第69話 『リアル・マシュマロ・ブレッド』 矢向 亜紀さん
〇作品 『リアル・マシュマロ・ブレッド』
https://kakuyomu.jp/works/16817139557813171479
〇作者 矢向 亜紀さん
【作品の状態】
完結済。短編です。
【セルフレイティング】
なし。
【作品を見つけた経緯】
自主企画「SF・ファンタジーの本棚。」から見つけました。
【コンテスト】
「カクヨムWeb小説短編賞2022」に参加中。
【ざっくりと内容説明】
世界中のありとあらゆる武器が、マシュマロになってしまう世界の話です。人を殺める武器が、甘くてふわふわのお菓子になったら戦争がなくなっていいですよね。……と、最初はそう思うのですが、だんだん不穏な雰囲気に変わっていき、話しはそんな簡単には終わらない――というのがこのお話です。
【感想を書いた後に思ったこと】
星新一氏の『おーい でてこーい』を思い出しました。
【感想と紹介者なりの解釈】(ネタバレしているので、読む方はお気を付け下さい)
物語の舞台は「現代」。ですが、SF風(なのかファンタジー寄りなのか、いい意味で判断が難しいところです)の作品です。
SNSでは「#リアル・マシュマロ・ブレッド」(←作中では英語です)が広まっている世界。それは地球上にある、ありとあらゆる武器がマシュマロになる現象で、人々はそれを撮影し、SNSにアップしているのです。
国際機関もマシュマロ化現象を認め、「液体系兵器はジンジャエール、気体系兵器は綿菓子に。殺傷能力の高い兵器ほど変化が早く、その殺傷能力がなくなるとマシュマロなどの菓子類になる」ということを発表します。
マシュマロ化した武器はただのマシュマロです。そのため食べてしまう人もいました。どんな影響があるのか分からないものの、お腹を壊した人の報告はなかったので、とりあえず体に害はなさそうです(本当のところは不明です)。
人を殺す武器がなくなったことで、世界は平和になった。はずでした。ここまで読んで下さった方もきっとそう思ったことでしょう。
でも、違うんです。
『リアル・マシュマロ・ブレッド』を読んでいて思ったのは、この世界では「偽造の平和」みたいなものが作られているということ(私の解釈です)。
主人公のニッパは、武器がマシュマロになっていく関連の投稿に対し、「いいね!」を付けていきます。しかし、どこか疑っているような部分もあるのか、特に「いい」と思っているわけでもなく、反射的にそうしているのです。
これは後半になると分かって来ることですが、ここでは「平和」が押し付けられているのです。変ですよね。平和って誰もが望んでいるはずのことなのに、それが周囲の目によって監視されているのです。
ニッパの家には、祖父の持ち物である日本刀があります。
日本刀はもちろん武器になり得る。文化的財産だったとしても、人を切り殺すことができるのですから武器なのですが、まだマシュマロになっていないのです。それは何故なのか。はっきりとは分からないものの、マシュマロ化するには「殺意」の度合が問題であることが報告されています。ということは、これまでの武器には「殺意」があったことを意味します。
マシュマロ化しない日本刀。しかし、大人たち(ニッパの両親たち)は日本刀の存在を見ぬふりをします。
祖父の持ち物である日本刀が家にあれば大問題だからです。まるで「平和を願っていないだろう」と周囲に後ろ指をさされることを恐れているためです。
一方で、武器のマシュマロ化はどんどん加速していき、人間にも及ぶようになります。つまり暴力的になった人間の腕や足などが全部マシュマロになっていくのです。
こうなってくると人々はマシュマロ化を恐れていきます。
あれほど安全になったかと思った世界が、今度は思考すらも不自由になります。
マシュマロ化して人々が最初に喜んでいたのは、明確な武器が「無効化」されたからです。ですが、私たちの人間の世界では切っても切り離せぬ鋭い道具がありますし、抱く気持ちもあることでしょう。
それがいちいち「マシュマロ化」することによって、目に見えていたら大変なことになります。
人々は武器ではなく、マシュマロに支配されたということでしょう。
そしてSNSで広がっていったある慣用句が、正の感情の意味にも、負の感情の意味にもなる『リアル・マシュマロ・ブレッド』の世界。
ある意味で、兵器だらけの世界よりも恐ろしいかもしれません。
そういえば、武器がマシュマロ化したマシュマロは、殺意を飲み込むのだと書いてありましたが、それを食べた人間の「殺意」は飲み込んでくれたのでしょうか。
想像が膨らむお話。皆さんも読んで、考えてみてはいかがでしょうか。
今日は『リアル・マシュマロ・ブレッド』をご紹介しました。
それでは次回、またお会いしましょう。
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