4.

 数学の授業が終わり、昼休みの時間になった。

 キョウジは昼食を済ませた後、仲の良い男友達と会話をするために、2つ隣の教室へと入って行った。

 ある男子生徒が、キョウジが入室してきたことに気付く。

「おー、どうだった、数学のテストは?」

「さっぱりだな。数学は嫌いだ。シゲは? ……」

 キョウジと仲良く会話をするこの男子生徒は、シゲオという名前だ。シゲオは、キョウジの遊び仲間の1人で、「シゲ」とキョウジは呼んでいる。身長は173センチで、キョウジよりもやや低めだ。だが、その鍛えられた筋肉質の身体は、遠目に見ても美しさを感じさせる形をしていた。


「……それで、アレはどうなった?」

 シゲオは、何かの件についてキョウジに尋ねた。それに対し、キョウジは笑いながら返答をした。

 キョウジの話を聞いて、シゲオは手を叩きながらガハハと笑った。


 シゲオとキョウジは互いに笑い合っていたが、その笑いの「質」は、両者で若干の違いがあった。キョウジは、心のどこかでしていたのだ。


 シゲオが言った。

「そいつは良いや。明日、『』が楽しみだな」

 この『リュウグウ』とは、竜宮城のことではない。ある特定の「場所」を、彼らはこう呼んでいるのだ。

「ああ。また楽しもうぜ!」

 キョウジは、明るい声で頷いた。


 キョウジの笑顔には、安心感が含まれていた。

 ……だが、それだけではなかった。


 キョウジの笑顔の中に、秘密裏に何かを企む、無情な色が滲んでいることに、他のクラスメイト達は気付かなかった。

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