合流
7月に入ってから屋上で食べることがあまりなくなり、蔑ろになりそうだった亮とお昼が食べたくなったので、今日は屋上でお弁当を広げる。
炎天下ともいえるくらいの暑さの中で食べる弁当は……流石に無理があった。
堪らず屋上を後にして、廊下へ出る。
日差しがないだけの違いなのに廊下を通り抜ける風が汗を乾かして涼しくしてくれた。
「暑すぎる……」
「これどうしようか。我慢して外で食べると脱水症状まっしぐら待ったなしだね」
「どうしようといっても選択肢があるとすれば」
「教室で食べるくらいじゃないでしょうか」
「そうだよな」
あとは図書室の前にあるベンチもあったが、もう時間も時間なので別の人が使っている可能性が大いにある。
そうなるとやはり、香織が示した案しか思いつかない。
教室を廊下から覗いてみると、光葵と直斗が透夜と香織の席の前で喋りながら食べている。
座るところは空いている椅子を持ってきてもらうとして、問題は後ろで食べて邪魔にならないかどうかだ。
知らない人が居ると少なからず食べにくいと感じる人はいる。
どちらとも面識のある透夜と香織は大丈夫でも、亮はそうではないので心配になる。
「知らない人が近くに居るが、大丈夫か」
「ぼくは大丈夫だよ。あんまり気にしないし」
「そうか……となると」
光葵と直斗が許してくれるかどうかになる。
光葵はきっと杞憂で終わるだろうが、直斗がどうなるかはわからない。
光葵に付き合った結果として透夜と香織に接触したから仲良くなったけど、亮は別と言われてもあまりおかしくない。
「屋上で食べるには厳しくてここで食べてもいいか」
「全然いいふぉ。まらいっふぉにはへられるのふれふぃ」
「口の中食べ終わってから喋ってください。何言ってるのかわからないですよ」
「また一緒に食べられるから嬉しいだよな?」
うんうんと激しく頷くのに対し、直斗はそれで伝わっていることに若干引いていた。
「俺の友達も一緒なんだが直斗も大丈夫か?」
「はい、むしろこのまま屋上へ向かっていたことが心配だったので怖い人以外なら問題ありません」
「怖いというより陽気……かな、あれは」
廊下にいる亮に向けて、指をさす。
あれなら大丈夫ですと直斗から許可を無事もらえたので、廊下で待っていた二人を呼んだ。
「こんにちは、緑川亮です。よろしくね」
「初めまして! 古畑光葵です。こっちが樋口直人だよ!」
「直斗です。こちらこそよろしく」
案外すんなり受け入れてもらえたようでほっと溜息が出た。
亮が知りもしない赤の他人を嫌う性格ではないと知ってはいても、初対面の場に待ち合わせている透夜は緊張していた。
近くに空いていた席をひとつ借りてきた亮が透夜の机の横に陣取り座る。
透夜は弁当箱を縦に広げて、上手く狭いスペースを埋めた。
狭くないですかと香織から心配されたが、去年もやったことがあるのでこれに関しては全く心配ない。
既に食べていた光葵と直斗も一緒にいただきますの挨拶をしてくれて、ついほくそ笑んだ。
会話には混ざらずひとりで弁当を食べ進めて様子見をしてみる。
男子は亮が男の子らしくプラモデルの話を持ち出し、直斗がそれに意外と乗り気で話に付き合っている。
女子はというと光葵が一方的に話しているけど香織が楽しそうに聞いていて、たまに亮に話題を振って楽しそうにしている。
案外悪くない組み合わせだったのかもしれない。
透夜も会話に混ざり、亮からよく聞く話を背景音楽にしながら弁当を楽しんだ。
「それでさ、今度新しいのが入るんだ。一緒にいかない?」
「ついていくのは構いませんが、あまり詳しくなくて……」
「そんなにしっかり聞いてくれたのは直斗が初めてだよ。透夜はいつも聞き流してて全然話に付き合ってくれない」
「付き合いたくても置いてきぼりになるんだから仕方ないだろ。今度付き合うからそれでいいだろ」
「しょうがないなぁ」
わかりやすく肩を竦めて、亮が直斗に「こうすれば大体のことは透夜を連れていけるよ」と耳打ちしているのが丸聞こえだ。
余計なことを教えるのはやめて欲しい。
「直斗は普段なにをしているんだ?」
無理やり話題を変えて、話のペースを戻す。
「普段ですか。よく光葵のやることに付き合っているというのは違いますね。やっているとしたら読書が多いかもしれません」
「そういえば課題のときも本持ってたな」
「はい。ですので、家では特に読書にふけっています。気が付くと鳥が鳴いている時間まで起きていたことがありまして、流石にあの時は慌てました」
「すごい集中力……。ちょっと羨ましいかも」
「亮はプラモしてるから集中力あるだろ」
「ないわけじゃないけど。持って2,3時間だよ。直斗は格が違いすぎる」
それは確かにと共感した。
透夜も勉強で集中力はそこそこある方だが、休憩を挟んで4時間が限界だったからだ。
課題で見た本を駅近くにある本屋で買ってから少しずつ読み進めているものの、まだ数十ページだった。
直斗にかかればこの本は一時間足らずで読み切れると聞いてもうかなうわけないと手をあげた。
「本を読むのは人それぞれのペースがいい。流し読みしていて中身がわからずじまいで終わるよりはその方が課題でおすすめにした意味があるから」
「そうさせてもらう」
「あっ」
ぽつんと声が聞こえてその方へ振り向くと呆然としている光葵がなにか思い出したかのように透夜へ視線が向けられる。
「なにか?」
「こ、今週末、花火やるんだけど、どう?」
「お、おう。特に用事はないからいいよ」
「やったー!」
普段はあんなに気兼ねなく喋るのに誘う時だけ寡黙になるので、少し戸惑ってしまった。
花火は本当に小さい頃に一回だけやったことしかないので、誘われること自体は嬉しかった。
たまに花火をしてみたいと思う時期はあったが、家族はその時忙しく、ひとりでやるのは物寂しいと長らくやれていない。
「時間とか場所とか決まってるのか?」
「えといやその」
「こういう時はだいたい突発な場合だからまだだと思う。そうだよね」
直斗の発言にこくこくと光葵は頷いている。
何にも決まっていないなら、確かに挙動不審になるのは少しわかる気がした。
「とりあえずそろそろ時間だから放課後話し合おう。それで緑川くんもどうかな?」
「亮でいいよ。出来たらぼくも行きたいんだけどいい?」
「人が増えるのは大歓迎だからむしろ来て!」
いつもより人が多いお昼休みの雑談は放課後に持ち越しとなり、賑やかのまま終わった。
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