第77話 『【KAC2023③】ぐちゃぐちゃ悪魔と文字使い』 鐘古こよみさん

〇作品 『【KAC2023③】ぐちゃぐちゃ悪魔と文字使い』

 https://kakuyomu.jp/works/16817330654073681042

 

〇作者 鐘古こよみさん


【作品の状態】

 短編・完結済。


【セルフレイティング】

 なし。


【作品を見つけた経緯】

 私が書いた作品『☆KAC20236☆ アン・ラッキー7』にコメントを下さったり、『色彩と西洋絵画』をフォローして下さったこともあって、どいういう方なのかなと思いプロフィール欄を見に行ったのがきっかけです。


【ざっくりと内容説明】

 グーテンベルクの活版印刷と悪魔と宗教を題材にした作品です。


【感想】(少しネタバレしています)

 KACのお題「ぐちゃぐちゃ」というお題から、まさか活版印刷の話が出て来るとは思いませんでした。しかし、活版印刷のことをご存知の方であれば成程納得。知らない方も、当時の歴史的背景や宗教のことにも触れることができて、きっと楽しむことができると思います。


 まずは、物語の流れを簡単にご紹介しましょう。

 活版印刷の印刷工房には悪戯好きの悪魔・ティルが住んでおり、時々活版印刷に必要な金属の文字の型をぐちゃぐちゃにして困らせるのです。しかし、不思議なことにイェルクという少年にしか見せません。印刷工房の兄弟子たちには見えないので(でも悪魔の仕業ということは分かるようです)、イェルクにその悪魔を何とかしろと言うのですがどうなるのか――というのが大まかな粗筋です。


 活版印刷が登場したのは15世紀半ば。

 このときまでは本など増やす場合、手書きで書き写す必要がありました。そのため本は高級で、お金がある人しか手にすることが出来ませんでしたし、庶民が本を買って学問を学ぶのはとても難しかったのです。

 それが、ドイツのグーテンベルク(本名はヨハネス=ゲンスフライシュ)が実用化したことで、手書きの写本に比べて手早く作れて、安価で沢山印刷することができるようになりました。


 この「安価で沢山の本を印刷できる」というのは、当時の宗教改革にも影響を及ぼしています。

 マルティン・ルターという人物をご存知かと思いますが、彼はこれまでラテン語でしか書かれていなかった聖書や宗教関係の書籍をドイツ語に訳します。それを活版印刷で沢山印刷し、多くの人々の手に渡るようにしたのです。


 冒頭で『【KAC2023③】ぐちゃぐちゃ悪魔と文字使い』には、悪魔が出て来ると書きました。

 悪魔とはキリスト教のなかで「人の心を惑わし悪の道に誘おうとするもの。悪の象徴で、全の象徴である神に敵対する(『明鏡国語辞典 第三版』より)」という、悪いものとして扱われているのですが、どうやらこの作中ではそうではありません。


 ドイツ……というよりもゲルマン人と言った方がいいですかね。彼らにはゲルマン特有の地域信仰がありました。(日本の八百万の神々に近いものがあると思います)

 これは作品を読んで私が思ったことですが、それらがキリスト教が入って来たことで排除され、本当は精霊や妖精だったものが悪魔のような扱いを受けていたのかもしれません。


 その悪魔が、宗教関係の印刷をしている印刷工房に現れて、活版印刷に使う金属の活字(一文字ずつになっているもの)をぐちゃぐちゃにしてしまうというのは、何とも運命的なものを感じます。


 また当時の宗教改革やカトリックとルター派のことも盛り込まれつつも、上手くまとまっていてとても面白かったです。「宗教の話」と聞くと敬遠する方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそれらの良し悪しを語るものではなくて(信仰を勧めるとかそういうのでも決してありません)、それらがどのように捉えられるのかということが客観的に書かれているので、嫌悪感もなく読めるのではないかと思います。


 気になった方は是非読んでみてください。


 今日は『【KAC2023③】ぐちゃぐちゃ悪魔と文字使い』をご紹介しました。

 それでは次回、またお会いしましょう。

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