す。

 駅から降りて二十分で目的地に着いた。

 店内はそこそこ古びてはいるものの、大きな設置型の花火から線香花火まで様々な種類が置かれていた。


「なにか決まってるかね」


 店の奥から店長らしき人が低音の声を響かせながら出てきた。

 首を横に振り、あまり花火をやったことがないことを伝える。


「それならこの線香花火がいい。誰でも出来て、普通の線香花火より火球が大きいぞ」

「激しく火花が飛び散る手持ち花火よりですか」

「まぁそれもあるが、バチバチと音を立てるよりお主らはどちらかというとひっそりしている方が似合うと思ったんでの。花火は音や色で楽しむものだが、ゆっくりと終わりを楽しむ線香花火も良いものだ」


 確かに、空で放たれる爆音や、多彩な色の組み合わせを楽しむのは知っている。

 それでも、ゆっくりと終わりを楽しむという意味がわからず首を傾げるしかなかった。

 どういうことかと唸っていると間に割って入って香織が口を開く。


「哀愁みたいなものですね」

「このお兄ちゃんよりお嬢さんの方がよくお分かりでの。今ならおまけで二本付けたる」

「本当ですか、ありがとうございます」


 まいどありという声を背に店を出て行った。


「香織は線香花火の良さがわかるのか」

「はい。よく庭でこっそりやっていました。見つかると怒られてしまいますから」

「庭でやりたくても燃えたら怖いからか」

「正確には庭を壊さないで欲しい、です。私はあまり関係ありませんね」


 香織が自嘲気味で笑う顔は夜に近づきつつある中でも、はっきりと暗い顔になっているとわかった。


「それで。庭の隅で隠れてやっていた……と」

「そんなところですね。中学の同級生が手伝ってくれましたので、なんとか誤魔化すことはできました。バケツの水面の上でやると反射で映って、ぱちぱちとしている姿が星みたいでとてもいいんです」

「なるほどな。それは少し楽しみかもしれない」

「週末までの辛抱ですよ」

「そうだな」


 香織の隣を歩いていた足が急に止まる。

 はぁと地面に向けてため息を吐く。

 間に入られた時、香織のにおいが鼻腔をくすぐり、鼓動が異常に早くなったのを感じた。

 香織を意識している自分がいるような感覚がある。


「俺は……」


 まさかなと思い、首を横に振って思考をかき消した。

 そうなったら香織とはもう一緒にいられなくなってしまうから。












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