第33話 【おまけEP】秘めた想い

※今話はおまけエピソードです※

※孤児院のおかえりパーティー中、アーシャがママと話している時、食卓の隅でダニーとゴンスは何やらこそこそ話していました。その様子をどうぞ※

……

……


 騒がしいほどに賑やかなパーティーの最中、長い食卓の隅に座るゴンスは、ちょいちょいとダニーを手招きした。ダニーはいぶかしげにゴンスの横に腰掛け、目の前の揚げ鶏を頬張る。ゴンスは、森豚のステーキにかぶり付きながら話しかけた。


「あーん、もぐむぐ……どうなのダニー、アーシャとは」

「ごふっ! いきなり何だよゴンス」


 唐突な質問に、ダニーは思わず揚げ鶏を吹き出しかける。


「いやー、兄弟皆さあ、応援してるわけよ」

「だから何をだよ」


 ダニーは口直しに水を飲み、腕で口を拭った。


「好きなんでしょ? アーシャのこと」

「! おま、何で!?」


 当たり前のようにステーキを食べるゴンスと対照的に、ダニーは慌ててアーシャをちらりと見た。アーシャはママとの会話に夢中で、ダニー達の会話には気を留めていないようだった。


「むしろ隠してたの? ママも兄弟も皆知ってるよ。わかってなかったのはアーシャだけじゃない?」

「まじかよ……ママも? めっちゃ恥ずいわ……」


 ダニーは赤くなった顔を両手で覆い隠し天井を仰いだ。ゴンスはステーキに続けて、根菜のポトフをパクパク口に運んでいく。


「騒がしい孤児院を出てさー、2人で樹都に出たじゃん。進んでんのかなーって」

「……いーや、何もなし」


 ダニーは天井を仰いだまま、手をだらんと下げてぼやく。


「結構オレ、はっきり言ったつもりなんだけどなあ……リアクションないんだよなあ……」

「おー、告白したの?」


 ゴンスはついに食事の手を止め、興味津々に聞いた。


「アーシャもいる場で、聖女様に『守りたい大事なものは何だ』って聞かれたから、『アーシャです!』って言ったんだよ」


 天井を仰ぐのをやめ、ゴンスに顔を向けるダニー。一方ゴンスは、大きなため息をついた。


「はあ~……それ全然ダメ。皆の前で言われたって、恥ずかしいだけだよ。あと意味が広くて『大事な家族として』守るとも取れるから、アーシャからはリアクション取れないよ。ただでさえアーシャは兄弟意識強いんだから」

「……そうだよな……」


 ゴンスは期待が外れたとばかりに、揚げ鶏を口に頬張る。


「そんなんじゃあ、変な虫がついちゃうよー。樹都は人が多いんだから」

「変な虫……どころか、白馬の王子様がついてんだよなあ」

「はあ? 王子様?」


 ため息をつきながら不思議なことを言うダニーに、ゴンスは驚きの声をあげた。


「ちょっと前、夜にアーシャの部屋で会う約束をしてたんだよ」

「おー、いーじゃん」

「ところがいざ行ってみたら、上等な白のロングコートを着た超イケメンが車で来ててさ、アーシャをどっかに連れてったんだ。しかもアーシャ、お揃いみたいにおしゃれな白のワンピース着てて」


 ダニーは、あの日のすれ違いを思い出し、再びため息をつく。


「あとでわかったんだけど、その超イケメンは実は王子様だったんだよ、本物の。どーいう関係なんだろうなあ」

「聞いてないの? アーシャに」

「聞けるかよ!」

「チキンだなあ、ダニー」

「……うるせえ」


 ダニーはぐいと水を飲んで、タンと卓にコップを置いた。ゴンスもがぶがぶと水を飲む。


「まーでも、アーシャは本物のイイ男見慣れてるからねー。イケメンだからとか王子様だからとかじゃ、惚れたりしないと思うよ」

「イイ男……? ああ、確かに……≪英雄≫は格が違うわ」


 余計にへこむダニーの背を、ゴンスは肉厚な掌でどんと張る。


「だーいじょうぶだって! ダニーもイイ男さ。例えば、ほら、えと」

「ねえのかよ!」

「ははは、まあとにかく、兄弟達はみんな応援してるから。アーシャのこと、頼んだよ。ほら、行った行った」


 張った手でポンポンとダニーの背を押し、アーシャの方へ行くよう促すゴンスに、ダニーはやれやれと立ち上がる。


「……ったく、余計に意識しちまうじゃねーか」


 ポリポリと頭をかきながらそうぼやき、すごすごとアーシャのもとへ向かうダニー。ゴンスは、仲良く話すアーシャとダニーをしばらく食卓の隅で眺め、誰にも聞こえない声でひとり呟いた。


「……意識しなよ。ダニーだから、応援してるんだぞ。僕じゃ、アーシャの隣には立てないから……。あーあ、うちは皆ヘタだね。ダニーも、ママも……僕もさ」


 やがて宴もたけなわになった頃、ゴンスは「よし」と立ち上がり、アーシャとダニーのもとへ向かった――……



……

……


※このあと、「で、若草は?」に繋がります※

※以上、おまけエピソードでした※

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る