5.
お酒を飲んだ翌日に、二日酔いになることがある。
二日酔いを引き起こす原因となる物質が、アセトアルデヒドだ。
アセトアルデヒドについては、高校生の頃に、化学の授業で習ったことがある人も多いだろう。センター試験の化学の問題でも、アセトアルデヒドの生成方法に関する問題が出題されている。
……だが、このアセトアルデヒドという物質が、実は、爆発性を有する危険な物質だということを知っている人は、どれだけ居るだろうか?
アセトアルデヒドは常温でも大量の可燃性蒸気を発生し、遠く離れた場所にある火気からでも引火・爆発を起こすため、大変危険な物質なのだ。また、アセトアルデヒドを空気に長時間接触させ続けると、爆発性の過酸化物を生成するおそれがある。しかも、アセトアルデヒドに、光を当てたり、熱を与えたりした場合は、分解してメタンガスと一酸化炭素を発生させてしまう。メタンも一酸化炭素も、どちらも爆発性物質であり、また有毒ガスでもある。
こうした危険性を持つ物質であるが故に、アセトアルデヒドを容器に保管する際には、空気・光・熱との接触を避けて保管するのである。容器内に不活性ガスを封入して密栓し、直射日光を避けて冷暗所に保存。火元は遠ざけておく。
保管する容器の材質にも気を付けなければならない。銅や銀の容器にアセトアルデヒドを保管してしまうと、爆発性の化合物を生成するおそれがある。そのため、アセトアルデヒドは鋼製の容器に保管するのが鉄則である。
このように大きな危険性を有するため、消防法ではアセトアルデヒドを、ガソリンよりも火災・爆発の危険性が高い『特殊引火物』に指定している。
ガソリンは、少量でも大規模な爆発を引き起こす、非常に危険な物質である。だが、アセトアルデヒドは、そのガソリンよりもさらに危険性を上回る物質なのだと、消防は警告しているのだ。
……現代の高校生で、以上のような知識を学んでいる人はほとんど居ない。アセトアルデヒドの存在自体は化学の授業で何度も耳にしているはずなのに、である。
アセトアルデヒドだけではない。ベンゼン、トルエン、硝酸、過酸化水素、リチウム、シュウ酸、アニリン……等々。高校化学の授業でお馴染みの物質には、世間であまり知られていないような危険性を有しているものが、数多く存在する。
………………
この事件では、「力を持たざる者」が「力を持つ者達」を抹殺するため、知恵を磨くことに執念を燃やしていた。そして、その人物が拠り所とした知恵こそが、他の高校生が寡聞にして知らない「化学」の素養であった。
1人目の犠牲者の出現が、目前に迫りつつあった。
黄昏に触れる指 さくらおか @ryuhanasaku
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