2023
1月 January
第68話 『私の懺悔録』 大田康湖さん
〇作品 『私の懺悔録』
https://kakuyomu.jp/works/16817330650355868257
〇作者 大田康湖さん
【作品の状態】
短編。完結済!
【セルフレイティング】
なし。
【作品を見つけた経緯】
いつも作品を読みに来てくださる常連さんです。また私は、大田さんの『私の創作遍歴』を時折拝読しております。
【コンテスト】
『カクヨムWeb小説短編賞2022』に参加中。
【ざっくりと内容説明】
タイトルから察することができると思いますが、作者さんの苦い思い出です。
【感想】
率直にいい話だなと思いました。
作者さんが過去の過ちについて赤裸々に語っていますが、読んだ人の多くは気持ちが少し楽になるんじゃないかと思うんです。
もちろん、作者さんが過去に犯してしまったことは、しないに越したことはありません。
しかし、人の心というのはときにコントロールが難しくなるものです。
やっぱり怒られるは嫌ですから、壊したことを隠すこともあるでしょう。時にはスリルや快楽を味わいたくて、愚かなことだと思いながらもしてしまうこともあると思うのです。
特に子どもの頃の気持ちの制御は難しいもの。きっと苦心した人は少なくないのではないでしょうか。そしてそういう気持ちを持っている人ほど、この作品の良さを感じられると思います。
ちょっと話は逸れまして。
私は日本語関連の話を書くにあたって、よく井上ひさし氏の書籍を読むのですが、そのなかに氏が中学生の頃、辞書を盗もうとした話が書かれていたことがあります。
ほんの出来心で行ったそれは、店のおばあさんに見つかって失敗に終わるんですけど、氏は薪割をさせられるんですね。「お金を払わないで盗っていく人がいると、本屋は成り立たなくなるのよ」と言われたこともあり、てっきり罰を与えられたのだと思っていたら、作業が終わると、おばあさんは氏が盗もうとした辞書をくれたのです。しかも、それだけではありません。薪割をした賃金から辞書代を引いて余ったお金までくれたのです。
氏がしたことは悪いことです。お金を払わないで盗っていく人がいると、本屋は成り立たなくなっていく。当然です。
ですから、普通なら怒るでしょうし、警察に相談するでしょう。まあ、井上氏が子どものころの時代は今よりもゆるい感じだったでしょうから、それが当たり前だったわけではないかもしれませんが、それでもおばあさんのやったことはすごいなと思いました。
彼女が「働くとお金がもらえて、それで欲しいものが買えるのだ」ということを教えてくれたことで、氏は「まっとうに生きること」を学んだと書いていました。
私はこの話を読んで、世間で立派な人でもそういう「いけないこと」をしたことがあるんだと思って、ほっとしたような気持ちになったことを覚えています。
自分の犯した過ちを語ることができるというのは、とても勇気がいることでしょう。でもそれを反省した気持ちがありつつ発信したのであれば、きっとそういう気持ちを抱いている人を思いとどまらせる効果もあるように思うのです。
立派に思える人間でも過ちを犯すことがあると知っていたり、清廉潔白そうな大人にも「間違い」があったことがあると、寧ろ「ちゃんとしなくちゃ」というガチガチに固まった心がすこしほぐれるような気もするのです。(もちろん、悪いことはしてはいけませんが)
あとは、間違いを反省できる大人は信頼できるなと、私は思います。
『私の懺悔録』に書かれた出来事は、作者さんのなかでずっと反省すべきこととして心の中にあるのだと思います。きっと「しなきゃよかった」と思っていることでしょう。しかしその気持ちは、作者さんの心の隅にずっとあって、人生の中で活かされているんじゃないかなと思いますし、読んだ人の心に温かな光を与えてくれるようにも思います。
今日は『私の懺悔録』をご紹介しました。
それでは次回、またお会いしましょう。
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