第85話 『辞書くんとスマホちゃん』 鐘古こよみさん

〇作品 『辞書くんとスマホちゃん』

 https://kakuyomu.jp/works/16817330653472301250

 

〇作者 鐘古こよみさん


【作品の状態】

 短編・完結済!


【セルフレイティング】

 なし。


【作品を見つけた経緯】

 鐘古さんの作品を以前も読んだことがあって、他の作品を拝見していたところ「辞書」というタイトルを見つけ、飛びつくように読み始めました(笑)


【あらすじ】

 主人公は小学五年生の田沼敦くん。彼は分からない言葉があると、すぐに辞書を引く癖があるので「辞書くん」とクラスメイトから呼ばれています。


 しかし彼は「辞書くん」と呼ばれるのに複雑な気持ちがあります。馬鹿にしたようなあだ名ではないものの、彼が言葉をなんでも知っているからと、クラスメイトたちはわざと変な言葉の意味を聞いて試すようなことをしたり、漢字テストを毎回百点満点をとるのが当たり前だと思っていたりするのです。

 本来、辞書を使って調べるのが好きであれば、「辞書くん」というあだ名は嬉しいのかもしれません。しかし、自分が思ってもみない方に捉えられたり、見られたりするので、彼はあまりこのあだ名が好きではなかったのです。


 ですが、それでも自分はまだましだと思っていました。「辞書くん」よりも、ひどいあだ名をつけられていた子がいたからです。それが松宮うららちゃんという、敦くんの隣の席に座った女の子。その子は、クラスメイトたちの陰で「スマホちゃん」と呼ばれていたのです。


「辞書くん」が女子の噂話を耳にしたところ、どうやら彼女は夏休みの間に駆ってもらったスマホに夢中で、女の子の一人が声を掛けたのに無視されたそうなのです。

「辞書くん」はその実態はよく分からないものの、大人たちが「スマホは危ない」ということを聞いていたことや、彼自身スマホを持っても何の利点もない、辞書の方が素晴らしいと思っていたので、うららちゃんに対して無関心でいました。


 ですがこのあと、敦くんは思いがけずうららちゃんの本当の姿を知ることになるのです。また彼女がスマホを持つようになった理由もちゃんとあるのですが、それは何だったのか。気になる方は是非、『辞書くんとスマホちゃん』をお読みください。


 言葉は使い方によって人を傷つけもするけれども、助けることもできる。さらには言葉にはもっと素敵なことができる可能性を、優しく教えてくれるお話です。



【感想】(ネタバレあります)

 この作品、私はとても好きです。

 読んでいると、ぱぁっと周りが晴れてくるように明るくなりますし、何よりキャラクターたちが本当に魅力的で、彼らに会うために定期的に読み直したくなります。


 最初に敦くんの叔母である里子さんが出てくるのですが、全く着飾っていなくて、でもそれがすごく素敵なんです。確かに、ビール片手にテレビ見てガハハと笑い、つまみに塩辛食べて盛大にげっぷもするんですけど(しかも塩辛を小学生の敦くんに勧めちゃう 笑)、心がとっても温かいですし、正義感もある格好いい女性です。そして彼女がいなければ、これほど早く「辞書くん」は「スマホちゃん」と本音で話すこともなかったと思います。


 さて、主人公の「辞書くん」。

 私も彼のように分からない言葉を辞書で調べる人間ですが、大人だからこそ面白いなと思ったのが次の「辞書くん」の言葉。



>ツールって、道具のことだ。心の中ではよく使うけど、言葉には出さないよう、細心の注意を払っている。なぜなら、僕が使いたい言葉を使うと、クラスメイトが「それってどういう意味?」と聞いてくるから。

>教えてあげると、「ふーん、さすが辞書くん!」と感心してくれたりするけど、それで終わり。次の時、同じ言葉を使っても、覚えている人は滅多にいない。



 これは私も経験があります。先日は「青天の霹靂」を使ったら意味を聞かれました(笑) 

 そうでなくても常に辞書を持って調べているので、周囲の人たちから「これ何」「あれ何」と聞かれることが多いです。今でこそ私自身新たな発見もあるので率先して調べていますが、それに気づくまではちょっと面倒だったので、「自分で調べたら?」と思っていたんです(苦笑)

 

 でも色んな方々とやり取りをしていくうちに、「辞書を引く」という行為は、読みなれない人が本を読むのと同じくらい、億劫なことなんだろうなと思うようになりました。

 辞書の良さを知った上で引く癖がついていると、ネットよりも辞書に頼った方が断然早いですし正確な内容が得られると思いますが、やはり辞書の使い方が不慣れだったり、普段から引かないと面倒に思うのも当然なのかなと思います。

 そのため、「辞書くん」の周りの子たちが彼に聞いてしまうのは、自分で引くよりも楽だから聞いてしまうのだろうなと想像します(彼が話した言葉だから猶更だと思いますが)。

 そして教えてすぐに言葉を覚えてくれればいいのですが、それはなかなか難しいものです。私自身、あれだけ辞書を引いているのに、正確な意味を覚えているか自信がないですし(苦笑)


 それから「スマホちゃん」。

 私は最初、タイトルを読む限り「辞書」と「スマホ」は対立的な意味として出てきているのだろうなと思っていました。確かに前半はそうなんですけど、最後を読むと辞書とスマホの良さがちゃんと引き出されていて、感動しました。


 また「スマホちゃん」が考えた自由俳句が素敵で、とってもきれいな景色が見えました。

 また彼女の俳句を聞いた「辞書くん」の反応にも、良かったね! と言ってあげたくなりました。


 言葉で書いたものをよく理解するには、言葉のことを知らなくてはなりません。表現者と理解者の相性などもあるとは思います。ですが「辞書くん」が「スマホちゃん」の詠んだ自由俳句に衝撃を受け、「負けた」と敗北を認められたというのは、彼女が作った俳句の良さが分かったからこそでしょう。


「スマホちゃん」のように言葉を用いて何かを表現することも素敵なことですし、「辞書くん」のように言葉の意味を知って積み重ねることも大切なことです。

 この先のお話は書かれていませんが、想像するだけで二人はお互いいい影響を与え合うんじゃないかなと思いました。


 私は「辞書くん」も「スマホちゃん」も言葉に真摯に向き合っていて素敵だなと思います。よかったら私も、彼らのお話の輪に混ぜてほしいくらいです(笑)


 最後になりますが、このお話はきっと「言葉」に興味がある方なら、楽しく読めることでしょう。おすすめです。


 今日は『辞書くんとスマホちゃん』をご紹介しました。

 それでは次回、またお会いしましょう。

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