第39話 血の香り ACT5
時の流れと想いは流転する。
僕があの草原で出会った第一世代の真祖。彼は僕たちの世界とは異なるところから来た人類の一人だった。
たった一人でこの世界に流れ着いた彼は、ただ寂しかっただけだったんだ。
誰もいないこの世界に彼は生命を宿らせた。
この寂しさから救ってくれることを願い、思いを込めて宿らせた生命。しかし、その想いは通じなかった。
長く果てしない時の流れの中、彼はようやくこの寂しさを癒してくれる女性と巡り合うことが出来た。
だが、彼女と共にこの世界で過ごした時間は、あまりにも短い時間だった……。
園の命はあと持って2年。
その事実を彩音さんから訊かされた時、僕の頭の中は真っ白になってしまった。
まさかこんなことになるとは……。自分のこの血を僕は呪った。
この僕が園の命を奪ってしまったと言っても過言じゃない。あの時の出来事が全ての始まりだったんだ。
……彼女にこの牙をさし込んだあの時から。
家のドアを開けた。誰もいない静まりかえった家の中。
父さんはすでにドイツに帰っていた。
こんな時、父さんが傍にいてくれたら……。どんなに心強かったかもしれない。
いや、もうそんな甘えなんか言ってられない。
僕はすでに二人の伴侶がいる。この僕が、こんなことじゃいけない。
例え、この僕がこの世界から消えうせる運命にあろうとも……。
重い空気が僕らを包み込んでいる。
そんな中園はにっこりと僕にほほ笑んでくれた。
「景…… 、私後悔なんかしていないよ。こうして景と一緒の時間を過ごせるようになったんだもの。例えそれがどんなに短い時間でもあっても。限られた時間であっても私は幸せなんだよ」
「……園」
僕は園を力強く抱きしめた。
「ありがとう」
「……うん」園は小さく僕の胸の中でうなずいた。
そして僕らは泣いた。思いっきりこの現実を受け止めるために……泣いた。
あれから1週間が過ぎた。
すでに僕らの事は、彩音さんを通じて、園のお義母さんにも知らされていた。そして、僕のもう一人の伴侶でもある花楓にも。
この1週間彩音さんは何も変わらず、いつも通りに高校生として僕の傍にいつもいてくれている。
とりわけ何をする訳でもない。僕と園がお昼休みに弁当を食べていると、割り込むように園が作ってくれた弁当を一人で平らげて
「ああ、今日も美味しかったよ。園ちゃん」と、満足そうに言う。
放課後は生徒会室に彩音さんと花楓が僕と園の仕事を邪魔しながら、いつも通りの時間を過ごしていた。
何も変わらない時間の流れ。この何気ない時間が僕は好きだ。
僕は願う……。いつまでもこの時間が続いてほしい。と。
そんな時僕の元に届いた一通のエアメール。
この封書には見覚えがある。そして、封筒の裏にある
この前送られてきたとき、僕はその封蠟の成す意味を知らなかった。
父さんが王室の王子であり、じいちゃんが王様だったなんて……。それに彩音さんの実家が日本でも有数の財閥だったことも。
僕は本当にゴクありふれた一般庶民であるとばかり思っていた。
今思えば、じいちゃんから来たあの時の手紙。僕にハーレムを作れと書かれた手紙が来てから、僕の人生は大きく変わり始めた。
そしてこの手紙がまた新たな僕の人生の始まりとなる。
「我がいとしの景よ。汝をわれの元に誘う。バレンナシア・ルクセント・ル・バンパイア」王室の公式のサインがなされている。これはじいちゃん。いや、王としてこの僕を王室へ召喚させるための手紙だった。
そして封書の中にはもう一通の手紙があった。そこには……。
「頼斗から話は訊いた。景はまだこの地には来たことがなかったな。お前の伴侶と共に遊びに来なさい。成長したお前の姿を見てみたいからな。景のじっちゃんより」
……じいちゃん。
「行っておいでよ景。そしてちゃんと見てくるんだ、パパの生まれた国を」
彩音さんが背中を押してくれた。
すぐに園と花楓にこの話をした。園は何のためらいもなく「はい、お供します景」と、答え、花楓は「えっ! 嘘、ドイツ……本当に行けるの? 私なんか行ってもいいのそんな大それたところに? ああああ、どうしよう」話を訊いた途端舞い上がってしまった。
その3日後、僕らはドイツへと旅立つ。
「どうしたの花楓、そんなに緊張しちゃって」
「……うん、き、緊張してなんかな、してないわよ。……ただ、飛行機なんて乗るの初めてだから。大丈夫よね、落ちないわよね」
眉をぴくぴくさせながら額にたら―っと、一筋の汗を流し花楓は園に訴えていた。
「大丈夫だよ。そん時はそん時だから」
「えっ! やっぱり落ちるんだ!」
「あはあはは、そんなことないよ心配しなくてもいいよ」
「んっもぉ!」怒った顔の花楓の顔も可愛いなぁ。
「でもさぁ、この席ってファーストクラスって言うんでしょ。物凄く高いんじゃないの?」
「多分ね……でも手配は全部やってくれていたし、僕たちはただ移動すればいいだけだから」
「ふぅーん、やっぱ景ちゃんの家ってとてつもないお金持ちだったんだ」
「どうだろうね僕自身はお金持ちじゃないけど、父さんや彩音さんはそうみたいだね」
「そうみたいだねってさぁ、いずれは景ちゃんもそうなるんでしょ」
「……。どうだろうね。僕は、僕はそんな事考えたことなんかないよ」
花楓には僕のこの先に待ち受けている運命を、まだ話してはいなかった。
この世界に僕はこれから、決別をしなくてはいけなくなるかもしれないことを。
例え……その存在が消え去ってたとしても。
◇サウンドオンリー
「飛鳥景が本国に向かうらしい」
「本国とは? もしかしてこの地に来るというのか?」
「そうらしいな」
「何か大きな動きがあったのか?」
「詳細については何も分からぬ。ただ王が飛鳥景を召喚したことは間違いはない」
「まさか奴が完全なる覚醒をしたとでもいうのか」
「いや、飛鳥景はまだ完全なる覚醒までには及んではいない」
「ならばなぜ今本国へ召還させられたのだ」
「さぁな、それは分からぬ。ただの王の気まぐれにすぎないのかもしれない」
「気まぐれ? しかし……奴がこの地に来ることは我々にとっても好都合であるだろう。ただ手をこまねいてみているのも、面白くはないしな」
さて……自分の孫をこの地に赴かせ、何を企もうとしているんだ。王はいや、父さんは……そしてあんたはどうするんだい……自分の息子に対して何をしようとしているんだい。
飛鳥頼斗……。兄さんよう。
「バンパイア」としての真の力。その能力はこの世界を一瞬にして破滅させ、そして新たな世界を作りえる力を持つものに……自分の息子が成りうる器であるかどうかを見極める為なのかい?
第一世代の真祖が残した遺産。
それはこの世界を消滅させ、新たな世界を構築することが出来る能力。
真の己が欲するがままの世界を作り上げることが出る。
そう、その力を得たものは、その世界の創設者となるうることが出来るのだ。
半妖のこの俺がお前らを乗り越えるにはこの力がどうしても必要なのだ。
俺が、その世界の創設者。いや、神という存在になりうるために。
景たちを乗せた飛行機は日本を離れた。
その頃、飛鳥頼斗は宮殿の近くにある海に面した草原に一人たたずんでいた。
腕時計を見て「そろそろ彼奴らの飛行機もこっちに向かった頃だな」
海風が彼の体をまとう。
「さぁて、景よ。お前はあの「創世の草原」で、何を求めるんだろうか」
……それは。
景、お前次第だ。
第1章 ラブリーな女の子実は吸血男子だった!!
終わり。
女装っ子バンパイア女子高に転入してハーレムを築き上げる。5人の妻と共に結婚式で着るウエディングドレス さかき原枝都は(さかきはらえつは) @etukonyan
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