絶体絶命

架橋 椋香

生きるから、少しずつ凍んでいく。

 台風は徐々に勢力を落とし、明後日には熱帯低気圧になる予報です。

 テレビを消して、部屋(≒私)は少し寂しくなった。先日、断捨離をしたばかりの私の部屋は、算数の立体図形のように味気ない。合わせ鏡を連想した。初めて合わせ鏡を覗いたとき、ちょうどを理解したみたいに。

 さあ、お気に入りのかわいい服を着て、散歩に出かけよう。スカスカのクローゼットから目をそらす。

 家を出て、伸びをして、駅とは反対方向へ。

 思わずスキップしてしまいそうな、ミカン果汁みたいな空気。麦わら帽子の小さなリボンは、帽子に糊でくっつけられている。彼に自由はないのだ。

 自由を奪われたリボンが、それでも少し嬉しそうに見えるくらい、世界は夏を吸っていた。


 最寄り駅の隣の、いつもは通過すらしない方の駅に到着。いつもは降りないその駅には、アイス屋さんがある。チョコミントとのダブルをカップで頼んだ。

 小さなカップにふたつ入っている丸いアイスは、兄弟みたい。宇宙人みたいな、少しだけグロテスクが入った、エメラルドグリーンとピンク。それは、みらいの色だった。

 冷たくて甘い未来が、融けてになってしまわぬように、プラスチックの透明なスプーンで、すくう。

 でも本来、未来を食べるのは子供がすることで、私みたいな大人は、棒アイスの木の棒を舐めつづけるみたいに、過去を食べるものだ。

 だからあの頃、私がと揺れていたのは、きっと、ちょうど未来を食べ終わって、過去を食べ始めようとしていたからなんだろうな。そんなこと考えて、ひとり苦笑。こんな風にあの頃のことばかり考えるのが、ということだ。そんな最高のギャグは、なぜかみたいに酸っぱかった。

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絶体絶命 架橋 椋香 @mukunokinokaori

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